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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第五章 大人の天秤
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5/19 少年、少女、虚実を嫌うのは


 魔道具。


 エルの誘拐事件の折、我がランスリー家の警備をかいくぐってやって来た輩。彼らが使用していたのは魔道具だった。まあ、あれは某世間知らずの無駄に歳食った『魔』たるエイヴァ、現似非同級生の彼が面白半分に作って渡した伝説級の代物だったが。というか作った本人も忘れていて本日言われて思い出すとかいう扱いの軽さだったわけだけど。まあ彼には常識もなければ限度もない。


 ともかくも、魔道具である。


「……魔道具?」


 エリザベス嬢とアーノルドさんは訝しげである。まあ仕方がない。エルも苦笑している。なぜならば魔道具というのはエイヴァが作ったような狂った性能でなければ、普通に売っているものだからだ。値段やら機能やらはピンキリだけど。もちろんうちの商会でも現段階で既に取り扱っている商品である。そうであるからしてエリザベス嬢たちからすると今更一体どういうことなのかと疑問しかないのだろう。


 しかし私たちの考えているものは普通の魔道具では無いのだ。


「はい。魔道具です。と、言っても通常のものではありません」


 エルがふわり、笑って言えば、エリザベス嬢は首を傾げた。

 うん、かわいい。

 ではなくて。


 ――基本的に、魔道具とは魔術の補助道具である。魔術師が魔術を行使する時に、その威力を高めたりとか、適性のない属性の魔術を行使したいときに媒介にしたりとか。ただし魔道具というからには発動させるには魔力が必要なのだ。通常の魔道具には最初から魔力が込められている状態で販売されている。つまり魔力を持たない人間でも発動自体はできる。しかし通常魔道具というのは使い切りなのだ。前世で言う『充電』ができない。


 国民の半分以上が魔力を持っているし、貴族に至っては高い魔力を誇っているが、魔力にはそれぞれに個性があるものであり、最初に魔力を込めたもの以外が後からそれを補充しようとしたところで反発して不具合を起こしてしまうのである。使いまわしもきかないし、そもそも高性能であればあるほどに魔道具に込める魔力は膨大になっていくので便利な魔道具ほど高額だ。


 今回私たちが目を付けたテーマはこれの改善にある。

 つまり、『半永久的に使える魔道具を開発しようぜ』ってことだ。


「もちろん。今は存在いたしません。けれど、道筋はある」


 絶句するエリザベス嬢たちにエルは言う。


「……それが、実現できたなら、革新的、ですわ……ですけれど、」


 エリザベス嬢は眉をひそめ、視線をしっかりとエル、そして私に向けた。


「なぜ、『わたくし』なのです? ……ランスリー公爵家は魔術の大家。魔道具の研究開発を進める地盤も技術者がそろっておられるだろうことも疑いはありませんわ。ですけれどわたくしどもフィマード伯爵家では特別魔術への造詣は深くはございません。風、そして土の魔術に適性があるものが多く生まれる家柄ではありますが……わたくしではその期待に応えられるとは思えませんわ」


 苦虫をかみつぶすような顔をするエリザベス嬢。予想以上に話が大きかったせいだろうか、後ろに控えるアーノルドさんも顔が強張っている。しかしエルは私直伝のエンジェルスマイルだった。


「そう思われるのも仕方がありません。ですが、最初にシャロンが言ったはずです。僕たちはエリザベス様の才能に投資する。……貴方様の手腕と領地の特産品が僕たちにとって利益になる、と」


 はっと、エリザベス嬢が息をのんだ。


「工芸品……?」

「ええ。フィマード伯爵領では工芸が盛んで、とくに金属工芸とガラス細工が有名ですよね」

「はい、そうですわ」

「これまでの魔道具は結界を付与した玉であったり、適性魔術を込めた剣などの武具あるいは防具であったりと日用品ではなく戦時や冒険者、あるいは高位貴族向けのものばかりでした。ある程度大きさと強度がなければ魔力の付与に耐えられない、というのが一般常識でもあります。しかし今回、僕たちの構想としてはもっと利用しやすい、身につけられるもの例えばペンダントであったり、髪飾りであったり、ペンであったり……そういった装身具を考えています。そのうえで、貴領の協力は非常に有益です」

「……」

「既に研究班が……僕やシャロンも含め、動き出しています。ある程度は成果も出ております。実用化には至っていませんが……アリィ?」

「は、ここに」


 エリザベス嬢がびくっとした。お前、いったいどこから湧いてきた……? そんな驚愕が浮かんでいる。しかしアリィは『なぜ自分なのか』とエリザベス嬢が疑問を呈したあたりでごく自然に入室してごく自然に冷めていたお茶を淹れ替えメリィの横に控えていた。私たちの専属が隠密を極めている……。彼等は、どこへ、行き着くつもりなのか? そんなことは気にしてはいけないのだ。やり切った彼らの満足そうな顔が可愛い、それだけでもういいじゃない。そう私とエルが解りあったのは割と前のことである。


 ともかく。


 アリィが持ってきたのは研究所での試作品である指輪である。シルバーリングに控えめに石があしらわれている。物自体は割とそこらへんで大量買いした安物である。石も綺麗だけど硝子だし。


「これには守りの魔術が込められています。まだ安定が難しく、一度発動すると効果を失う、または亀裂が入ってしまうのですが……付与自体は成功しています。僕やシャロンがやると信憑性が薄いでしょう。どうぞ、何か軽い魔術でも物理攻撃でも構いません、試していただけませんか?」


 指し示すエル、差し出すアリィ、目を見合わせるエリザベス嬢とアーノルドさん。十秒ほどの躊躇いのあと、「風よ、」と呟いて小さなつむじ風を掌に生みだしたエリザベス嬢。


「行きますわよ……? 『切り裂け』」


 ひゅん、と投げられたつむじ風、向かっていく標的は指輪、それを掲げるアリィ。息をのむ一同。結果は、


 ――ぽわわん、ぱしん、……ぱしゅ~ん。


 何とも可愛らしい音を立てて、アリィを囲んだ光属性守護結界が見事つむじ風をかき消したのである。










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