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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/43 少女は、断言する(エイヴァ視点)


「シャ、ロはいつでも鬼畜であろう」


 なにせ外道の心を持つ女である。我にも酷かった。瀕死の我に容赦なく現実を突きつけ毒を吐く女であった。なので心のまま思うまま、正直に返したところでシャーロットは天使のような微笑みを浮かべた。


「エイヴァ。後で、お話があるわ」


 この上なく優しい声音に我の背筋は悪寒が這い上がり、助けを求めれば馬鹿を見る目でエルシオとジルファイスに切り捨てられた。薄情者どもめ!


「まあそんなことはいつもの失言だけど。……シャロはねー、確かにたまに過激なんだけどねー、その時は初めてそんな『掌返し』に遭ってとっても……取り乱したよ」


 エルシオがひどい。しかし『掌返し』とはいかに。


「いや、ほら。誘拐されたって言ったでしょう? 頼れる強いお義姉(ねえ)様が捜索の手を伸ばしてくれると思うじゃない……いや、捜索はされていたんだけど」


 疑問気な我の視線に答えるエルシオはとても遠い目だった。シャーロットはいかな鬼畜の所業をなしたのか……。ゴクリ、息をのんだのは我とジルファイス、同時であっただろう。


「誘拐は本物だったんけど……その裏にはシャロのちょっとした……計画があってね? 誘拐犯の隠れ家で手足を縛られ怯え震えていた当時十歳の僕の目の前に現れたかと思ったら『助けないよ』って嘲笑されたその行為は地獄の底にたたき落とされたかのような絶望を僕に味合わせてくれたよ」


 エルシオの目は荒みきった光がちらついていた。


「……」

「……」

「…………………おま、鬼か」


 ぼそっと、しかし確実につぶやいたのは誰であったのか。我だったかもしれぬが、ジルファイスであったかもしれぬ。しかし切実且つ正直な評価であっただろう。だって、……その誘拐犯ごときを恐れる心情などは判らぬが、シャーロットの悪辣な嘲笑は知っている。多分あれだろう? 我がシャーロットにコテンパンに負けて、やっと長き生から解放されるかと思い希望にあふれていたところを『嫌よ』と一刀両断したあの衝撃と同じ感じだろう? そのような雰囲気がする、あのエルシオの荒んだ瞳。


 我、エルシオ、ジルファイス。ジト目でシャーロットを見る我らの意見は一致した。シャーロット・ランスリーは、鬼畜である。


 しかし。


「いやね、ただのちょっとした荒療治よ」


 頬に手を当て上品に、そうそれはそれは誘拐などという野蛮とは無縁といわんばかりの淑女の優雅な仕草でため息をこぼすシャーロット。その台詞がすでにまったく淑女ではない。


「いや、当時十歳の彼にそれはどうなのです? しかもまだ半月しか家に来て経っていなかったのでしょう? かの家は特殊ですが、家の気風に染まり切って図太くなるには少々時間が足りなかったのでは?」


 ジルファイスがこめかみを抑えながら言う。確かに。『子供は守られるもの』と断言した先ほどのシャーロットの言葉は何だったのか。これが特別扱い()だろうか。

 けれど問いただされたシャーロットはサムズアップが眩しかった。


「大丈夫よ、エル、最初からイイ性格だもの。ちょっと内気だっただけよ」

「ちょっと。なるほど。たいていの場合だいじょばないと思いますよ? そのようなことがあれば内気でなくとも恐怖と絶望に泣き叫ぶでしょう。……ねえ、エル」


 ジルファイスはこめかみをさすりながら同意を求める。

 が、



「いえ、怒りに燃えて反撃に転じましたけど」



「……」

「……」

「……そうですか。流石シャロの義弟ですね。素晴らしい」


 不思議そうに返したエルシオと見つめ合ったジルファイスは、とてもきれいな微笑みを浮かべた。ふむ、仮面のようである。時折見る笑みであるが、いつであったがシャーロットにあの微笑みの意味を尋ねたときには、「あれはね、全てを諦め思考を放棄した時に出てくる微笑みよ。害はないわ」と回答があった。害がないのであればまあ良いだろう。


「ふむ、シャ、ロの鬼畜の所業に腹を立てたエル、の反撃か。お前たちに手を出すとは愚かな輩であったのだな」

「勿論。制裁は容赦しなかったわ。生き地獄よ」

「そうか。シャロ、であれば容易かろうな! 次があれば我も手をかそう!」

「次なんて来させないけれど、そうね。万が一、その時は一緒に追いつめましょうね」


 シャーロットが楽しそうなので、我も楽しくなって告げればふふっと笑って同意してくれた。ふむ、楽しみである!


「物騒な二人組が物騒な協定を結びましたね。最悪です。エル、貴方、危険な目に遭ってはいけませんよ。滅びます」

「最悪ですね。……善処します」


 何か、そんな会話が聞こえた気がしたが、我はシャーロットと生き地獄とはいかなものであるのかを語るのに忙しかったゆえ、よくわからぬ。気の所為であろう!









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