6/35 当事者たちの追求
間が開いてしまってすみませんでした(-_-;)
「これは、いったい、どういうことなのか。こちらの納得のいくご説明をしていただけますね」
ソレイラ殿の鋭利な視線と言葉を受け止めたのは、ふさふさと広がる真っ白な髭をしきりになでつけている老爺であった。
――場所は学院長室。そう、額の輝きがまぶしい我らがヴェルザンティア王立魔術学院、その影の薄い学院長の御前である。
あの後、第三演習場での変態との遭遇戦に片が付いてのち、凍り付いた変態と吹き飛ばされて壁に突き刺さった変態の回収や現場の後処理及び避難令解除等々の後始末をひとまずは増援部隊であった上級生たちと、駆け付けていた我らが担任含む教員たちにまかせ、私たちは移動した。
そのメンバーはもちろん最たる被害者のシルヴィナ様・ソレイラ殿のヴァルキア主従。そして現場を収めた私ことシャーロット・ランスリー。そして国側の担当として王城から(私が)召喚したジル。なお、第三演習場管理人は回復が追い付かなかったために欠席している。当事者という意味では変態師匠連もいるべきなのだろうが……この場合は論外だろう。まあそれゆえにこの四人だけが学院長室に集まって、冒頭のソレイラ殿の発言につながったわけである。
「そそそそ、それはもちろんですじゃ、ジッキンガム卿」
学院長は煌めく頭頂をてからせながらしきりにひげを撫でつけ、ちらちらと私とジルを見ている。明らかに助けを求めているが、私とジルは一応仮にも一学生であることを忘れないでほしい。私は事を収めただけ、ジルは国として事態を把握するために来たということになっているのだから、全面的にこの場で説明の任務を負うのは学院長である。それはソレイラ殿もわかっているから最初から学院長に対峙しているのだ。なれば、助ける理由は存在しない。そう、どれほどに涙目でちらちらされようとも、ハゲでひげで丸々とした体格でいらっしゃる学院長は全く愛らしくないのでさっぱり心に響かない、なんていうことは関係ない。助ける義務はそもそもないのだ。
むしろ私はぎゅうっと私の腕にしがみついて離れないシルヴィナ様を落ち着かせることに忙しい。そしてそんな私とシルヴィナ様の現状を鉄壁笑顔で見つめてくるジルと、歯ぎしりが聞こえてきそうな顔で眉をひそめているソレイラ殿を見なかったことにするのにも忙しい。
そうであるからしてどこからも救いの手など差し伸べられる当てもないのだから、学院長はとっとと諦めてソレイラ殿に変態について改めて説明をするべきなのである。
「――学院長様?」
氷点下のような声のソレイラ殿である。もはや恫喝ではないだろうかと私は思ったが、まあ私に向けられた声ではない。気にしなくても問題はないだろう。ジルに至ってはもはや学院長など見えていませんとばかりに鉄壁笑顔をたたえ続けている。そこにあるのはただただ麗しい美少年であってそれ以上でも以下でもないといわんばかりだ。洗練されたスルースキルである。学院長は涙目で、深く、深く、それは深くため息をついていた。しかしそれはあきらめのため息であったのであろう、とうとう彼はその重い口を開いたのである。
「……事前に、『彼ら』についてはある程度のご説明と注意喚起をさせていただいたと、伺っておりますな。どこまで、聞き知っておられるのですかな?」
「……ノーウィム・コラード師、そしてディガ・マイヤー師。どちらも『有能だけれども能力が突出しすぎていて常人には理解しがたい危険な方々』である、と。諸事情により配置換えをすることはできないが、できうる限り近づかせないための対策をとる、それでも遭遇した場合は早急に殲滅するつもりで攻撃し、その場を離脱するように。……そのように伺っておりましたが。……それに……」
学院長の問いに、険しい顔のソレイラ殿が答えながら、私とジルをちら、とみる。
「ランスリー公爵令嬢や、ランスリー公爵令息、ジルファイス殿下が時折授業中であったとしてもどこかへ呼ばれることがあり……そこで騒動が起こっている、ということは把握しておりました。生徒たちのうわさでも、彼らの奇行についてはある程度聞き及んでおりました」
ソレイラ殿は言う。まあ、私たちとしても、遭遇戦は避けるようにしていたが、変態どもの存在自体を隠していたわけではない。むしろ彼らの名前も容姿も、その戦闘スタイルも、性格も奇行も、対処法ももちろん余すことなく伝えた。ただ、実際に会わせることはしなかっただけだ。
「まあ、耳に入らぬわけがありませんのぉ。事前の『彼らについて』させていただいたようである説明も的確ですな」
「……しかし、」
「『聞くのとみるのは全く違った』、ですかな?」
「……」
ソレイラ殿の眉間にぎゅうっと皺がこれでもかとよる。そして私の腕にしがみついているシルヴィナ様も、こくんと小さく、けれどはっきりと、うなずいていた。