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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
278/661

6/45 非常に、正しい認識


 ともかく。


 そんなこんなで私とエルは二人に挟まれ、戸惑いつつも強かな級友たちに遠巻きにされ。そのさなかでまじめに話し合っていた。


「戦力を均等に、っていうけど、やっぱりまとまった方がいいんじゃない……? エイヴァ君をこのままにしておくのは、ちょっと」

「このクラスの皆様は優秀ですもの。何とか、なるかもしれないわ。シルヴィナ様もエイヴァも、級友との交流は必要よ。特に、エイヴァは一年かけてようやく会話に発展したけれど、あまり単体で動いてはいないし」

「でも、エイヴァ君、破壊する気満々だよ……。少し、まだ早いかもしれないよ。確かに、僕たち以外ともちゃんと話をして、友達を作ってほしいけど。それに、皇女様もシャロンから離れる気がなさそうだし……。いっそまとまった方が、先生方としても楽になるんじゃないかな」

「そうね……エイヴァは、それが問題ね……。もちろん言って聞かせるけれど、暴走したら手におえないもの。荷が重いかしら。シルヴィナ様はずいぶんと交友関係も広まっているし、社交的にもなっていらしているから納得さえしていただければ問題はないのだけど」

「あ、先生方の苦労についてはシャロンにとって特に問題ではないんだね」

「先生方が何のためにいらしていると思っているの? 学生を教え導くためよ。ならばその過程で発生する艱難辛苦は彼らが乗り越えるべき試練であって私たちがそれについて何か言うのは余計なお世話というものよ」

「もっともらしいことを言っているけどそれをシャロンが言う? って言葉を僕は贈りたいよね。シャロン、全教師からの信頼が厚くて頼りにされていて、むしろ先生方より頼もしいと評判だよ」

「なんてこと。先生方はもっと精進すべきね」

「まさかの先生方の落ち度なんだ。シャロン、シャロンは規格外なんだから、頑張っても一般人な先生方を捕まえて無茶を言ってはいけないと思うよ」

「私、たぶん、エルの発言の方がごく自然に先生方をディスっていて辛らつだと思うのよ。そしてエルも十分『おかしい』部類であることをいい加減認めたほうがいいと思うわ?」

「シャロンにはかなわないよ」

「……この話はお家でじっくりしましょうか。それより今は、班決めね。さっきのことを踏まえても、やっぱり私はきちんと実力を等分して班を作った方がいいと思うのよ」

「……うーん、僕としてはエイヴァ君とシルヴィナ様と、僕とシャロン。まとまった方が火力過多には確かになるけど、最終的にみんなが『安全』だと思うけど……」

「それも否定しないわよ? でも、忘れてないかしら、エル」

「え?」


 ここでエルはコテン、と首を傾げた。そして同時に私たちを遠巻きにしていた同級生たちも首をかしげた。私は構わず、エルだけを見て、告げる。


「私たちのクラスは二十六人なのよ。五人、あるいは六人で班を作るのよ」


 ハッと息をのむ音が教室を包んだ。この一体感である。一緒にハッとした顔をしたエルは、何とも言えない声を上げる。


「……あっ……あー……」

「わかったようね。そう、その班分けだと、最低一人は私たちの班に『巻き込まれ』ができてしまうの。なんていうか……それだと、ええ、その、あれよね」


 言葉を濁す。うん。自分で言うのも何なのだが、正直私たち四人とその他では、レベル違いなのだ。いろいろ。……いろいろ。


「うん、なんていうか……あれだよね」


 エルすらも遠い目をしていた。仕方がないだろう。私は自他ともに認める普通ではない公爵令嬢。エルは自覚の有無にかかわらず周囲からは私と並べられる公爵子息。シルヴィナ様はツンデレ隣国暴走皇女。エイヴァに至ってはその本性は太古の『魔』。そんな濃過ぎるメンツに放り込まれるモブ。不憫というより、災難であるとしか言えないと思う。ごく客観的な意見として。なんというトラブルの予感しかない組み合わせだろうか。


 いや、教室ではこのメンツで固まっているし、そこに加えて王子や変態が加わることも日常茶飯事だ。クラスのみんなもいい加減慣れただろうし、皆さんの寛容さは仏のような慈悲にあふれていると思う。しかしその広い心をもってしても、不確定要素の多い『校外実習』にて一緒にいたいとは思わないだろう。その証拠に、周囲を取り囲んでいた級友たちは一様に悲しそうな顔をしてぶんぶんと首を横に振っている。


 そしてその向こうでは、いくらか顔色を取り戻した担任教諭が深くうなずいて、胃を抑えていた。復活したのであれば責任もってこの場を収めてほしいものである。お前はそれでも教師か。そのような意味を込めてじっと担任教諭を見つめれば、メガネのの弦をくいっと上げて、それはもうすがすがしい笑顔でサムズアップした後、再度胃を抑えて担任教諭は姿を消した。彼女は神経性の胃炎を患っているのかもしれない。薬を売ったうえで、国王に話をつけて減給の刑に処そうと今、私は決めた。


 ――こうして、私たちの話し合いは白熱し、最終的に四人がばらけて班を組むということでけりがついた。わがクラスの人間はつかず離れず行動をして、何かが起こって誰かさんが自由な行動を始めた場合、即座に対処できるように話し合いも完璧だった。変態師匠連もこの実習にはついてきていない。全力で排除したからだ。


 激しい戦いを経て、本日、実習日の平穏そのもの、ほのぼの魔物退治が実現しているのである。














 …………………まあ、この後には、ただただ『ほのぼの』で終わってくれなかった、お約束的展開が待っていたのだけれども。



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