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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/44 ズレる、人々


 『校外実習』の季節がやってきた――ゆえにそれに伴って、激しい戦いがあった。


 いや、その意味するところは『実習』そのものではない。関りはあるが、『実習』それ自体は滞りなく予定を消化しているのだ。


 現在、場所は校外、というかあっという間に教室での告知から時間はたちまして、実習当日。この日のために用意された転移門を利用して我等第二回生と教師及び救護担当上級生は『森』近くの草原にやってきて数時間。そう、もう数時間。『実習』自体は平穏にのんびりまったり進んでいる。いっそほのぼのである。お昼ご飯もほのぼのとピクニック気分で終了して午後の時間帯に入ってすらいる。なんという順調さ。曲がりなりにもうれしはずかし始めての実習・魔物退治ではなかったのか……? という疑問はもっともだろうが、周囲の生徒の会話を抜粋すると以下のとおりである。


「……なんでしょうか、動きが鈍いですね。マイヤー先生ならもっと、」

「そうですわね、案外、普通ですわね。コラード先生ならもうちょっと、」

「なんだか、拍子抜け……? 先生たちの方が動き、激しいし、むしろ予想外の動き、するし、もっと気持ち悪い……」


 前二人がせっかく濁したのに三人目、言いきったな、と思った。そして彼らの会話にわが学院のゆがみを垣間見た。


 はっきり言うなら彼らは変態師匠連を基準にするべきではない。そもそも魔物と彼らを当然のように同列に並べて語るのがおかしいことに気づくべきである。なのに彼らの流れるような会話。彼らの中で違和感が仕事を放棄している。しかし、あれでも変態師匠連は人間であって教師である。魔物の仲間ではない。むしろ魔物の親玉が生徒に紛れている。感覚のマヒってやばいな、と私とエルはうなずきあって嘆いた。


 いや、話が徐々にずれるところだった。


 何であれ、実習自体は変態に慣らされた生徒たちによって実に平穏に進んでいるので全く問題はない。しかしそこに至るまでは激しい戦いがあったことを特筆せねばならないのである。


 何がそんなに問題だったかといえば、この実習、五~六人で班を組んで事に当たるのである。班を、組む、のである。


 事態は深刻だった。何故ならわがクラスには私、エル、エイヴァ、そしてシルヴィナ様がいる。全員が実力者であり……なんていうか、うん。自分で言うけど。言っちゃうけれど。……客観的事実として、ぶっちゃけ全員『問題児』なのである。


 クラスは総勢二十六名。五つのグループに分かれるのは決まっていた。そして実習の性質上、実力は均等に配分しなければならなかった。それにのっとれば必然的に、私たち四人はばらけることになる。わがクラスにて実力トップフォーが疑いようもなく私たちだからである。順当にいったとして、問題児を含まない班が一つしか出来上がらないことに担任教諭の目が死んでいたけれど、そんなことは些細な問題であってどうでもいい。


 どうでもよくないのはその班分けの話し合いだった。『法則にのっとって』『順当にいけば』『必然的に』私たち四人はばらけなければならないのだが、そうは問屋が卸さないのが問題児たるゆえんである。


 まず、言うまでもなく真っ先に、シルヴィナ様は私と同班になることを主張した。


「わたくしとお姉さまを引き離しますの!? 運命に引き裂かれる二人になんてなりませんわ! わたくしとお姉さまは魂で結ばれておりますのよ!」


 ちょっと半分何を言っているのかわからなかったが、私と班が分かれることに納得していないことだけは理解した。この時点で担任は胃を抑えてうずくまっていた。


 しかし皇女だけが問題ではない。エイヴァのことも私とエルの間でとても問題になった。本人はさすがに班分けとあって目を覚ました状態でふんふんと話を聞いていたが、もちろんおとなしくしてはいなかった。


「外か! 遊ぶのか! 全部吹き飛ばせばいいのか!? 楽しそうであるな!」


 その認識は一から十まで斜め下にずれている。お前は散歩を喜ぶ飼い犬なのかといいたい目の輝きようであった。これを、私やエルから引き離してほかの生徒に押し付けてもいいのか……? というのが私とエルの議題である。


 とりあえず『吹き飛ばしてはいけない』ことだけは懇々と言い聞かせなければならなかった。この時点で担任教諭は胃薬を求めて教室から姿を消した。私とエルに後を託して。なんというキラーパス。私とエルを挟んで右には皇女、左には『魔』。


 皇女は言う。


「お姉さまぁ! お姉さまもわたくしと一緒に来て下さるでしょう!? わたくし、初めての実習ですもの! お姉さまと一緒でないなんて考えられませんわ!」


 『魔』は目をきらめかせる。


「『森』まで行くのか? 探検か! シャーロット、一緒に荒れ地でも作るか!」


 彼らはどちらもとても自由であってかつ主張が強かった。結果、私の横でエルの瞳は死んでいた。私の瞳も、死んでいた。


 うつろな私たち、それを挟む元気な二人、皇女の背後に控えるソレイラ殿はこの時点では学校行事ということもあり発言を自重。そんな五人を取り囲むわがクラスのおおらかにして寛容な級友たちはおろおろしながら着々と自分たちでぼんやり班づくりを進めていた。強かになったな、と思った。去年はまだまだ彼らも普通の貴族子息子女で、このような混沌が巻き起こったらひたすらあわあわしたり、こちらに忠告したり、先生を呼んできたり、顔をしかめたりと様々な反応を見せてくれたのに。しかし一年ですっかり毒されてしまったようだ。自己防衛反応かもしれない。


 うつろな瞳の私とエルはその時も思った。……感覚のマヒって、やばいな、と。







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