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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第五章 大人の天秤
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5/22 傍観者は爪を研ぐ


 その後の事だ。やはり、エリザベス嬢は私が思った通り、肝が据わっている。そして利に敏い。どこまでもぶれない理想のお姉さまである。


 その後はいったん『前向きに検討』ということでフィマード伯爵家当主に話を持ち帰ることになった。まあ夜も遅かったしエリザベス嬢は夕方の追いかけっこで俊足を披露したこともあり、お疲れだったので今夜は我が家にお泊りしていただくことになった。張りきった使用人さんたちのおいしいご飯を食べてゆっくり心と体を休めてほしい。もちろんフィマード伯爵家にはとっくに我が家の伝令が行っている。話が長くなるのはわかりきっていたし。


 なお、別室待機中だったチョウとデンとゆかいな仲間達には依頼主に本日の首尾として後日エリザベス嬢が件の商人を訪問することになったのでその伝言を持ち帰ってもらった。別室待機中にも律義に笑顔の練習をしていたようで、それを披露してくれたのだが、どういうわけか「ぐへへへへ、野郎ども、奪って殺して俺様に献上しな!」「へい、親分!」という感じの悪党とその手下の笑顔になっていた。なぜだんだん悪化していくのだろうか。ある意味才能だと思った。


 ともかく。


 これにてエリザベス嬢と魔道具の問題は一歩前進。今後何度か互いに細かい点を詰めて正式に契約を結び、魔道研究所の設立に向けて忙しくなっていくだろう。腕が鳴る。


 ――ただ。


 今回、問題はそれだけじゃない。そう、我が義弟・エルの問題である。エリザベス嬢との話では完全に生き生きと説明にいそしみ私との意思疎通もばっちりでとても楽しそうだったエル。さすが私の義弟。すっかりランスリーに染まっている。はかなげゆるふわ美少年なのは変わらないのに、内に秘めし精神力が着々と鋼になっていってる。そんなエルを見ながら隠密のように気配を殺していたアリィが「さすがエルおぼっちゃまとシャロンお嬢様……ご成長されて……!」と感涙にむせていた。エリザベス嬢とアーノルドさんには聞こえず見えない、そんな角度を完璧に計算しているのは素晴らしいと思った。相変わらず彼らは私たちを愛しすぎているとも思った。とてもうれしい。大好きだ。


 ……でも、あの子はとっても生き生きとしていたけれど、今日の昼間、喫茶店での様子を忘れてはいけない。というか学院に入学してからこっち、たまに何か考え込んでいる様子を見受けられると、報告を受けていたし私も気づいていた。エルが何も言わないから、私も強いて口を出しはしなかったが。


 まあ、エイヴァのこともあったし変態師匠連インパクトもあったろうし、王都への引っ越し&学院という新しい環境ということもあったし、エルもそうそう考え込んでばかりはいられなかっただろう。エリザベス嬢との話で見せていたように、悩みはいったん横に置いておいてやるべきことをやるという状況判断もできる。……悩みからの逃避がないわけではないだろうが。


 そしてエルから実際聞いてはいないが、『影』さんたちからの報告はほかにも微に入り細に入り受けていて、まあ私が予測していることで、エルの悩みの原因はほぼほぼ間違いはないだろうと思っている。


 というか、わがランスリー家もちょっと『迷惑』を被っている話につながっていたりするので、それに対する『対策』は大体根回し済みにもなっている。この大事な時期に水を差されたくはないのだ。ただでさえ『魔』と変態でなかなかに忙しい学院ライフを送っていて全くもって初々しさなどない私の最近の生活だというのに、余計な面倒ごとを持ち込まないでいただきたいという話だ。私のかわいいエルを動揺させるし、万死に値する。


 ――まあ、それでも、これはエルが向き合ったほうがいいと思うから。


 だから、私は、見ないふりを今はする。気づかないふりをしておく。考える時間はまだある。エルだって、自分で解決しなければならにと分かっているから相談をしてこないのだ。そして賢くかわいいわが義弟も、もうじき動くだろう。


 潮時だと、たぶん、今日あの子自身が思ったはずだ。

 だから、存分に、――向き合っておいで。


 受け入れるのも壊すのも突き放すのも、……潰されるのも、エル次第なのだ。立ち上がり方をあの子は自分で知っている。簡単に壊されるほどやわでもなければ愚かでもない。その心で何を思うかまでは私には想像するしかないが、私は、エルを信じている。


 まあ私はエルが大事だし、あの子を傷つけようとする輩は比喩なく万死に値するのでじっとしていられないことも、あるかもしれないけど。


 うん、その時は、許せ。


 だって大事な家族に手を出されたらキレるでしょう。我慢とか無理無理。殲滅魔術大盤振る舞いしちゃう。何なら変態を釣って放り込んじゃう。きっと素敵な阿鼻叫喚が出来上がることでしょう。


 そしてエルが泣くような事態になった場合、使用人さんたちも……我慢とか無理だよね。領地に残っている使用人さんたちまで一緒になって抹殺一択だと思う。彼らは……こう、ほら、ハイスペックを極めており……メリィを筆頭に隠密度も上がっておりまして……彼らの大半は別に『影』所属では、ない。はず。なんだけど。


 うん、愛だね。


 まあ、大丈夫。

 ――エルは独りじゃないのだ。







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