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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/53 毒を飲む猜疑心は罪にはならない


 孤児院でやるべきことはとりあえずやった。


 とっても計画通りでさっくり終わったので物足りないとか思ってないよ。全然思ってないない。騎士さんたちがいい働きをしてくれたのでスムーズに完了したともいう。流石精鋭十名。しかしまあ王太子殿下が信頼できる手駒が十名って少ないんですねとかうっかり本人に言ったら涙目になってた。ごめんもう言わない。


 何はともあれもはや戦闘とか幻だったかのように部屋は綺麗だし、子供たちは……けがもなく、今は絵本を嗜んでいて楽しそうだ。なぜそこにごく自然にエイヴァが混じっているのかはわからないが、仲が良くなって喜ばしいとは思う。


 メンタルケアに関してはシスターと王城からのサポート、後でランスリー家からも医師の派遣を手配済みだ。私もこまめに顔を出すつもりである。エイヴァが思ったよりすぐに動かず、襲撃者が子供の目に少々変態として映ってしまったし、エメとリクには怖い思いをさせた。後で甘やかそう。今は絵本を嗜みゆっくり休んでほしい。……その血なまぐさいおじいさんとおばあさんが出てくる絵本はいったいどこで発行されているのか気になる所ではあるのだが。挿絵のおじいさんとおばあさんの眼光が鋭くてワイルドだ……。なぜ、それを、今、チョイスするんだ? シスター。しかしそれを読み聞かせられて猶子供たちが楽しそうだからもしかして心の傷は浅いのかもしれない。さすが私の秘蔵っ子。精神がタフだ。


 こっちの事情としても、先に『影』の精鋭四人……ルフ、マンダ、ディーネ、ノーミーを逃げるであろう襲撃者の飼い主をとらえるために追わせたのであとは後日、王太子殿下も交えて要相談だろう。……まあ、ここに襲撃してきた『薬物中毒者』たちの、精度が低かった(・・・・・・)のが少し気になって、嫌な予感がしたから、念話でメリィとアリィに連絡をして彼女たちを追ってもらったのだけれど。


 ――私が『イーゼア』の中毒者に遭遇するのは今回が初めてではない。己の変態遭遇率に慄然とするが、出会っていたものは出会っていたのだから仕方がないだろう。しかも、前回は仕組んだのではなく、完全なる事故である。


 ジルに笑顔でなじられた私とエルの入学前の魔力測定。そこを襲撃した元気のいい賊。

 あれは全員イーゼア中毒者たちだった。


 おかしいと思ったのだ。いくら運が良かろうと、将来を望まれる貴族子女が集まる場所は厳重な警備がしかれているというのに、そこを突破できた賊。もちろん私が華麗に吹き飛ばして終了したわけだが、最近の荒くれ者はレベルが高いとかそういう次元の話ではなかったし、そもそも涎をたらして完全にイッた目でなだれ込んできたし。まあ、調べるよね。判明するよね。……うゎっておもうよね……。それも含めて『やらかしやがって』ってジルに責められたんだけど、なんで私が引き寄せてるみたいに言われなければならないのでしょう。またしても国内の膿を発見して差し上げただけだ。感謝を要求する。


 ともかく。


 そんな魔力測定会場賊乱入事件では、私の前ではゴミだったものの常軌を逸した彼ら、なぎ倒されて(・・・・・・)いく騎士たち(・・・・・・)。これがその時の状況だ。……いくら今回の騎士たちが王太子付きの精鋭だとはいえ、魔力測定会場にいた彼等も王城付きの騎士だ。それが簡単に薙ぎ払われたあの時と、私たちのアシストがあったとはいえ三倍の戦力差を覆し制圧できた今回。裏で指示を与えた人間の力量にも多少は左右されるだろうが、腑には堕ちない。……まあ、これに関してはメリィたちの報告で分かることもあるだろう。


 ただ、まあ。孤児院襲撃をただ数だけ揃えたそこそこの力量の薬物中毒者で固める、というのは……私たちが『囮作戦』を敢行したのと同じように、敵さんも『孤児院』(こっち)が囮だったというケースが一番可能性が高い。


 ……やっぱり、孤児院が襲撃された時点で確定だけど、さらにがっちりその地盤が固まってしまった『王宮にいる内通者』の可能性。


 そもそも、王宮内で王族が狙われる毒混入事件やら吹き矢事件やらが超些細な感じで地味に多発していた時点で、内通者がいるのでは、という可能性が浮上していた。なぜなら、王宮は私プロデュースの警備態勢で侵入者や襲撃者にとってはとってもデンジャラスな要塞と化しているからである。結界にトラップに騎士の巡回ルートに抜け道の作成にありとあらゆる事態を想定した警備訓練にトラップとかトラップとかトラップとか……。「馬鹿じゃねえの? 侵入するやつ、馬鹿じゃねえの? すっげえ可哀想……あはは、かわいそう! もっとやろうぜ」と国王がノリノリだったので実現した。なんという同類臭。欠片も可哀想と思っていない嘲笑付き。えげつないアイデアを語り、設置するのは楽しかった。


 そんなわけで外部の殺し屋がどれだけプロでも侵入者は只の可哀想な被食者である。王族に毒を仕掛ける前に己が大変なことになるだろう。


 つまり、王族を狙ったのは、内通者というか、まあ内部の裏切り者だった。そしてそれらは悉く捕まった。というかえげつない罠は王族を狙った襲撃者に対しても優秀に作動して毒入りの食事とか毒付の武器とか持った人間ごとちゅるんと闇に引き込み……えっと、かわいそうなことになった。


 でもそいつらは悉くトカゲのしっぽだった。大本には切って逃げられた。しかも大したことを知らないというか、私利私欲に目がくらんでのパターンとか、裏がいるなんて思ってもいない誘導煽られ型とか、もしくは全然知りもせずに毒を盛らされていたとか、そんな感じだった。なので、トカゲのしっぽとは別に内通者の居る可能性は高いが、裏切者たちと城の外で接触を持っていてそそのかされた、っていう可能性も捨てきれなかった。


 しかし。


 今回の『王太子孤児院訪問』は、超極秘だった。知っていたのは私とエルと私の部下達、王子二名と同行する騎士、そして作戦の全てが決まった後に言い逃げのように報告しておいた国王だけである。「ヤダうちの息子たちが毒されてる……シャロン色に染まってる……」などと国王様はわけのわからないことをのたまっていたが、少々お疲れ気味なのかもしれない。まあ私には関係のない話だ。


 しかし漏れていた『孤児院訪問』、そして起こった襲撃と、それが囮であった可能性。


 さて何処から漏洩したのか、それをあぶりだすのが楽しみだ。とっても。ジルと王太子殿下は複雑を極めた顔をしているけれども私は同情しかしてあげられない。




 だって、ランスリー家に裏切り者はいない。








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