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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/23 つまり、彼女は愛されている


 そんな庭園での出来事以降の話である。シルヴィナ様の言動には、明らかに変化があった。次に一部を抜粋しよう。


「あら! そのようなこともお出来にならないの? 仕方ないですわね! わたくしがお手本を見せてあげましてよ! こうして、こうするのですわ! コツは、こうですわ!」


「ちょっとそこのあなた! ハンカチを落としましたわよ! お気をつけあそばせ! お、お礼なんていりませんわ! お、おとも、…クラスメイトですもの! たまたま目についたハンカチくらい、拾ってあげるのは当然でしょう!」


「な、なんですの!? じろじろと見ないでくださいませ! ……わたくしの刺繍? よくできているのは当たり前でしょう! ふ、ふん! あなたのものだって、なかなかではなくて? でもここをこの色にしたらその愛らしい花の構図が引き締まって見えて、もっと映えると思いますけれど……べ、別にあなたのために言っているのではないですわ!」


 ……以上である。なお、最初の発言は魔術の授業中。風の適性を持つ同級生に懇切丁寧にコントロールの方法を教えていた。教えられた生徒は授業終了までには空からふわりふわりと某名作アニメーション映画のヒロインのように舞い降りることができるようになっていた。何を目指しているのかはわからなかった。


 そして二つ目の発言自体は教室内でのことではあるが、そもそも廊下で女生徒が落としたそのハンカチを割と離れたところにいたシルヴィナ様が拾って、一生懸命その女生徒を追いかけて手渡していた。ちなみに、話しかけるタイミングを計ってじっとその女性を見つめていたところハンカチが落ちたのを目撃したようだ。


 そして三つ目。これは女子生徒のみの刺繍の授業中のこと。鮮やかな手つきで美しく精緻な刺繍を施すシルヴィナ様に、偶然隣に座っていた女生徒が見とれていたところ、件の発言につながった。


 あの庭園での一件から、皇女は何かを掴んでしまったようである。


 どれもともすれば押しつけがましい、高飛車な発言の数々であるが……わがクラスは私とエルとエイヴァを擁し、あまつさえ昨年一年変態師匠連の猛攻に耐え切ったという実績を持っているのである。


 つまりエル曰く、「このクラスのみんなは、高位貴族が集まっている割に、寛容だよね」ということだ。クラスメイトは初め困惑し、件の男爵令息と同じように大いに途方に暮れた。しかし……慣れた。


 シルヴィナ皇女は、こういう方である。


 その認識が定着したのは早かった。そしてシルヴィナ様の幼げな外見と、皇女の発言には善意はあっても悪意はないという事実も相まって、現在ではちょっと背伸びしたい妹を見ているかのような温かい視線になった。


「微笑ましいよね」

「初めは言い方が手厳しいところもおありだったから驚いたけれど……お優しいですよね」

「一生懸命ですし」

「ぷいっと顔を背けられた後、言い過ぎたかと気にしてこちらをチラチラ見ていたりされますよね。癒されます」


 ……以上、クラスメイトの会話抜粋である。私とエルとジルは顔を見合わせた。一国の皇女に対する認識がそれでいいのか……? と物議を醸し、国王と宰相も交えて意見を交換し、最終的にまあいいかと放置し、今に至る。


 シルヴィナ・アセス・ヴァルキア皇女。彼女はこの度、完全に愛され幼女枠に収まってしまった。


 転入生は、ツンデレだった。……私以外のだいたいに対しては。おそらく故国・ヴァルキア帝国でもその片鱗はあったのであろう。付き従う護衛騎士・ソレイラ殿は平然としたものだった。


 ちなみに、私に対してのシルヴィナ様は相変わらずのデレデレである。愛らしい。それに尽きる。エルやエイヴァに対しても多少態度が柔らかい。というか、ツンの比率が少ない。まあそれは会話の大半が私に関するものになっていることが関係しているかもしれない。彼らの会話には私の名前の登場回数が多すぎる。そして大体私は同意を求められる。『ねえお姉さまぁ!』と。もはやそれは語尾なのだろうかと思うくらいだ。しかし私に対して私への賛美の言葉の同意を求めるのはどうなのだろう。私はどうすべきなのだろうか。今のところ話を逸らすかあいまいにお茶を濁してやり過ごしている。


 なお、このような皇女のデレ多めの対応の相手に、ジルは含まれていない。なぜなら、ジルは逆だ。ツン多め。多分、ジルの登場の仕方に問題がある。私と皇女が話しているときにあらわれて、皇女を問答無用で、しかし実に紳士的手腕で引きはがすのである。それもかつて皇女を魅了した詐欺師のごとき美麗な笑顔で、だ。


「ああら、ジルファイス殿下ではありませんか!」

「本日もお会いできて光栄ですよ、皇女様?」


 にっこり。にっこり。そして両者の間には見えない火花が散るのが常である。なんだか非常に既視感を感じる光景であると思ったら私とジルの情報交換兼嫌味合戦腹黒お茶会にそっくりだった。そして私とジルのあのやり取りは悪友ならではのスキンシップである。つまり。


「あの二人、お友達になったのね。仲がよさそうでよかったわ」


 以前の初恋騒動云々で微妙な空気が懸念された二人である。私は安堵した。そんな私の後ろでは、エイヴァとエルがぼそぼそと言葉を交わしていた。


「あの二人は、仲がいい友達、というやつになるのか?」

「……そう見えるなら、もう、それでいいんじゃない?」


 ――どうしてそういうところだけ気づかないのかなあ、シャロンは。


 エルがついたため息は、私には届かなかったのである。







ここまで読んでくださってありがとうございます!

私事ですが、年末に向けて忙しくなってまいりました。

現在偶数日更新を続けていましたが、執筆の時間が取れないため、12月いっぱいまで更新を停止いたしますm(_ _)m

1月から再開できるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。

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