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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/24 皇女専属護衛騎士ソレイラ・アキト・ジッキンガム

あけましておめでとうございます。

本日よりまた偶数日更新を続けてまいります。

本年もよろしくお願いいたします!


 さて。ここまでは主に皇女の話をしてきた。紆余曲折を経て生暖かく皇女は受け入れられつつあるという現状である。学院のみんなの適応力の高さと懐の深さに乾杯だ。


 ――しかし、この春、このヴェルザンティア王立魔術学院にやってきたのはシルヴィナ様だけではない。


 ソレイラ・アキト・ジッキンガム卿。


 シルヴィナ・アセス・ヴァルキア第一皇女の側近であり、護衛騎士。ピンクブラウンのツインテール、ペリドットの瞳、釣り目で強気な顔立ちだが幼げで華奢な体躯が愛らしい皇女に対して、ソレイラ殿はプラチナブロンドの髪をあごのラインで切りそろえ、抜けるような空色の瞳が凛々しい大人の女性である。騎士服に包まれた体は引き締まった長身。姿勢の良さも相まって、若干小柄な男性といえば通りそうなほどである。くるくると表情豊かで素晴らしい肺活量と声量を誇る皇女のそばに影のように控える彼女は、寡黙で無表情がデフォルトであることも印象的だ。なんという凸凹コンビであろうか。ソレイラ殿が饒舌になるのはほぼほぼ、やらかしすぎた皇女をいさめ、叱る、その時だけである。まあそれも、よほどのことがなければ見られない光景なのだが。例えば皇女が空から降ってくるとか。皇女のやらかしレベルが斜め上で護衛騎士の苦労がしのばれる。


 そんな、ソレイラ殿にまつわる話をしよう。


 ……はじめ、やはり学院内には身分は関係がないという建前の元、ソレイラ殿が学内まで同行することは難色が示されていた。学内には変態が生息しているのだからして万全を期すに越したことはないと主張する安全重視派と、学院内の伝統を崩すわけにはいかない、この国の王子だって変態に対抗しながら頑張っている、むしろ護衛なぞつけたら変態に目を付けられる要因になるのではないか、と主張する伝統尊重派の真っ二つに分かれた。


 どちらの主張もよく理解できる。皇女に何かあれば一気に国際問題になる。だが護衛騎士という戦闘職の人間に変態が興味を示したら意味がないというのもまたしかりなのだ。どうしようもなく論点の中心に変態が鎮座して動かない。生徒の成長への貢献に、あまりに実績がありすぎてリストラできない変態二名をいかに刺激せずに皇女を守るか。会議は紛糾した。


「学院には『彼ら』がいるのですぞ? あなた方はあれらのおぞましさをお忘れだとでも!?」

「忘れられるものか! あの勢い! 不屈の精神と生命力! 魔物のほうがましであるわ! だが、だからこそ護衛などをつけて注意を引いてどうする? 狙いを定められたが最後なのだぞ!」

「転入生という存在上、そもそも注意をひかないというのは難しく、そもそもあれらに常識は通用しません! ゆえに初めから守りを最大限にせねばといっておるのです!」

「いや、やはり伝統にのっとるうえでも許可をすべきではない! それでは昨年一年を耐え切った子供たちはどうなるのだ!」


 ……等々。激しい戦いだった。変態師匠連の珍獣……いや、もはや危険生物扱いが止まらない。変態どもが彼らに刻んだトラウマは深いようだ。


 そんな会議の裏で私やエルやジルが、元凶である変態どもの教育やら、皇女への注意喚起やらと八面六臂の働きで暗躍したことは以前語ったとおりである。


 ――かくして、様々な議論と試行錯誤を重ねたうえで、往々にして暴走癖があるとはいえやはり繊細な皇女、ちょっといろいろおかしい我が国の王族と一緒くたにしてはいけないとの結論がはじき出された。つまり、ソレイラ殿は皇女にピッタリ同行して護衛をする許可が下りたのである。


 その際、やんわり「ちょっとおかしい」と満場一致されたことに対して、お前ら、どういう意味だ……? との、複雑極まる胸中をどう表現していいかわからない、とでもいうような表情のジル・王太子殿下・国王陛下三名がいたが、王妃殿下はつややかにほほ笑みを浮かべて、


「そうですわね。私の夫と息子たちはちょっと特殊ですもの。いろいろと慣れていらっしゃらない皇女殿下と一緒にしてはいけないわ」


 と朗らかなものだった。それはもう華麗に自分を除外した彼女は、強く美しい女傑の鑑だな、と感慨深く私は思った。


 まあ、それはともかく。現状ソレイラ殿がシルヴィナ様とずっと一緒にいることができているのはそういう経緯を経ているのである。


 ……学院でも、シルヴィナ様にだけ護衛がつくということに対してやはり反発がなかったわけではない。ならば自分も、という主張も打診も多く、王城と学院は対処に苦慮したようだ。まあそこまでは私には関係のない話である。教師諸君と大臣たちにはがんばれ、と応援くらいしかできない。ストレスで胃を痛めた際にはよく効く薬を処方するのでぜひうちの商会をご利用くださいとさりげなく宣伝しておくくらいしかできない。なお、現在宰相様を筆頭に常連客が増えたと嬉しい報告が上がってきている。毎度ありがとうございます。今後もご愛顧ください。


 ともあれ。そのような紆余曲折は経たが、なかなかな暴走皇女っぷりを発揮するシルヴィナ様をいさめたり、某温厚な男爵令息との中庭でのファーストツンデレ対応にて散らばった本を集めるなどさりげなく皇女の周囲のフォローをしたり、とにかく寡黙にまじめに職務に忠実なソレイラ殿もそれなりに学院になじんできている。――私、以外の周囲には。


 さて、私は転入生はツンデレだったと評した。事実、シルヴィナ様はツンデレの鑑のような行動を繰り返している。しかし、ここでいう『転入生』とはシルヴィナ様だけではない。そう、転入生は、皇女と護衛騎士のセットなのである。そしてシルヴィナ様にしても、ツンデレはツンデレだが、それは私以外に対して。私にはデレデレなのがかの皇女様である。


 しかし何度でもいうが、『転入生は、ツンデレ』だった。


 ――そう。ソレイラ・アキト・ジッキンガム殿。彼女は主人のデレデレとバランスをとるかのごとく、ツンッツンなのだ。……私に、対してだけ。







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