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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/48 影、四つ(ルフ視点)


「……ぁっ……ひいぃっ。やめっぐぶ」


 孤児院から東に離れた森の中。無様にのたうち回るのはプラチナブロンドを振り乱し褐色の瞳を恐怖に歪めた小柄な男。身なりはそれなり。貴族ではないが金持ちではある。護衛を雇える程度には。まあそんな護衛も今はそこらに転がったまま動かないけれど。


「ゲハハハハッ! オレらから、にぃげられるとでも思ってんのかよぉ?」


 下品に笑ったのはその小男を踏みつける黒服の女――マンダである。個性しかない癖の強い真っ赤な髪はフードに隠されているが、瞳孔のかっぴらいた灰色の瞳が狂気的にギラついているワタクシの同僚だ。本日も実に品がない。そこそこ整った顔をしているはずなのだがその瞳孔が開き切った表情が台無しにしている。左頬についた三本の傷は孤児時代につけたものと聞いたが。お嬢様にかかれば一瞬で消える代物を遺しているのは彼女の美的センスというものであるようだ。よくわからない。


 まあそんなものワタクシの右頬から鼻を横切って走る傷には及ばない。ワタクシのこの傷はお嬢様とのハートフルメモリアルにあふれているのである。


「待て、なんでっ、俺は! 何も!」


 小男が何か喚いている。ワタクシは耳障りな音しか吐かないその口を踏みつける。ムガムガとやはりうるさいが、少しはましになっただろう。


「死にますよ」

「死んじゃいますよ」

「それが死んだらウチまでお嬢に怒られる」

「それから搾り取らないとうちまでお嬢を悲しませる」

「「だからそれは持って帰って半殺しにしましょう」」


 最後に綺麗なユニゾンで結んだのは双子のディーネとノーミー。レモンのような真っ黄色の髪を顎のラインで切りそろえているのが姉のディーネ。肩下で切りそろえているのが妹のノーミーである。やっぱりワタクシの同僚だ。


 丸型の眉に垂れたブラウンの瞳がのほほんとした印象を醸し出しているが、エイヴァ殿と熾烈な命がけ追いかけっこを商会内で繰り広げている武闘派の双子姉妹は彼女たちだ。今も魔術を使えば一瞬で意識を奪えるのであろうに姉のディーネがゲッシゲッシと表情を動かすこともなく小男を蹴りつけている。そのたびに蛙の断末魔のような声が男の口から洩れるが、まあそれはどうでもいい。なぜなら、今まさにそうであるように放っておいても妹のノーミーが面倒くさそうに小男の鳩尾に一発くれて意識を奪ったからである。


「ねえルフ」

「ねえねえルフ」

「これは『お部屋』に持って帰りますか」

「それとも『王宮』に配達しますか」

「絞った後なら殺してもいいですよね?」

「殺してもいいはずですよ。だってお嬢の邪魔をしました」

「そうそうお嬢の邪魔なんです」

「邪魔は排除。お嬢もすっきりします」

「すっきりしましょう。終わったらウチはお嬢とお菓子を作るんです」

「うちがお嬢と南方料理の研究をするんです」

「ウチです」

「うちです」

「ウチ「『ウチ』『うち』うるっせえ! 交互に喋んな双子ひよこ!」……下品なマンダには言われたくないです。ねえノーミー」

「そうですねディーネ。下品な赤頭。だから下女どまり」

「てめ、人の気にしてることを!? オレの真の実力をお嬢様も坊ちゃまも認めてっからイイんだよ!」

「気にしていることを認めています。実力はあるくせに馬鹿ですねマンダ」

「言葉遣いを直す気がなくてその地位なだけでしょう。腕はあるのに馬鹿なマンダ」

「てめえらっ! 認めんのか馬鹿にすんのかどっちかにしろよ! サド双子!」

「サドはウチだけです」

「サドはディーネだけです」

「ノーミーは面倒が嫌いで容赦がないだけです」

「うちは甚振るのは面倒くさいです」

「ウチは甚振るのも楽しいです」

「ディーネは尋問が得意です」

「ノーミーは効率計算が得意です」

「……しらねえよ!」


 マンダの叫びには同意するが、彼女は双子の玩具になっていることにいい加減気づけばいいと思う。ワタクシの同僚たちは本日も仲がよろしいようだ。煩い。ワタクシはその間に小男に猿轡をしてぐるぐる巻きに自由を奪って、シャロンお嬢様から授けていただいた空間収納魔道具に放りこむ。マンダもディーネもノーミーも完全に脱線しているが、最初にワタクシに投げかけられた質問の答えは『いったん『部屋』に連れ帰って情報を搾り取ってから『王宮』に配達する』が正しい。なので、殺してはいけないのである。邪魔は排除だが、これは王太子殿下も関わる案件。殺しては、いけないのである。


 ともかく、一人でここを片付けるのは理不尽であるので、まだ喚きあっている同僚共に声をかける。


「マンダ、ディーネ、ノーミー。片付けてからはしゃげ。煩い。あと、あれは殺せない」


 すると面白いくらいに「そんな!」という顔を揃ってした。馬鹿面であった。


 ――まったく、これでもワタクシたちが、お嬢様付き『影』四名だというのに。







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