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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/20 ある意味たぶん、似たもの同士


 だいぶ話がそれた気がする。


 ともかく、皇女の話である。先ほどのエピソードの中でも――私の話題が中心だったこともあって少々控えめではあったが――随所にツンデレ風味のシルヴィナ様のセリフが混じっていたように思う。その時はちょっと気になっただけだが、一か月後の現在では、当時を考えると大いになるほど、と私は思うのである。


 ……ちなみにあの後、シルヴィナ様はどういう解釈が彼女の中で起こったのかは定かではないが、エイヴァと仲良くなった。あの、エイヴァと、仲良くなった。


「御覧なさい! シャーロットお姉さまのすばらしさを!」

「うむ。シャーロットはいつでもおかしい、ですね」

「そうよね! おかしいくらいに麗しくていらっしゃるのよ! わかっているじゃない、あなた! なかなかね!」

「まあ、そう、ですね。我は知っていることは多い、です」

「そう、博識! やっぱりそれもお姉さまの魅力よね! 隠していてもあふれ出てしまいますのよ!」


 以上、教室内で繰り広げられている皇女とエイヴァの会話の一部抜粋である。文章の頭が肯定から始まっているのに全くかみ合っていない会話とはどういうわけなのだろうか。それなのに不思議なことに彼らは会話を成立させ、そして仲良く語り合っているのである。不可解だ。


「波長が、同じなんじゃない? 天然の」

「どっちも、人の話を聞いていないんでしょう、半分くらいしか」


 彼らの会話を受けて、前者の推測を下したのはエルで、後者の推測を語ったのはジルである。うん。多分、それ、どっちもあっていると思う。


 まあしかし、予想外とはいえ懸念事項の一つであったエイヴァと思いのほか打ち解けてくれたのは行幸であろう。国王に報告した際には深い安堵を頂戴した。同時に「まあ、うん。暴走皇女だもんな。斜め上だわー。ははは、お前の妹分らしいしなー。ははは」などという乾いて疲れ切った発言もセットでついてきていた。あまりにも疲労が色濃かったので、後半はお前、どういう意味だ? と追及するのはいったんやめてあげた。忘れたころに追撃をかけようと思う。


 ともかく、こうして学院に潜む爆弾の一つは何とかなったのだ。そして今のところもう一つの爆弾(=変態師匠連)も、第二学年の担当を外れてもらったおかげで遭遇することなく済んでいる。この遭遇を防ぐために教師陣と私とエルとジルと国王と宰相の血のにじむような努力があったことは明記しておこう。変態の神出鬼没な奇行を防ぐには強固な連携と心身の頑強さが不可欠であった。教師のうち数名は変態の変態行為につき精神と物理でダメージを受け、あるいは変態のあふれ出る嗜好への愛の語らいに巻き込まれて生気を吸われた。被害は甚大であった。しかし我々は戦った。今も戦っている。戦線異状なしと報告できている今日に嘆息が漏れるばかりである。


 まあそれはいいとして。


 そうして、当初の見通しよりも平和に学生生活を皇女は謳歌できている。そしてさすがに一か月もたてば、私のそばにいるばかりでもなくなる。というか、私が説得した。朝から晩まで私とエイヴァとエルと、時々ジルとくらいしか話さないのではあまりにも交流範囲が狭すぎるし、エイヴァのことも変態のことも家の商売のことももろもろ抱えている私たちは常に皇女に寄り添っているにも限界があるのである。これには普段無口で鋭い眼光の護衛騎士・ソレイラ殿も大いに賛成の意を表明してくれた。私よりも熱心だったといえよう。彼女もきっと国からいろいろとシルヴィナ様について頼まれているのだろう。天然かつ無邪気で残念ながら『暴走皇女』の称号をひそかにジルや国王からいただいているシルヴィナ様だ。ソレイラ殿もきっと、うん、苦心しているんだね。


 説得した時の彼女はあまりにも捨てられる子猫のように寂しげなまなざしをしていたが、これも彼女のため。かわいい子には旅をさせろという親心である。私、親じゃないけど。シルヴィナ様をなだめすかして納得してもらった時には、「あれが、『保護者』という存在か?」「そうだね、エイヴァ君。時に強く、時に穏やかになだめ、言い聞かせる、母親の手腕ってああいうものなのかも」「母は強しといいますからね。シャロンにはピッタリでしょう」などと男どもがぼそぼそと会話をしていた気もするが、気のせいだろう。たとえ私の精神年齢が親ところではなくとてつもないことになっている可能性が濃厚であろうとも、見た目は同年代の美少女なのである。


 ――さて、そうして説得されたシルヴィナ様は、手始めにクラスメイトと交流をしようとし始めた。ただもともと、ヴァルキア帝国の城奥深くにしまい込まれた深窓の令嬢であって、どうして『暴走皇女』なる称号を手にしてしまったのかわからないくらいに引っ込み思案だったのは事実。つまり、コミュニケーション能力が欠如していた。しかも身分は隣国の皇女なうえ、私への傾倒といいエイヴァとの会話のずれっぷりといい、周囲も軽々しく話しかけるのは躊躇する要素が満載だった。


 よって、膠着状態が生まれた。


(どうやって、話しかければいいのかしら?)

(話しかけられたら、どうやって反応すればいいんだ……?)

(話しかけて、くれないかしら?)

(あれ、こっちが、話しかけなきゃいけない空気、なのか……?)


 ……という葛藤あふれる内心が私とエルとジルには手に取るように分かったが、じり……じり……と微妙に視線を合わせずにお互いタイミングを計りかねている様子はさながら野生動物と遭遇した一般人のようであった。


 そして――――――






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