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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/48 それぞれの役割

遅くなって申し訳ありません(;´Д`)


 さて、士気が上がったところで、時間はない。本当に。なので余計な前置きもお遊びもなく、サクッと役割分担を言い渡す。


「まず第二回生。逃げるのが最優先ですわ。転移門に近いクラスから、班ごとに離脱。代表は各クラスの上席が務めて統率しなさい」

「「「はいっ!」」」

「いい返事ね。そう、それから私たちのクラス代表は、そうね。……シルヴィナ様。あなた様にお任せしたいのです」


 他クラスにうなずき、次いで私はシルヴィナ様をじっと見据えた。なぜなら、うちのクラスの四強のうち、上から三人は別の仕事がある。必然、シルヴィナ様が最上位になるのだ。


 ソレイラ殿の背中にかばわれて、顔色を悪くしていた彼女は、びくっと肩を揺らした。


「お姉さま、わた、わたくしにはっ、」

「シルヴィナ様。あなたは、――」


 迷う、まだ幼い皇女。箱入りの、愛らしい人。仕方がないと思う。変態に育成された生徒たちでさえ混乱するこの状況。変態にさえ、まだ慣れ切ってはいない彼女の動揺は深いだろう。けれど私は彼女を侮ってはいないのだ。過小評価もしていない。……だから、だからこそ。


 ――そこからほんの短い間だけ、言葉を交わし、最後には意志の強い目をしてくれた、少女は確かに『皇女』なのだと思う。人は、成長するから、面白い。そういったのは、エイヴァだったか。


 そして私は、視線を上げてさらに周囲に指示する。


「――では二回生は移動を! 先生方! 最少人数で転移門の準備! 残り半数は結界を! 半数は周囲の警戒と結界担当の護衛を!」


 ここでいう『転移門』は町と町をつなぐ大規模なものとは多少異なる。かさばりはするものの持ち運べる組み立て式の魔道具で、対になる『門』と『門』をつなぐものだ。ただ運べる人数が一度に最大五人といったところ。発動にもそれなりに時間がかかる。一気に移動するというわけにはいかない以上、身を守るために結界は必須である。


 そして迅速に動き出す教師たち。私の後ろで「……シャロンの教育が行き届いているね……」「うむ。実によくしつけられているな。さすがシャーロットだ」などと約二名がうなずきあっていた気もするが、気のせいだろう。わが校の教師たちは臨機応変なだけだ。いやまあ、うん。ちょっと多分指導者として精進が足りないところもあるのかもしれないが、この場合は『素直は美徳』と納得するのが幸せだろう。


「上級生! 守護・回復系は二回生の護衛! 戦闘系は先生方のサポート! 焦らず、隊列を乱さず、かつ迅速に動きなさい! 王城への伝令は既にはなっています! 救援もきますわ!」

「「「はいっ! 救世じょっ……シャーロット嬢!」」」


 彼らは何かを口走りかけたが、私のほほえみに見事言い直して、配置につくため走り出した。どこかで見たことあるな、と思ったが、彼らの半数はいつぞやのヴァルキア主従・変態教師連遭遇戦時の増援部隊の皆さんだった。あの時の私の『お願い』が忘れられていないようで何よりである。


 こうして、場は一気に統率の取れた動きをとりもどす。まだ距離を持ち、しかし着実に近づいてくる魔物に、それでも我を失わないのは各々の『やるべきこと』が明確になったからもあるのだろう。


 そして『救援が来る』、というのも大きい。「え? 知らせっていつの間に……? そしてどうやって……?」と言いたげな視線がどこからも飛んでこないのは私への絶大な信頼なのだろう。王城へと向かっているのはもちろん私のかわいい『影』さんである。常に私とエルを見守っている彼ら。この事態に、言葉はなくとも私の目線一つで迅速に動き出してくれている。


 ちなみに動いているのはルフだ。『影歩法』を駆使した超高速移動である。行先目標地点はジル。トラブル仲間である彼ならば、必ずやさほど時間もかからずに援軍を連れてきてくれるはずである。


 余談だが、『影歩法』は闇と風の魔術を駆使するがゆえにやはり得意不得意が大きく分かれる魔術だ。『影』さんたちは死に物狂いでみんなが身に着け、ガンガン使用している魔術ではあるものの、適性のない魔術は燃費が悪すぎるというのは変わらない。それでなくとも二属性併用なのだ。複数属性に適性を示す人間は貴族であったとしても決して多くはない。私を含めたこの周辺がみんな複数属性持ちなのがおかしいのである。


 ――まあつまり何が言いたいのかというと。『影に潜む』だけなら闇魔術だけでいいから比較的楽だけれども、風魔術も併用する『移動』の場合は、その比ではない。ゆえに、最初から風の適性もちであるルフが最も適任だということだ。


 そのルフでさえ、使用しなくていい、例えば郊外でそもそも人がいないとか、障害物など、普通に身を隠せる場所があるところならば『影歩法』は極力使用しないしね。魔力は無限ではないのだ。そして残念ながらこの問題については私とエイヴァがおかしいのは認めなければならないだろう。


 ……いかん、話がそれた。


 ともかく、私は『別』で動く超少数精鋭たちにも、指示を言い渡す。


「――エル。あなたは回復の要よ。光と風の魔術で常に浄化も意識しつつ、私の後ろに。自分の身は自分で守れるでしょう?」

「うん、了解」


 エルの適性は光と風と火。攻守に優れた内容だが、いかんせん彼自身の気質として大幅に浄化・回復を得意としているのだ。自身の得意不得意をしっかりと理解しているエルは反論することなくうなずく。それにうなずき返して、私は最後に。


「エイヴァ。あなたは守護の要だわ。結界班に気づかれないようにみんなを守りなさい」

「なっ!? またしても!?」


 驚愕のエイヴァである。見本のような驚愕顔だった。好戦的な彼である、もちろんここでエイヴァとは多少の押し問答が発生した。しかし、私は勝利した。最終的にエイヴァはまじめに任務を果たした、とだけ言っておこう。


 なんであれ役割は決まった。逃げる同級生、守る教師、援護の上級生。殲滅の主力は私たち三人。回復・浄化のエル、守護のエイヴァ、攻撃の私。


 そして、いざ出陣、となった、その時。ざっと、草を踏みしめる音が、した。私たちは、振り返る。そこにいた彼女(・・)をみて、ほんの少しの驚嘆と、納得をする。


「よろしいの? こちら側で」


 問う。対私仕様の無表情をデフォルトに、彼女は答えた。


「……私の主は、シルヴィナ様ですので」

「そう。そうですわね」


 それだけを返し私はもはやその姿をはっきりととらえることのできる、魔物たちを見据える。



 さあ、ソレイラ殿を加えた、四人での出撃だ。












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