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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/51 面白いこと、楽しいこと、ずっと、(エイヴァ視点)


 つまらない。つまらないのだ。だって、だって、だって。


 ――学院行事。校外実習。楽しみにしていたのだ。シャーロットやエルシオとは別の班になって、その人間たちと一緒に動くことになって。全部壊すのはダメなのだと、シャーロットにもエルシオにも、ジルファイスにも言われたから、我、すごく我慢したのだ。それで、それで、おしゃべりもした。結構、このクラスには、面白いやつが多いのだ。


「エイヴァ君、今日はよろしくお願いいたしますわ。緊張しますけれど、きっとコラード先生やマイヤー先生の方が怖いですわよね」

「いつもシャーロット様たちと一緒にいるから、あまり話す機会がありませんでしたね。ですが、君の魔術の腕はいつも素晴らしいと思っていたんです。今日は、一緒に頑張りましょう」

「エイヴァさん、あなたのその、シルヴィナ様にもシャーロット様にもひかずにまっすぐ話せる強さに日々驚いておりましたの。ときどき激しくしばき倒されているのを拝見していったい何をしてしまったのかとも思っておりますけれど。ともあれ、一日、実習にともに臨めて光栄ですわ」

「よろしくね、エイヴァ君。なんだかこうして話すのは久しぶりだね? あの時は僕も緊張してしまって……今は大丈夫だから!」


 顔合わせの際の挨拶である。変態に遠い目をしていたり、純粋に魔術に興味を抱いていたり、本当に『光栄』と思っているのかわからないやつだったり、誰かと思えばずいぶん前に『会話の練習』と言われたはいいものの、全く話が続かなかった少年だったりした。


「うむ。よろしく。お願い、します」


 我は言葉少なに返したが、特に気にする様子もなかったのはさすが、シャーロットの言っていた通りだなと思った。なんでも、身分的には平民に近い感覚を持つ男爵家・子爵家の子息令嬢で、かつ穏やかな気質、あるいは周囲をあんまり気にしないマイペース系で固めた、と言っていた。


「あなた、自分こそがどこまでもマイペースだってわかっているの? そんなあなたと行動を共にするのだから、心が海のように広いか精神が鋼のように強いか、そもそもあまり気にしない柳のようなしなやかな質か……とにかく、円滑なコミュニケーションをとれる人間は限られるのよ」


 特に、対外的には我には『身分』のない平民であるうえに、見ようによっては高位貴族に気に入られている成績優秀者ということで、妬みを買いやすい立ち位置になってしまうので、そういうのも気にしない人間でないといけない、らしい。


「うちのクラスの皆さまは寛容だし、変態どもによって身分的垣根意識はずいぶんと低くなっているし、学院という場所の表面的理念も中身を取り戻しつつあるから、まあ大丈夫でしょうけれど」


 そういいつつ、エルシオと何やら相談しながら、「あなたは、あちらの方々と一緒の班よ。失礼のないようにしなさいね。敬語を使うのよ。思ったことをそのまま言葉にしてはダメよ。きちんと考えて発言をするのよ。考えて答えが出なければ、いっそ黙っているのよ」「……シャロン、シャロン。それだと完全にエイヴァ君のお母さんだよ。エイヴァ君だってわかってるから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。……でもね、エイヴァ君。やっちゃったな、って思ったら、無理せずに僕たちに言うんだよ? 大事になってからだと困っちゃうからね? 暴力や力業で解決しないように、って何度も言ったけど、覚えておいてね?」「エル、私がお母さんならあなたはお父さんね? なぜ年齢詐欺の同級生の保護者にならなくてはならないのかしら? 解せないわ」「……解せないね」などと助言なのか愚痴なのかよくわからない念押しをされた。


 しかし我は頑張っている。殴っていないし、吹き飛ばしていないし、記憶も操作していないし、迷子にもなっていない。敬語(?)も使っているし、わからないことには黙っているのだ! 我、我、やればできる子なのだ!


 本当は、本当はな、シャーロットについてきている『影』の者どもと遊んだりとか、森の方が気になったりとか、空を飛んで行った方が転移門でいくよりも早いのにとか、せっかく草原だからカッコいい技を使いたいとか、いろいろ思うのだぞ! 我慢、しているのだぞ! えらいのだぞ!


 ……むう、実習、楽しみだったけど、結構ふつうだったのだ。でも、みんなで協力で魔物を倒すのは、割と面白かった。魔物、もっと強ければ、きっともっと楽しかったのに。防御二人、攻撃二人、陽動一人に分かれてな、我は陽動役だったのだ。標的の目を火の魔術と光の魔術でくらませてな、防御二人は我と、攻撃二人の前に水で結界を張ってな。魔物は黒い瘴気を吐き出したけどその結界ではじいてな。それでそれで、我の陽動で魔物の気が我に向いた隙に、攻撃の二人が雷で焼いたのだ! 教師もほめていたのだ! 我、我の炎で焼き尽くせたし、そもそも話しかけたら我に従うのはわかっていたけど、ダメって言われたから、頑張ったのだぁ!


 ちょっと物足りなかったけど、ちょっと魔物が普通だったけど、面白かったのもあったから、まあいいかと思っていた。


 でも、あとちょっとで全部の班が終わるというときに、すごく楽しいことが起こったのだ! 魔物の氾濫! 強いのがいっぱいだ! その手があったかと思った我は悪くない! それをそのまま言葉にしたら、怒られたけど。……目が、目が、怖かったのだ……。


 でも、これで暴れられる! と思った。やったぁ! と思った。


 でもな、でもな、シャーロットがだめって言ったのだ! 意地悪だ!








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