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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/25 静なる苛烈


 違和感を感じたのは、早かった。早かったというか、出会った当初からにじみ出ていた。皇女が空から降って来た事件の際のこと。ソレイラ殿たちと合流したり、エルが名乗りをした時に感じた空気の変化。その根源は、彼女。ソレイラ・アキト・ジッキンガム殿である。


 なんていうか……うん、きっとソレイラ殿は正直なのだろう。きりっと凛々しい空色の瞳が苛烈な光を隠しきれていなかったし、というか現在進行形で全然隠しきれていない。いっそ隠す気がないのかもしれない。公爵令嬢たる私に対して、隣国の……皇女の護衛とは言え騎士爵令嬢がこの所業。なかなか度胸のある行いである。脳筋の国たるヴァルキア帝国の血筋をひしひしと感じる……。


 さて。ソレイラ殿が私に対してだけツンツンだという話であるが、まあ……事実だ。誠に残念なことに、事実だ。


 基本的に、ソレイラ殿は寡黙でまじめ、職務に忠実で礼儀正しい。周囲への気遣いやフォローも忘れず、時には主人たるシルヴィナ様にも諫言をためらわないっていうか完全に保護者と化して叱っているのを何度か見た。実によくできた側近兼護衛である。


 しかし、私にはツンツンだ。そらもう、ツンッツンだ。


「シャロン……なにしたの?」

「いったい、あなた、何をしたのです? よほどのことをしでかしたのでしょう?」

「シャーロット、お前、また外道な発言でもしたのか? 女にも外道になれるのだな!」


 などという男三人衆からあらぬ疑いの目を向けられてしまったくらいだ。どうして彼らはそろいもそろって私が彼女に危害を加えた前提で私にものをいうのだろうか。あと、エイヴァ、人外の分際で私に向かって『外道』と連呼するとは覚悟はいいのだろうな。ていうか私は男女関係なくやろうと思えは非情になれる人間だ。区別はするが、差別はしない。私の周囲には馬鹿な男が多いだけだ。その筆頭は……誰だろうか。馬鹿は着々と排除しているので筆頭の入れ替わりが激しい。まあ今の場合は、エイヴァ自身だろう。


 話がそれた。


 ともかく、そんなソレイラ殿、まあ基本的にどこがツンツンかといえば、いろいろある。私に向けてくる目がまず冷たい。にらんでくるというわけではないが……苛烈な光を秘めた冷たい瞳でじっと見据えてくるのだ。無表情な美人にそんな風に見つめられると……うれしくはない。委縮するような繊細さはないが、喜べるような性癖も私は持ってはいないのだ。


 そして、会話。ソレイラ殿がいくら寡黙だといっても、全く話をしないわけではない。ましてや同じ学院、同じクラス、しかも彼女の護衛対象たるシルヴィナ様はかなりの割合で私のそばにいるので、必然会話を必要とする機会は巡ってくる。そんなときには超事務的。必要最低限しか話さないし必要最低限しか近づいてこない。別に不敬だなんだと騒ぐつもりはないし、それに値することを言われたわけでもない。


「――それでは、そのように決まりましたので」


 と、必要事項を言いきったら颯爽と踵を返して去っていく。一事が万事そんな感じなだけだ。罵詈も雑言もない。冷たいだけだ。


 そして、シルヴィナ様への諫言。


「――姫様は彼女に近すぎます。一度距離をとられて、もっと交友関係を広く持つべきです。何のための留学ですか?」


 とまあ、言っていることはそこそこ正論だが、その裏ではシルヴィナ様と私を引き離したいのであろうことは明白である。しかしそのソレイラ殿の努力は実っていない。毎回毎回シルヴィナ様は必ず、


「いやよ! わたくしのお姉さまよ? せっかく運命の再会を果たしたのに、引き裂くというの!? お友達が増えたからと言って、お姉さまと距離を置く理由などないでしょう!」


 と猛反発している。多分私たちの間に運命はなかったと思うが、とにかくどれだけ遠回しに示唆されてもうなずかなった。……まあ、私からの話もあり、『クラスメイトと交流作戦』のために多少はほかとも話をしようとするようになったし、ツンデレ風味を朗らかに微笑ましく受け止めたクラスメイト達によって交友関係は着実に広がっている。だがしかしだからと言って私からは離れていない。べったりだ。私と離れないまま、友達を作る。皇女様は有言実行なのである。


 まあそれはいいとして。


 そんなソレイラ殿のツンツン塩対応に対して、当の私はどう反応をしたのかというと……絶賛放置プレイ。それだけだ。


 だって……皇女たるシルヴィナ様とは良すぎるほどに仲がいいのであんまり問題じゃないし、私自身()が強いという自覚くらいはあるので、万人に好かれるわけもない。というか万人に愛し愛されているなんて生き物は幻想でしかないだろう。


 別に無礼な物言いをされるわけではないし、必要最低限の会話は成立する。なら別にそれで構わないんじゃないだろうか。早々にそんな結論を私は出した。美人と仲良くなれたほうが嬉しいのはうそ偽りない本音だが、だからと言ってそれに全力を割くほど今自分に余裕があるかと言われれば、ない。私は忙しいのだ。実質的損害が出ているわけでもない。これが国内の貴族であればまた話は多少違ってくるが、ソレイラ殿は隣国の人間である。


 ゆえに、私は私の研ぎ澄まされたスルースキルによって、ソレイラ殿のツンツン塩対応は完全に右から左へ受け流しているのである。まあ、一方のその対応をされたソレイラ殿は何かが不満なのだろう、時折めっちゃ私を見ている。しかし……全スルーという平和的手段しかとっていない私はかけらも悪くないと思う。男どもは時折何か言いたそうな表情を向けてくることもあるが……笑顔で返しておいた。彼らが口を開くことはなかった。


 ちなみに、シルヴィナ様はそういうことは全然気にしないでいつでも私にデレ全開である。愛らしい。……と、言うよりも、最初はシルヴィナ様も「もっと笑顔よ!」とか、「仲良くね!」などとやんわり言っていたのだが、シルヴィナ様が言えば言うほど絶妙にひきつった顔でかたくなになることに気づいてからは、様子見に徹しているようだ。シルヴィナ様は、暴走していない時ならば人間観察が思いのほか得意なのである。


 そして、いろいろとあったが表面上はソレイラ殿とも衝突もなく、一か月がたち……やっぱり、それだけでは終わらなかったのである。













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