6/53 無知たるは許されえるか?(エイヴァ視点)
またまた間が開きまして……(;´Д`)
最近忙しい&スランプにより、しばらく不定期更新になるかもしれません。
我は叫んだ。自信は満々だった。
しかし、返された視線は冷めたものだった。
「……あのね、一人でやるより、役割分担した方が効率がいいのはわかるよね」
「ひぇっ」
エルシオが怖い。思わず変な声が、出たぞ……?
「と、言うよりも、あなた、わかっているの? あなたが『魔』であることは、まだ知られるにはあまりにも時期尚早なのよ。それなのに全力で暴れてここら一帯を更地にして、どう言い訳するつもりなの? いくら寛容な学院のみんなでもさすがにごまかされないわよ? 記憶を操作するなんて寝言を言ったら私があなたの記憶を吹き飛ばすわよ、物理で」
「そもそもここは国境近くでもあるんだよ。他国との力関係を崩さないための配慮も必要なのに、それを考慮するという思考すらないでしょう、エイヴァ君。論外だよ」
「それを踏まえて役割分担の話に戻るけれど、魔物を相手にするには後々の悪影響をのこさないために殲滅と浄化が一体になって行われなければならないというのはわかっているわね。つまり、攻撃と防御・浄化はセットでなければならないのよ」
「だからその『浄化』を僕が任されたんだよ。その意味が分かる? わかるよね。僕は『結界の外にいる』んだよ、エイヴァ君。君の手加減なしの攻撃を完全に防ぎきる自信はさすがに持てないかな。それにシャロンがすでに援軍を呼んでいる。殿下ならそう時間をおかずに部隊を派遣してくるよ。彼らももちろん『結界の外』で戦うわけなのに、君は巻き込まずに戦えるの? 現時点で、手加減ができていないんだから、無理だよね?」
怒涛の言葉攻めだった。冷めた視線。表情はほぼ無。交互にしゃべるシャーロットとエルシオ。そして早い。めっちゃ早い。多分三十秒もかかっていないのにこのセリフの量である。息継ぎをどこで行っているのだろうか? なのにこのなめらかかつ聞き取りやすい言葉。息が合いすぎて我、我、返事すらさせてもらえない。泣きたい。あれ? あれ? 我、もしかして、これ、いじめられている……?
「我、……我、だって、」
「だってもさってもないよ。事実だからね。認めて、エイヴァ君。ちょっと厳しい言い方かもしれないけどね、時間、ないんだよ」
「だって、我……うぅ、」
「と、いうか、そうね。いろいろと並べたけれど、私としては一番言いたいのは一つなのよ」
エルシオ、シャーロット、エルシオ、シャーロット、と視線をさまよわせながら、それでもまだ打開策を探していた我に、シャーロットは浅く息を吐いて、言った。これにはエルシオもわずかに首をかしげて、シャーロットを見る。
そして、
「……エルに傷ひとつつけるのも許さないわ。もしそれをされたら、――――――――命乞いさせてから生き地獄みせんぞ、あ゛?」
シャーロットは完全に無表情だった。絶対零度の吹雪が吹きわたった気がした。我とエルシオは真っ青だった。「『はい』って答えて! 今すぐ!」と、見合わせた瞳で、エルシオは我に訴えてきていた。訴えられるまでもなく我は叫んだ。
「イエス! わかった! 了解だ! もちろんだ! 我の仕事だ! わわわわ、我、頑張るうううううう!」
「ほほほら、シャロン、シャロン、エイヴァ君もああいってるから! 僕は大丈夫だから! みんなで一緒に頑張ろうね! もう時間もないし! ね!」
ここにきて本日初めて、エルシオが我の味方に回った瞬間である。シャーロット、怖い。何が怖いのかもはやわからないくらい、怖い。
「そう。判ればいいのよ。物分かりがいい子の方が、私は好きよ」
そういったシャーロットは背筋が凍るほどやさしく微笑んでいた。
「「そ、そう(か)……ははは……」」
我とエルシオは声をそろえて怯えていた。逆らってはいけない。逆らってはいけない! 我とエルシオの心は一つだった。
ともあれ、我はこうして説得された。もはや全力を尽くすしかあるまい。シャーロット、怖い。我、泣きそう。しかし時間は待ってはくれないもので、いざ出陣である。皇女のそばにいつもいる、騎士の女を加えた、我ら、四人で。
――広大な草原。はるか向こうの森から押し寄せる魔物の大群。我らの背後には教師どもが結界を展開して半球状に守りを施している。そこそこの強度を持っていることは我にもわかる。だが、まあ、『そこそこ』、だ。多分、かの『森』の魔物相手には、長時間は持つまい。
ゆえに、任された、我の仕事はそれをさらに、『気づかれないように』『守る』こと。
それは、学院の生徒らだけではなく、草原を抜けた先に広がる村々や街に魔物が行かないようにする、というものも、含まれるらしい、
だから我は、力を制限する腕輪を外す。そして我の力を、大気に拡散する。薄く、薄く。遠くへ、遠くへ。広く、広く。高く、高く。
この草原を、森を、隔絶する。気づかせないように、しかし強固に。地平線の果てから果てまで、土中から蒼天まで。巨大な守りを施す。……はた目には、教師どもの結界の補強に我も一役買っているようにしか見えぬだろうが。
そして我は前を見る。さすがにこの規模の結界は我といえども多少の集中が必要だが、それでも、見ている。飛び出していった、シャーロットと、エルシオと、そして騎士の女を。だって、行く直前。シャーロットは言った。
「エイヴァ。私たちの『戦い方』を、きちんと見なさい。そして、考えなさい。あなたは自分で言ったように、楽しいことが好きでしょう。戦うことが好きでしょう。でも……あなた、本当に、」
見透かすような、アメジストの瞳。
「本当に、楽しいだけでいいのかしら?」
それは、どういう意味だったのだろう。その、答えはここにあるのだろうか。
我は、何を、考えなければならないのだろうか。