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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/41 最たる強者は隣を見るか(エイヴァ視点)


 守れ、とシャーロットは言う。子供らとは短い時間とはいえ共に遊んだ。襲撃者にその子供らが脅かされるのであればそれは面白くはない。あれは、我の遊び相手だ。だから、その命を損なわないようにしろとというのであれば吝かではない。むしろ……守ればきっと子供らの尊敬は我が手に入るのでは? 空中武芸の披露は断念したが、我の凛々しさを子供らに見せつけることができるであろう。それは……いいな。それは、イイな!


 が。


「守る? 我が? ……その襲撃者らを殺さずにか?」


 少々それは難しいような気がする。あれら、襲撃者の気配は刻一刻と近づいてはいるが、大した実力ではない。我にかかれば、ゴミである。シャーロットも言ってた。だがシャーロットはこうも言っていた。皆殺しにしては目立ちすぎて不都合であると。なれば殺さずに無力化せねばならぬ。だがゴミであるがゆえに……


「軽く攻撃すればあれら、死ぬであろう?」


 シャーロットやジルファイスであればそのような繊細な手加減も知っているのやも知れぬ。だが、我、子供らに魔術を使うなと厳命されていたのである。つまり、多分、シャーロットらのような事、出来ぬ! うむ、だっていつかの荒野で魔術のコントロールをしながら欲求不満の解消をしていたところ、シャーロットが言ってた。


『……じっくり、ゆっくり、しっかり、手加減を覚えましょうねぇ……』


 遠い目だった。何が悪かったかはわからぬが、まあとにかく『手加減』が足りぬのであろう。現在我には魔力制限の魔道具が右腕に嵌ってはいる。それは入学時、魔力を測った折に適当に調整していた数値に合わせてあると言っていた。その威力しか出せないということだ。しかしその魔力、シャーロット曰く常人より大分、多いらしい。エルシオより少し少ないくらいなのだが。そして大体からして我、その魔力で出来る最大出力で魔術を発動している、らしい。よく知らぬ。あまり気にしたことがない。エルシオが珍しく、


『気にするようになろっか?』


 とほほ笑みながら青筋を立てていたのはよく覚えている。まあ何とかなるだろうと思っていた。何ともなっていないので子供たちへの魔術の行使を厳禁とされたわけであるが。なんという落とし穴であろうか。


 まあつまり。


「我……ゴミを殺さぬのは無理ではないか?」


 考え、考え。シャーロットが教師の顔をしていたので、我にしてはとても頑張って、提言してみる。だって……人、脆い。吹けば飛ぶではないか。なお、シャーロットは別だ。……いや、『師匠』と呼ばれていた学院の変態教師二名も別かもしれぬ。シャーロットがあれらを『あれはね、変態という名の、ゾンビよ。何度でも蘇ってくるのよ』といっていた。そして正しく何度でも蘇ってくる不屈の変態共である。生命力が強い。いや、ゾンビなれば生命力ではないのか? まあどうでもいい。


 なんであれ。


「殺してはならぬ。されど守れとは、如何せよというのか?」


 わからぬ、と首を傾げれば、なぜかシャーロット、エルシオ、ジルファイス、全員が同様に首をひねっていた。


「なぜかしら? そこまで考えていて、どうして答えに辿り着かないの?」

「うーん? 何でだろうね? ……あ、エイヴァ君って、シャロに遭うまでは最強だったからじゃないかな?」

「なるほど。ゆえに『防御』いらずというわけですか」

「……そう言えば、そうね。今では愉快なお馬鹿さんになっているけれど……快楽を好む最古の『魔』でしたわね」

「エイヴァ君、一回気を許したら、結構寛容だもんね。地雷を踏まなければ」

「ええ、地雷を踏まなければ。今はいろいろと、私たちの対応を新鮮に感じているだけ、というのもあるのでしょうがね」


 ぼそぼそと、そのように何か話し合っている。細い声ゆえ、ところどころ聞き取れぬが……む、『防御』、だと?


「むむ! わかったぞ! 『結界』であるな? そうであろう? で、あろう!」


 我、またしても正解したと思う! と、自信をもって挙手をすればぱちくりと瞬かれた三対の瞳が我を見た。我も見つめ返した。一瞬、沈黙が流れた。


「正解よ、エイヴァ。よく考えたわね。偉いわ」

「すごいね、エイヴァ君。自分で考えるのってとっても大事だからね!」

「頑張りましたね、エイヴァ。成長していますね」

「む? むふふん! そうであろう! もっと褒めてよいぞ!」


 我! 正解した! 我、成長著しいぞ! 頑張ったー!


 胸を張ってふんすと鼻を鳴らした。シャーロットたちもにっこりと笑っている。これで我は子供らを守ることができる。方法がわかった。襲撃者ではなく、子供らを囲えばいいのだ。結界ならば少々威力が強くとも襲撃者の死には至らぬであろう。完璧だ! 我はそう悦に入っていた。これでようやっと話し合いも解散の空気である。ふむ、なればもう少々子供らと遊べるであろう!


 ――と、そこで、ふと声を上げたのはエルシオであった。


「……十歳未満が線引きなのかなあ……」


 小さな声だった。しかし会話が途切れていたため思いのほか我らの間には通った声であった。


「む? 何がだ? 子供らの年齢か?」


 聞いてみた。すると。


「うん? うーん、子供たちと、『当時の僕』かな?」


 ……うん?






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