6/52 どうしてと叫ぶ、彼の(エイヴァ視点)
シャーロットは皇女やほかの生徒に指示を出し終わると、我ら、『別』で動く超少数精鋭たちにも、指示を言い渡す。
「――エル。あなたは回復の要よ。光と風の魔術で常に浄化も意識しつつ、私の後ろに。自分の身は自分で守れるでしょう?」
「うん、了解」
エルシオは反論することなくうなずく。まあ。エルシオはあまり攻撃が好きではないようだ。優しいからな。怖いけどな! ふむふむ、と我もうなずいて、納得していた。しかし!
「エイヴァ。あなたは守護の要だわ。結界班に気づかれないようにみんなを守りなさい」
エルシオの次に言われた、我への言葉に、我は叫んだ。
「なっ!? またしても!?」
驚愕である。むしろ、我の心境は絶望である。
「なぜだ!? 我、我、孤児院の時だって我慢したのに! 今日は、今日はほら、腕輪だってつけているぞ? 我、すっごくイイ子だったぞ!?」
忍耐の限界により、我は叫んだ。すでに動き出していた喧騒により、周囲には聞こえなかったようだが、近くにいたシャーロットとエルシオには十分な声量だったようで、それはもう笑顔で「うるさい」と言われた。理不尽である。
「いや、ちょっと考えればわかるでしょう? この場面で駄々をこねないでほしいわ?」
「わからぬううううう! 我も遊びたいいいいいいぃぃぃ!」
我、もはや、涙目である。しかしシャーロットは額に手を当てて、エルシオに話しかけている。
「……なぜ、私がエイヴァをいじめたみたいな絵面になっているの? 解せないわ。そしていじめられているのはこっちの気がするわ。『お父さん』、この駄々っ子を何とかしてくださいな」
「『お父さん』じゃないよね。きっとそのポジションはジル殿下だよ。そして無茶ぶりしないでシャロン。一緒に頑張って説得しようよ。時間もないし」
「そうね。でもジルは『お父さん』ではないわ。これ以上エイヴァの性格がゆがんだらどうするの」
「すでに歪んでいる前提の発言だね。うん……うん、まあそうだね」
「そうよ。――で、エイヴァ。判らないのなら説明するから、聞きなさいね」
わからせるから。
そう、シャーロットの瞳は語っていた。怖かった。ちなみに、先ほどまでの二人の会話は、エルシオがまさかの我の味方ではなかったことに我がショックを受けていた、数秒のうちに超高速で交わされたやり取りである。やつら、我の認識はどうなっているのだろうか。
しかし脊髄反射で姿勢よく聞く態勢に入る我。おかしい、我、馴らされている……?
けれど我が我自身に抱いた疑問を考える間もなく、話は始まる。
「まず、腕輪ね。それは確かに、あなたの魔力を調節するものだわ。でも、それがいつも使用しているものとは違うことは、出発前に話したでしょう?」
「エイヴァ君の力は大きすぎるからね。いつも学院に通うときも、入学時の数値に合わせたものをつけてもらってるけど、今回は僕たち以外と一緒に行動するから、いつもより、さらに抑えて、出力がごく一般的な人と同じくらいになるようにしたんだよ」
それくらい、覚えてるよね? とエルシオの困り顔が圧力をかけてきた。器用である。
「う、うむ。聞いていたぞ! 覚えて、いるぞ?」
「それはよかった。でね? エイヴァ君。その魔道具って、二つで一つ。つまり、機能するにはその腕輪だけじゃだめだっていうのはわかってるかな?」
「う……うん?」
「つまり、あなたのその腕輪、見た目というか、それそのものはいつものものと同じよ。でもその機能は調節されているわ。その調節を行っているのは、ランスリーの本邸においてある『もう一つの魔道具』……仮にこれを発信機、腕輪を受信機としましょう。発信機の方で数値設定をすることで、それを受け取った受信機が機能する。発信機の機能としては使用者の魔力を適度に循環・拡散したりとかいろいろあるけれど原理は省くわよ」
「その発信機の調節には時間がかかるから、まあ、今調節するってわけにはいかないよね。でも、腕輪を外して本来の力で戦おうとしたら、……エイヴァ君、まだ、攻撃力の調節、できないでしょ?」
「コ、コントロール、できるようになったぞ? エメと、ゴリラ作ってるぞ?」
「ええ、孤児院に通って氷像で子供たちと戯れているのはとても微笑ましいと思うの。感染するゴリラ愛にあなたの部屋がゴリラの人形であふれようとしているのはどうかと思うけれど」
「ゴリラは素晴らしいぞ! あの毛並み! つぶらな瞳! 優し気な表情!」
「今の問題はそこではないわね。ゴリラ愛の布教は今度にしなさい。問題は、その器用で緻密なコントロール技術がどういうわけか氷像づくりにしか発揮されないことよ」
「この夏、ゴリラ鑑賞会のためにはるか南の未開の地に行って、現れた魔物相手に『小手調べ』なんて言っていたにもかかわらず、不毛の大地を作りかけたよね。シャロンと僕が一緒で結界を張ってなかったらあの一帯はきれいに更地になってたよ。忘れたとは言わせないからね」
「うっ」
「はっきり言って、今日の威力調整されている腕輪をつけた状態の出力だと『森』の魔物相手には火力不足よ。でも腕輪を外したら火力過多。魔物しかいないのならそれでいいけれど教師陣プラスαで張った結界ではあなたの全力攻撃には耐えられないわ。エルやジルの結界でも難しいもの」
「シャロンの結界くらいだからね、エイヴァ君を止められるのは。だから今回はエイヴァ君は腕輪を外した状態での結界づくり。判った?」
怒涛の説明だった。我は目を白黒させた。我はうなり、何とか考え、そしてひらめいた。
「ううううううぅ! はっ! な、ならばシャーロットが結界を張ればいいではないか!」




