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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/38 奇跡的確率をつかむ


 私は語り終えた。ランスリー公爵家お抱え→学院教師に至った経緯を。何のことはない。雇用期間を終了したと思ったら浮浪者一直線だったので仕事を紹介した。それだけだ。しかし語れば語るほどソレイラ殿はどんどんと眉間の皺を深くしていった……が、とりあえず最後まで、聞いてはくれた。


「――と、言うわけで。一応仮にも恩がありますし、路頭に迷わせるわけにはいきませんし。けれどほかの貴族家や研究室などでは雇っていただけませんでしたし……巡り巡って、学院に落ち着いたのですわ」


 何せ貴族当主世代の怯えようはひどかった。どんなトラウマを植え付けられているのか想像できる気もするが、あえて知ろうとは思わない感じには、ひどかった。顔面蒼白になってハラハラ乙女のように泣き出してしまった人もいたくらいだ。変態はいつの時代でも変態なのである。遠い目をした私とジルと学院長だった。


 と、そこに、眉間に渓谷を作ったソレイラ殿が低くうなる。


「あなた様が、原因ですかっ……!」

「平和的解決ですわ。野に還すほうが危険度が高いと満場一致でしたのよ」


 国王とか国王とか宰相とか。いや、まあいろいろと取引はあったのだけど。だいぶ押し付けた感じもあるけど。ゴリゴリ押していないとは言わないけど。でも私が面倒みれる方が安全だと言い切ってくれたのは国王陛下その人だから。それで決定したから。


「だからと言って、危険でしょう……! 現に姫様はっ!」


 ガタン、ととうとう腰を浮かせてソレイラ殿がいきり立つ。……まあ、気持ちはわかる。判るんだが。ここぞというときに、冷静に思い出してほしいのだ。


「……おそらく、勘違いしていますわね」

「『勘違い』!? なにを、」

「――あれら(・・・)は、腐っても一芸しかなくとも、その道の『天才』なのです。現状、事実として。……今日、被害を受けられたシルヴィナ様も、ソレイラ殿も、ケガなどなさっていないでしょう?」


 純然たる、事実である。ソレイラ殿も、一瞬だけ言葉に詰まった。なぜなら、事実だからだ。力尽きて早々に戦線離脱せざるを得なかった第三演習場の管理人も、離脱の原因は魔力枯渇であって外傷ではないのだ。


「……っ、それはっ、私が姫様を守ったうえでの結果論でしかない……!」


 ソレイラ殿は苦々しげに言う。けれど、私とジル、学院長は視線を交わす。


「……あれらは見極めがうまいのです。それは、まさに結果が物語(・・・・・)っている(・・・・)。――野生の勘なのかしら。絶対に越えてはいけない最後の一線ぎりぎりまではいくのです。けれど、どこまでも、相手の実力も状況も許容範囲も、的確に見定めているのですわ。だからこの学院ではこの一年と少し、変態の変態行為に辟易しドン引きし青ざめて精神的被害を受けた生徒は多々あれど、物理的・肉体的に被害を受けた生徒はおりません。授業では多少そういったこともありましたが、許容範囲ですわね」


 ランスリー家にいたころに、たぶん、彼らは学んだのだ。私の、エルの、実力を着実に見極め、彼らは『授業』をできるようになっていった。だって変態性に耐えられずにランスリー家以前の雇用先ではことごとく首にされたり弟子に逃げられたりしていたんだし。


 いや、ランスリー家でも大人と子供で男と女で二対一とかいう鬼畜仕様ではあったけど。そして、まあはっきり言って自分たちの実力と連携を向上とさせようとしていたのも事実ならば、己の本能に忠実に変態性をさらけ出して迫ってきていたのも事実だけど。


 それでも、彼らが非常に有能なのは確かで、そして『師』としての力も、得た。


 結果論も積み重なれば実績になる。彼らはそれを、学院で一年もかけないうちに周知させたのだ。……まあ、学院に投入する前に節度ある変態に進化させたからこその結果で実績であることは否めないけど。指導力<変態性だったのを均衡を保てるくらいまでもっていったのだから私は超がんばった。……うん。ともかくも。


「よく思い出してくださいませ? 一番初め……彼らはただ寄ってきただけでしたでしょう? そうね……「魔力循環が美しい」や、「筋肉を愛であいたい」などと言っていたかもしれませんわね。けれど、冷静に聞けば、強く咎めるほど、おかしくはないですわ。手の動きや声音といったオプションが過剰だったことは想像に難くありませんし、ヒートアップすればするほどちょっと言動が行き過ぎていることもあったかもしれませんが……。先に攻撃したのは、演習場の管理人、第二撃はソレイラ殿。そうでしたでしょう? 攻撃されたら防ぐ。あるいは反撃する。当然ですわ」

「っ、」


 想像に難くないことを口にすれば、見事に図星をついたようだ。私は続ける。


「だから、まあ、彼らの『功績』もありますし、ここが『平等』をうたう学院であることもありますし……見逃されるぎりっぎりの範囲、ですのよ」


 ねえ、と。ジル、そして学院長を見る。ジルは安定の鉄壁笑顔だった。学院長は「もう少しだけおとなしかったらいいんじゃがのぅ……。無理じゃろうのぅ……。進化しとるものなぁ……」と若干うつろだった。


 そんな彼らの反応を受け、「まぁ……」と口に手を当てているのがシルヴィナ様だ。多分、彼女は、いろいろとキャパオーバーしている。ツンデレのツンもデレも出てこない。考えるのをあきらめたのだろう。自己防衛反応かもしれない。それも仕方がないだろう、そもそも学業を終えてからの筋肉だるまと魔術狂との遭遇戦、そしてこの場である。彼女は繊細な皇女様なのだ。


 しかしタフな女騎士は元気である。ぐいぐい来る。ぐいぐい質問する。形のいい眉がしかめたうえでひそめられるという器用な動作をして、彼女は問うてくる。


「……彼らの、『功績』……ですか?」






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