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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/14 そのころ彼は


「そういえば、エイヴァは、どうしましたの?」


 三人の中でいったい誰が最も女の敵であるか、という論議は平行線だった。私は女だというのに、どういうわけか三人でどれだけ言い合っても平行線だった。不毛な議論は最終的に『女の敵は国王』ということで決着がついた。いたいけな少女の乙女心を掌の上で転がして来いとこれまた年頃の少女に命じる輩にはちょうどいいだろうと意見の一致を見て、議論は終わった。そんな中、ふと私がジルに尋ねたのが先の問いである。


 ジルが皇女の引率とはいえ外出していて、しかも行先はランスリー領。空気の読めないエイヴァがいたらまあ皇女の護衛とかもろもろが大変なことになるのでいないのが正解ではあるのだが、無駄にハイスペックで空気の読めない最古の『魔』たる彼が容易において行かれるとは考えにくい。だってランスリー領だ。主に甘味を狙って今でも脈絡なく出没するというのに、訪問の機会を逃すとは思えなかった。


 もしやすでに屋敷に突撃しているのだろうか。今日の『影』さんは……ディーネとノーミーは王都の別邸、ルフは休暇だが、マンダは公爵邸に詰めていたはず……。エイヴァと追いかけっこができるのは『影』の中でも精鋭だけなのだ。


 ちなみにメリィとアリィはそろって実家のレンドール男爵家に帰省中である。なんでもいまだ見合い話をけり続けてどんなにいい縁もぶつ切りに切りまくっている双子に「そろそろ結婚しようよ? 孫が見たいなー!」と再三言ってくる父男爵を締めに行ったらしい。レンドール男爵に幸あれ。メリィに至っては「シャロンお嬢様と結婚できないのであれば仕事と結婚すると私はあれほど言っておりましたのに。懲りない糞おやじです」などとそれはもうきれいに笑っていた。きっと冗談だろう。悪寒がしたけど……気のせいだろう。


 それはともかく。私が屋敷の警備事情に思いをはせていたら、ジルがさっくり笑顔で、意外な答えをくれていた。


「ああ、エイヴァは王城にいますよ、安心してください」

「「えっ」」


 なん、だと……? 私とエルの声がそろってしまったほどに驚いた。けれどジルの様子から、どうやら嘘ではなさそうである。何を……したんだ? 監禁か? 薬でももったか? 甘味で釣ったか? 現実味がありそうなのは『甘味で釣った』という予想である。だって監禁できるなら最古の『魔』などという肩書はついていないし、薬に至っても同様に効かなそうである。そうすると『甘味』しか残らないわけだが……ランスリー領の公爵邸には最先端の甘味が随時開発中であり、それをエイヴァも知っている。……既存の甘味の魅力に負けるだろうか。私とエルは首をひねった。


 ――が、次のジルの言葉に目が点になった。


「エイヴァは今、真っ白なフリフリエプロンを身に着けて城の奥でお菓子を作っている頃でしょう」


 どうしてそうなった。


 いや、ちょっと待って、理解できなかった。お菓子作り……? 真っ白な、フリフリエプロンで……? 年齢に合わせて多少外見も大きくなったがまだまだ中性的な美貌に肩より下に伸びた真っ白な髪。透色の瞳も神秘的な美貌に、真っ白なフリフリエプロンの、美少年……。なんだそのこれでもかと妄想を詰め込んだ天使みたいな姿は。『魔』のくせに。あまりにも似合うだろうが。何をどうやって騙くらかしたんだ。場合によっては変態だと糾弾するぞ。


 じとっと私とエルは、ジルを見た。ジルはしかしゆっくり首を振る。


「私ではありませんよ」

「では、だれだと?」

「王妃殿下です」

「……」

「なんでも『娘とこうやってお菓子作りをしてみたかった』のだそうで。大変はしゃいでいらっしゃいました」

「……」

「子供向けの絵本を見せて、お菓子作りをするときはこういう格好をしなければならないと言いくるめていましたね」

「……」

「現在、スパルタマンツーマンクッキングの最中でしょう」

「……そう……」


 フリフリエプロンは王家の最終兵器の趣味だった。なんてこった。やっぱりこの国の王族、どこかおかしい。そしてエイヴァは『娘』どころか人外であるにもかかわらずアリス様に言いくるめられている件について。アリス様の最強伝説が止まらない。


 ……ちなみに、エイヴァの正体を知っているのは、ランスリー家とその使用人(管理職に限る。最近領主代理セルバート・アイゼン様が仲間入りした)と我が家の『影』。そして王家の四名である。国王とジルには私から、王太子殿下と王妃殿下にはそれぞれ秘密裏にジル達から伝えられたらしい。


 というか、当初はジルと国王だけで対処するつもりだったようだが、エイヴァがなんていうか、とても『自由』だったので、無理だったらしい。「あれは無邪気なのか? それとも邪気しかないのか?」と疲れ切ったため息とぼろ雑巾のような服装で国王陛下が語っていた。だいぶ矯正してから王城に放り込んだので、エイヴァに悪意はないはずだ。ちょっと何も考えていないだけだ。


「そういえば、『完成したら、シャーロットとエルシオにも食べてもらおう!』と意気込んでいましたよ、エイヴァは」


 うん。ほら、無邪気なんだよ。多分。何も考えていないだけで。


 エイヴァの現状と、ようやく皇女のほうも説教が終わったようでこれから多分面倒くさいことになりそうな予感とで、大変脱力していた私とエルは、そんなジルからの言葉に、ちょっとだけ、癒された。











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