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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/54 信じる者は救われるか


 ランスリー家に裏切り者はいない。


 なぜ言い切れるかといえば孤児院襲撃が囮であったのであれば、その裏で敵方が画策していたのはこちらの内情……つまりは、王族を支える存在は誰なのか、を明確にすることが目的であるのは明白だからだ。


 つまりランスリー家(うち)である。


 うちが協力者なのかどうかを暴きたいのにうちに内通者がいるとか……ない。そう思わせるための、裏をかいて、などというのは愚考だ。労力が無駄だからだ。うちに内通者がいるのであれば孤児院を囮にする必要がない。そっちに全力投球でいいし、そもそも作戦がもっと詳細に漏れていたにちがいない。っていうか、我がランスリー邸の使用人さんは全員私の可愛い子であってすごく……何か……どこを目指しているのか……戦闘能力と隠密能力がカンストしていらっしゃる。そして情報統制に秀で、私とエルに忠実で……溢れる重たい愛でいっぱいの邸の中で私たちを裏切るとかとっても狂気の沙汰。それをやり切れる猛者が内通者であったのなら王族はとっくの昔に首と胴が離れているだろう。


 まあ、一番の根拠は、ランスリー家の頂点は、エルが勉強中の現時点では私だからだ。


 それが全てであり、故に最初から我が家の者についてはだれも疑わなかったというこの信頼。前世親友が言ってた。「貴方の人心掌握能力は洗脳よりもたちが悪いわね。寒気がする。近寄らないで」。ただの嫌悪交じりの拒絶だった。


 ともかく。


 ランスリー邸に裏切り者はいない。満場一致だった。つまり内通者は王城にいるのである。王城に努めるメイドやら使用人やらが暗殺者もどきに化けていたこれまでの事実からしても、なんていうか、しょっぱい顔に王子様たちがなるのは仕方がないだろう。ちなみにそんな暗殺者もどきを捕まえて容赦ない採決を下しながらも、


『まあ全員把握とか、俺メンドクサイし……信頼できる人間は見分けれるし。つか人間集まれば不満くらいあるだろ? あとはもう……個性じゃね? 殺意に至るとか過激派だよな』


 と言い切ったのは国王陛下である。


『そういう問題ではありませんよ国王陛下』と能面のような顔で言ったのは王子二人で、『あらあら』笑っていたのは王妃殿下だった。王妃殿下の鷹揚さが眩しい。これが命を狙われた家族の姿だろうか。確かに国王陛下の周りの人間は信頼できる人間のみで固められているようであったし、王子たち王族の周辺もしかりである。


 そうなんだけど、そうじゃない、と言いたげだったのは宰相辺り重鎮だったのだが、言っても無駄というのも顔に描いてあったそうだ。付き合いが長い彼らは国王をとてもよくわかっている。悟りを開いているのだろう。「暗殺者の心理を個性と言い切る貴方が分からない」という困惑は磨り潰されて消えたようである。人間は諦めを時にうまく使いこなす生き物なのだ。


 まあそれはそれとして。


 現実に目を向けると、すっかり元の姿を取り戻した孤児院と楽しそうな子供たちと、圧倒的な生存年月の差を乗り越えて同レベルではしゃいでいるエイヴァ。それを微笑ましく見守っているエルとジルとシスターたち。ちなみに何のかんのいいながら昼食を御馳走になった。ここに居る人間は全員神経が太いということを実感した。楽しい昼食会だった。「シャロに似たんだね」「シャロに似たのだろうな」「シャロに似てしまったのですね」とエル以下男三人組は何かしみじみと語っていた。腹立たしい顔つきだったので向う脛を蹴り飛ばして差し上げた。


 ともかく。


 そんなこんなで、孤児院での交流は恙なく終了した。変態の襲撃も予定に含まれていたので恙なくで間違ってはいない。


 そして本日の予定はもう一つある。『町で簡単に買い物をしてみましょう』。


 子供たちとの交流ももちろん大事だが、街中を平穏に歩いてみるというイベントを熟すというのも大いなる経験でありエイヴァの成長のための一歩である。行きは非常にはしゃいでいたし……私のお友達の皆さんが愉快な挨拶をしてくれたので少々普通とはいかなかっただろう。買い物は金銭感覚の矯正という目的もある。ちなみに対象者はエイヴァ及びジルである。エルは問題ない。時々ランスリー領にて私が身一つで放り出し、我が領民さんに暖かく見守られながら社会経験を積んでいるからである。


 記念すべき第一回目では何が起こったのかわからないエルが混乱のあまり他領から侵入してきた盗賊団を一網打尽にするというどうしてそこに行き着いたのかわからない事件が勃発したりもしたが、まあ私自身含め、年に数回ある恒例行事である。今年は私たち二人とも学院に行くから来ないんですかね、と寂しそうにつぶやいた領民さんたちが愛しかったので、長期休みには突発領民訪問を敢行する旨を耳打ちしておいた。やったあ! って喜んでいたから私たちはとても愛されていると思う。


 まあつまりは、そういうわけなので、子供たちとの交流を終えた今から私たちは町へ繰り出し、簡単なお買い物経験をしてみるのである。


 ちなみに、それを切り出した時の反応は、


「あの騒動のあとで予定を覆さないあなたの精神はとても強いですね。感服します」

「予測していた襲撃だったとはいえ、あれだけの凄惨さだったのに。シャロの笑顔はいつでも輝いているね……」

「買い物! 買い物! お小遣いを使っていいのだろう? この金属だろう? そうだろう? いこう! 早く!」


 三者三様だった。まあ呆れようが喜ぼうが嘆こうが、予定は完遂する所存なので諦めるのが正解だ。事件は事件、教育は教育。切り替えが大切だ。


 ――先ほどメリィとルフが帰還して、やはり『手練れ』に襲われたらしいことも聞いた。それに関しても、ディーネの尋問が煌めいて情報を更に集めてくれるだろう。そちらを考えるのは、情報が出そろってからだ。焦れば何かを、見落とすものだ。


 ……まあ、予測だけなら、いくらでもできる。今でも。これまでも。


 作戦前。王太子殿下とも話を詰めた小さな部屋。ラルファイス殿下が退室され、私とジルも解散しようとしていた時。他の誰にも聞こえない小さな声で囁かれた。


『――本当は、貴方、どこまで分かっています?』

『……貴方が見通す『可能性』と、同じくらいには』


 囁き返した。耳目は多いのだ、私も彼も。



 可能性にすぎない『予測』が『事実』に変わった時は――――――――――――さあ、如何追い詰めようか。










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