6/2 お久しぶりです、こんにちは
ゴロンゴロゴロ……。
――『あの、』
ゴロゴロ……パリ、パリ、……コクコクコク……パラ…パラ…。
――『あのぉ!』
パラ…パラ…トポポポポポ……カチャカチャ……ふぅ……。
――『おいいいいいいい! 無視すんなああああ! いい加減にしろよ!? 何くつろいでんの? 自分ち? ここ、我の領域! 神領域! ごろ寝でクッションに埋もれて菓子くって茶ぁを飲んで読書って優雅な休日かそなたぁ!』
『え、何。自称神。いたのね』
――『ずっといましたけどぉ!? むしろそなたより先にここにいましたけどぉ!? 我の領域だからぁ!?』
『やだ、私を見てたの? ……気持ち悪い。これだからストーカーは』
――『誰が誰のストーカー!? ストーカーだったとしたらその相手の自宅でくつろいでるそなたはいったい何!? つかストーカーじゃねえよ!』
『『ストーカー』がゲシュタルト崩壊しそうだわ。落ち着きなさい、馬鹿ね』
――『なんで諭された……? 我、我、たぶん間違ってない……』
『騒いでいるのはあなただけじゃない。うるさいのよ、さっきから。栄養が足りていないの? 馬鹿ね』
――『騒がせてんのはそなた! なんで息するように馬鹿にしてくるのだこの娘! やっぱり我、間違っとらんではないか!』
『ほんと、うるさいわね。読書の邪魔だわ』
――『そなた、我の気持ち、わかる? 今日は穏やかな一日だなと思いながら仕事してて振り返ったらそなたが当たり前のようにくつろいでいるのを目撃した我の気持ち、わかる? しかもそのあとどういうわけか間髪入れずに強烈なボディブローをくらわされたのにも関わらずくらわした当の本人は何事もなかったかのように再びくつろぎ始めた我のこの気持ち! わかるか!?』
『よかったわね、昼間から美人に会えて。幸先がいいわよ』
――『何の恥じらいもなく言い切るそなたをいっそ尊敬する。そして我、現在進行形で不幸に襲われてる』
『あら、なんてこと。でも私には全く関係ないわね。勝手に頑張りなさい』
――『この話の流れで自分に関係がないと思えるそなたの神経はどうなっているのか我、全くわからない。我の穏やかな一日、もう台無し。台無しだぞ!』
自称神は青っぽい人魂モドキの姿で感情豊かに切れていた。その感情表現に相変わらず器用だなと思わざるを得ない。しかしわめいている内容は非常にどうでもよかったので半分以上聞き流していた。そんな私の様子に感づいた自称神はさらにヒートアップしていたが……。先に己が何度も転生を繰り返していた上にそのすべての記憶を保有しているようであると夢にて知らされた私のほうが被害者だと思う。
夢には慣れたが、だからと言って許容とは別物だ。だから自称神に報復をしたっていいだろう。だって自称神は自称『神』なのだから。そういう、転生とか輪廻とかをつかさどっているはずである。多分。なので、出合頭に鳩尾をえぐられるくらいは甘んじて受けるべきだ。私は何も間違っていない。
――ともかく。
私がなぜこの空間で自称神に会えるのかというと、私がついに自称神の作った神領域に自由に出入り可能になったからである。苦労した。しかし私はやり遂げた。
なので、自称神が自分で叫んでいた通り、呼ばれたわけではない、私が侵入したのだ。不法侵入だとわめく気概があるのであれば約三年にわたる私へのプライバシーの侵害という己の行いを振り返ってみればいいのだ自称神。……ちなみにプライバシーの侵害の最たるものである心の中を読んでくる蛮行は行えないようにブロックもかけている。抜かりはない。
そのことにさっそく気づいた自称神がぎゃんぎゃんとわめき、『我の神としての威厳を木っ端みじんにしおってこの娘』だのと騒いでいるが、ひとえに私のほうが有能であるというだけの話である。己の無能を私に擦り付けられても……困る。
しかしそれをありのまま伝えてみたところおそらく顔面がゆがむほど――青っぽい光なので顔は見えないが――怒りに震えていた。とっても面倒くさいと思った。
『まったく。これだからストーカーは』
――『声に出てるからな。ものすごくきれいに発音されているからな。なんで評価が『無能』から『ストーカー』に転身した? というか我はストーカーではないと何度言えばわかるのだこの小娘!』
『ストーカーはみんなそういうのよ。ジルだって自分がそうだとはかたくなに認めようとしないけど……ストーカーじゃない。それと同じよ』
――『……いや、うん……あやつは……我もストーカーだと思う。思うが、……一緒にすんな』
『一緒よ。どっちも気持ち悪いわ』
――『やばい、我、泣きそう。こんなに心が折れそうなのは久しぶり。我、もしかしして、いじめられてる? 我神なのに?』
『やだ、人聞き悪い。いじめじゃないわ。ただの事実よ。現実を受け止めなさい、馬鹿ね』
――『もうやだこの娘、とどめさしてくる! 優しさ! 我に優しさをくれぬかあああ!?』
『何言ってるの。あなたへの優しさなんて、ないわ』
――『……もう帰れええええええ! お願いしますぅううう!』
自称神は、たぶん目があるなら、涙目だった。