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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/4 『神』であったとしても


 ――『は?』


 素っ頓狂な声が上がった。目があれば丸く見開いているのだろう。紅茶が傾いてどっばどばこぼれている。間抜けだ。


 ――『……いや……はぁ?』


 そしてめっちゃ動揺している。なんと嘘の下手な自称神だろうか。青っぽい光なのに。ここまで表情豊かで読まれやすくて大丈夫なのだろうか。私は哀れみを覚えた。


『つまり、『刈宮鮮花』が選ばれたのは偶然ではなく必然だった、ということよ』


 付け加えて私は告げておいた。自称神はまだ動揺している。盛大にこぼしまくってすでに中身がない紅茶をすすろうとして失敗していた。そもそもその紅茶カップの持ち方は間違っている。だってさかさまだ。


 ――この世界に来た、最初。自称神の声は私を『選ばれた』といった。それを、私は『刈宮鮮花』が『偶然』選ばれたのだと思っていた。しかし、最近よく見るあの膨大な走馬灯モドキの前前前前前前世的な女性たちも私であることからして、そうではないと悟った。


 『私』は転生を繰り返している。つまり、自称神の言うところの私への『命令』は、だれでもいいわけではなくほかでもない『私』でなければならなかったのだろう。それはつまり、私が転生を繰り返しているということも、前世『刈宮鮮花』も、あるいはその死でさえ、この自称神がかかわっているということに他ならないのだ。


「そそそ、そんなことないしー? 前世の時から観察してたとか、そんなんちげーしー? 我、ストーカーじゃねーシー?」などと、馬鹿が動揺のあまりキャラ変した挙句自白しているが、まあうすうすそんな気はしていたので私に驚きはない。こいつ、筋金入りのストーカーだったんだな、とドン引きしているだけだ。できる限り近寄らないでほしい。私も今後、必要最低限以上は近寄らない。


 なんであれ、ふー、ふひゅー、とへたくそにもほどがある口笛と言ってほしいのだろうそれを鳴らし続けて私から視線を逸らす自称神。その態度が答えなので、一つ目の質問はまあいいとしよう。なんか、ほら、深く突っ込むと、藪蛇になりそうっているか……私はストーカーの心に巣くう闇など垣間見たくはないのである。


 なので、サクサク行こうと思う。


『まあいいわ。二つ目の質問にいくわよ、自称神』


 いった瞬間、あからさまにほっとして私に視線を戻したが、自称神。覚悟をしたほうがいい。一つ目の質問が自称神にとって心穏やかならざるものであったのだからして、二問目と三問目が心安い質問であるはずがないのである。


 むしろ、一問目は質問の前から私にとって答えの出ていた、軽いジャブに過ぎない。ここからが本番なのだ。


 私は立てた指を二本に増やした。


『二つ目。――『シャーロット・ランスリー』は矛盾(・・)している。矛盾させたのは、あなたね?』


 がっちゃん。


 テーブルの上で派手な音が鳴った。一問目をやり過ごしたことでいったん冷静になった自称神がようやくカップがカラであることに気づいて紅茶を注ごうとして……二問目の攻撃力にやられたようだ。音が派手だった割に茶器に破損がないのが救いだろうか。


 自称神はぎ、ぎ、ぎ、と壊れたゼンマイ仕掛けのおもちゃのように私を見た。芸が細かくて青っぽい光であることが気にならなくなってきた。不思議だ。私は静かに見返した。


 ――『……ハハハ、いや、にゃんのことか……』


 猫語になっている。動揺の仕方がなかなか珍妙である。そして自称神の手もとでは何とか紅茶はカップに注がれていたが、首を振り振りしながら自称神が延々と角砂糖を投入している。三個、四個、五個、六個、七個、八個……まだ自称神の手は止まらない。もはや砂糖の入った紅茶ではなく紅茶味の砂糖である。だってカップの淵から紅茶がまたしてもこぼれる憂き目にあっているというのに、まだ砂糖を入れ続けるものだからカップからはみ出して角砂糖タワーが建設されている。自称神は紅茶を粗末にするのが得意なようであった。


 しかし、この反応は先ほどと違い少々確信には欠ける答えしか得られなかった。自称神は確かに阿呆のように動揺しまくっているが、それが『シャーロット・ランスリーには矛盾がある』という事実に対してなのか、『その矛盾を自称神が作った』ことなのかはわからないからだ。


 まあ、『シャーロット・ランスリーは矛盾している』、それが私の勘違いではないと確定しただけでもよしとしておこう。自称神はいつの間にか本来の目的を完全に忘れ、角砂糖でいかに高くタワーを作れるかに執心しているし。ちなみに現在、幼稚園生ぐらいの高さには到達している。自称神は感情表現だけでなく手先も器用であったらしい。……手、ないけど。


 とにかく、話が進まないので私は右手の合図で砂糖も紅茶も消し去って、自称神に笑った。


『三問目に行くわね』


 ――『ハイ』


 消え入りそうな声だった。私は、笑みを深めて指を三本、立てる。


『三つ目。――自称神。あなた、』


 視線を、逸らせないように。



『……あなた、今でも、未来が見えてる?』











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