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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/46 感性は人それぞれ(エイヴァ視点)


 気が付いた時には全て終わっていた。最終章、おじいさんの宿敵であるひいおじいさんとやらが立ちはだかり、おばあさんがまさかの超進化を遂げて颯爽とおじいさんを助けるかと思いきや見捨てて単身ひいおばあさんに突撃し、それを見たおじいさんが悪魔を召喚して盛大な夫婦げんかが勃発した流れはアツかった。……ちなみに、続編があるらしい。これは期待が持てる! 楽しみだ!


 ともかく。


 ふと気づいた時には変態共は駆逐され、騎士共は王太子の周囲を固め、シャーロットたちと何やら小難しい話の応酬をしているようであった。シャーロットの指示か、天井に潜んでいた者数名――おそらくはシャーロットの影――が何かを追うように動き出した気配もしたが、孤児院周辺には特に危険はない。部屋の中はまさに死屍累々だが危険はもうないだろう。鬼畜型反撃結界も解除されているし。と、いうことで我も結界を解除しようとした。


 が。


「まだ駄目だよ、エイヴァ君」


 そっと。我の背後によって囁いたのはエルシオだっ……


「ふおっ!?」


 近っ!? ちょ、近い!


「それは近いだろうエル! 耳元で話すな!」


 そう、耳元で内緒話の如く囁かれたのである。なぜそうなった!


「うん、騎士たちに聞こえないように、かな? さっきの自律型結界も、この守護結界も、ランスリー家から託されていた魔道具のお蔭ってことになってるから」

「なん、だと……? 我の手柄がむぶ!」


 衝撃の言葉のあまり声を上げればがっちり口を塞がれた。なんたること! 何たること!


「うんうん、僕たちも子供たちも分かってるから。でも注目されたくないってのはここでも同じ。王太子殿下は全てご存じだから、騎士たちの目だけ誤魔化せればいいんだ。我慢して?」


 ふわっと笑うエルシオ。胡散臭い。胡散臭いぞ!


「……ぶー……」

「うんうん、頬を膨らませないでね。子供たちにどうしたのって言われちゃうよ?」


 む。子供らを出すとは卑怯な。だが、子供らには格好をつけたのだ。我は……我は……。


「むー……。ふんだ。……それで? なぜまだ解除してはならんのだ。もはや安全であろうが」


 そっぽを向きながらも話を変えることにした。子供らを出されては、仕方ないではないか!


「うん。確かにもう危険はないんだけどね、この部屋の惨状が、ちょっと教育に悪いから」

「ふむ?」


 言われて再度見わたせば、死屍累々。いや、その死体は騎士共によって片付けられてもうあまり残っていないが……破壊跡でボロボロの壁や床、そして血みどろで未だ真っ赤に染まる室内。


「……そうか? 変態は撲滅しただろう」

「うん、エイヴァ君の感性がちょっとズレていることを今すごく実感したかな。変態はもちろん教育に悪いけど、この血みどろ状態もダメなんだよ。だから綺麗になるまでもうちょっと待ってね?」

「そう……なのか? 屋敷の者はシャーロッ、シャロは九つの折から魔物を討伐し、血を全身に浴びて笑う悪魔のようであったと」

「あの人は特殊だよ」

「特殊」

「普通の女の子がエイヴァ君に勝てるわけないでしょう?」


 なるほど。納得した。エルシオは説明がうまいな! 感動した。そして理由が分かったので、部屋がきれいになるまではとりあえず我の守護結界は解かずにそのまま維持しておくこととする。『大人』の話は、我には難しいのである。


「……それでは後日詳しいお話を……」

「はい。それでは……」

「本当にこの部屋の片づけは……?」

「はい、応急の修復であれば職員で……」

「分りました。それでは後日改めて孤児院への補償のお話も。警備のために騎士を数名残していきましょう」

「かしこまりました。お気遣いいただきありがとうございます」


 そうしているうちにあちらの話もまとまった様である。王太子が騎士を引き連れて去ってゆく。ガシッとエルシオに頭を掴まれたので礼をして見送る。痛い。そして部屋は血なまぐさいままであるが……


「さあ、お片付けね。エル、ジル」


 朗らかに笑ったシャーロットの一声。そうすれば打ち合わせていたのだろうか、心得たように二人も動き出す。


「――水よ。包み流せ――」

「光よ―――浄化」

「風と土――癒しを」


 ジルファイス、エルシオ、そしてシャーロット。魔力が部屋を順番に包む。ジルファイスの呼んだ水が血と争いの痕跡を洗い流し、エルシオが降らせた光の粒子が死臭を払拭する。そしてシャーロットの風が空気を入れ替え水気を払い、土の魔術で破損した壁や床を瞬く間に修復してみせた。玩具なども大体直っているようである。ふむ。変態共が暴れていた折にはなっていた攻撃魔術などとは比べ物にならぬ精度である。やはりあの変態ら、ゴミであった。


「エイヴァ」


 シャーロットが我を呼ぶ。それでようやくほぼ元の様相を取り戻した室内を眺めていた我は手を叩き、パチンと指を鳴らして結界を解除して――――――


「ふお?」

「ふひゃ?」

「あっ! もどってる……?」


 絵本の読み聞かせに微睡みかけていた子供たちが解放されたのである。












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