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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/43 きたる、秋


 そして三か月と半分がたちました。


 なぜ突如時間がたったのかというと、あの後私は結論として、『やはり下手にこちらから行動するべきではない。だって面倒くさいし私忙しいし』という考えに至ったからである。つまり放置。当初から変わらないこの方針。安心安定である。


 ……だって本当に忙しかった。家に帰ったら荒ぶる使用人さんたちをなだめ切り、案の定全壊した鍛錬場をみんなで修繕・強化し、すっかり忘れていたかったのに忘れさせてくれなかった使用人さんから、どういうわけか満場一致で所望された『ご褒美』として『丸一日着せ替え人形』役に徹し、商会の仕事に奔走し、罰を言い渡されてこの世の終わりを見たかのような荒ぶる変態に制裁を下して魔術断ち・筋肉断ちを了承させ、国王を急襲して八つ当たりを敢行してから王妃様とお茶会して癒され、魔道具開発関連の視察を行っては研究にいそしみ、薬物関連の情報収集を怠らず、イリーナ様やシルヴィナ様との交友を深め、エイヴァとともに不毛の地にてストレス発散をし、胃を痛めた教師陣にアザレア商会印の胃薬を提供した。今では教師陣はすっかり常連と化している。


 忙しかった。間に夏休みを挟んだとは思えないくらい、忙しかった。学生とは何だったのか? 長期休暇につきランスリー領に帰れば本邸の使用人さんたちも、どこからソレイラ殿の情報が回ったのか。あらぶっていてそこでもひと悶着あったし。そんな使用人さんたちをなだめつかれた領主代理・セルバート様はなんか、うん。しなびた出がらしみたいになっていた……。出がらしってしなびることができたんだなって思った。


 ちなみに夏休み期間中にも、シルヴィナ様によるランスリー公爵邸訪問とか、逆に私の王宮訪問とか、『お忍び王都散策!with皇女』とかもあったのだが割愛しておく。言い出したらきりがない。なお、そんなときにはソレイラ殿ももちろんそばに付き従っていたのだが、こちらも初心に戻ったのか、安定の最低限対応なクール美女再びであった。


 動じない、変わらない、私とソレイラ殿。むしろ周囲が気を使って右往左往していたというのに、総スルー体制の私とソレイラ殿。事情を察しているジルは何かと気にするそぶりを見せ、使用人さんたちのあらぶりように巻き込まれ気味のエルは困惑し、シルヴィナ様すらソレイラ殿の動向をうかがっていた。何も気づいていないのか、気づいていて興味がないのか、エイヴァだけは通常運転だったけど。


「あなた方、さては似たもの同士ですね……?」


 と何か疲れた顔をしたジルに言われたが、残念なことに私と同類なのは美女騎士ではなく、ジルの実父たるチンピラタヌキ国王である。八つ当たりで急襲した時に、ついでに現状報告をしたら「がんばれ! 応援なんてしないけどな! だってほらこれ、この仕事の山。これもってきた原因半分お前。俺がお前を殴りたい」と涙目で狂ったように爆笑していたあの豪胆さをジルも見習うべきである。もちろん、国王には丁重に仕事を追加しておいた。


 ――さて、そんなこんなで三か月と半分が過ぎ去った現在。季節は初秋。馬鹿が元気になる季節を乗り越えた私たちは、無事に新学期も始まって学院での生活リズムも取り戻してきた、そんな頃。


 メガネが生真面目なクラス担任が告げた言葉に、普段は何事にもほのぼのと穏やかでおおらかなクラスメイト達がざわついていた。


「皆さん、静かに」


 担任が担任らしく、声をかけて生徒たちをなだめる。なお、エイヴァは机に突っ伏してお休み中真っただ中だったが、それをちらりと見た担任は次いで私とエルの方をちらりと見て、私たちが同時にうなずいたことでなにも気にしないことにしたようである。この話題は、エイヴァが起きていると多分、うるさい。鎮まれと言っても沈められるまで騒ぐであろう。ならば初めから眠っていてくれた方が労力がかからず合理的である。私とエルと担任教諭の思考は一致していた。


「第二回生の恒例行事の季節になりました。――校外実習を行います」


 おお、と喜色交じりの声が上がる。『校外実習』読んで字のごとく、学院外にて、実習を行う、第二回生における目玉行事である。


 担任も説明しているが……まとめると、実習の内容はさほど難しくはない。これは魔術の実習訓練であるが、所詮は貴族子息子女で、しかもまだ二回生なのだ。危ないことはさせられるわけもない。あくまで、実感として魔術を使用するとはどういうものなのか? を知るための学習である。


 まあだからと言ってやることがただのお散歩なはずもなく、簡単な魔物退治である。教師陣が見守る中で、五~六人の班を組み、危険度の低い魔物を一匹倒したら終了だ。上級生も救護班として動員される。下調べも入念に行われるし、この魔物すらも教師陣の一部がチームを組んで生け捕りにしてきたもので、場所は『森』近くまで行くが中には入らず、その手前の草原で行われる。ひとえに、学院や街に魔物を入れるわけにはいかないので校外に出るというだけである。


 もっと上級生になればそれこそ野生の魔物の討伐なども実習に組み込まれるが、第二回生初の実習、あくまで安全重視なのだ。


 それでも、普段魔物に遭遇することなどない貴族子息子女にとっては一大イベントである。正直校内に生息する変態の方が危険性は上だと思うが、それはそれ。


 第二回生の秋は、毎年この行事から幕を開けるのである。









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