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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/37 責任者たちの応酬


 私は……私は、ふっと。目をそらした。だって私は一学生。知らぬ存ぜぬというかぶっちゃけ私とソレイラ殿は超一方的確執があるので面倒くさい。全力で私はシルヴィナ様をめでるのでそれで充分尽力していると思う。


 しかし背後で確実に学院長が絶望的な顔をした。手に取るように分かった。だって空気が澱んだ。十三歳の小娘にどれだけすがっているのか。がんばれよ。大人だろ。むしろおじいちゃんだろ。貫禄見せろよ。私はシルヴィナ様には、それはもう天使のように白いほほえみを見せながら学院長に心の内でエールを送った。どうしてだろう、背後の澱みが増した気がする。


「えっと、ですの、それは、ですの……」


 学院長は激しくどもっていらっしゃる。先ほどまでの熱弁が嘘のようなへどもどぶりだ。この学院長、ふり幅が極端すぎる。テンションが上がったならそのまま突っ走ればいいのに、彼は突如冷静になってしまったようだ。途中で正気に戻ることほど恥ずかしいことはないだろう。


 どうすべきか、と私は視線を上げる。学院長は正気に戻ってしまった以上、へどもどし続けて話が進まないであろうことは明白だ。それでは一向にこの部屋から解放されないし何ならソレイラ殿が怒りの波動に目覚めてしまうかもしれない。それは……うん。願い下げだね!


 と、いうことで、私があげた視線の先にいたのはもちろんジルである。選択肢はない。だって説明をする人間は学院長と私とジルしかいないこの空間。なんという最少精鋭。その少数のうち一人が脱落した今、私かジルがフォローするしかないのだ。


 そして数秒のうちに交わされたのは激しい押し付け合いの目線でのやり取りだった。私とジルはそれはそれは輝くばかりの笑顔をかけらも崩さなかったし、もちろんシルヴィナ様は何も気づいてなどいないけれども、確かに交わされた応酬。激しい戦いだった。しかし私は惜敗を喫した。変態が元ランスリー家に巣食っていた変態であったということが敗因であった。どうしようもないクリティカルヒットである。私は撃破された。


 ……ともかく。


「――ここからは、私がお話をいたしましょう」


 ここで、とうとう私は声を上げたのだ。私とジルの応酬を知らず、「え、」という目を向けているのは私の腕の中のシルヴィナ様で、鉄壁笑顔の分際で呆れたような色を含ませているのがジルで、ドン引きからがんたれ再びになったのがソレイラ殿で、そのまま昇天するのではないだろうかと思うほど安堵を表したのが学院長だった。


 そして学院長は、てかる頭と同じくらいに輝く笑顔で、ひげをわっしわっしと撫でつけながら言った。


「そうですな! やはり、そうでしょうとも! その方が分かりやすいですからの! いや助かりますの! ささ、どうぞ!」


 全力で責任もろとも投げやがってこの糞爺。そのひげ全て引っこ抜いてやろうか? ……という物騒な言葉がどこからともなく降ってきた気もするが、気のせいだろう。それで目の前の学院長が顔面蒼白になろうとも。私と学院長以外は特に違和感を覚えた様子もないのだ。うん、幻聴幻聴。学院長は夜道に気を付けて強く生きればいいと思う。


 ともかく。


 私はそっと、シルヴィナ様をソレイラ殿に預け、居住まいをただした。視線はもちろん、私に集中する。


 そして、語りはじめる。


「それでは、まずは彼らが学院に来ることになったその経緯から、ご説明をいたしますわ。……なぜそれを、『私』が語らざるを得ないのかも含めて……」


 ふっと、浮かぶのは自嘲の笑みだ。私の脳裏には変態との初対面から変態とのメモリアルが走馬灯のように流れている。どうしてだろう、ほとんどがバイオレンスで構成されているのにもかかわらず、走馬灯の中の登場人物は全員楽しそうだ。変態師匠連も、私も、ごくまれに出てくるジルも、楽しそうだ……。いや、ちょいちょい出てくるエルだけが引きつり切った顔をして徐々に容赦をなくしていく。


 私は一度目をつむる。そして走馬灯を振り払うように、開いた。


「そもそも、彼らはわがランスリー家で家庭教師として雇っていた者たちなのですが――――」











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