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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/36 来訪(エイヴァ視点)


 王太子の登場は思っていたよりも静かな来訪であった。ふむ、『王族』なる者はもっとこう……ギラギラしていて足りぬ実力をごまかすかのように兵を並べ立てて周囲を威圧しようとする存在であると思っていたが、シンプルなものだ。


 ……いや、シャーロットに鉄拳制裁をされながらも楽しそうなジルファイス然り、我の前で爆笑するシャーロットによく似た外道の雰囲気を醸す国王然り。この国の王族とやらは少々特殊な生態をしているのかもしれぬ。


 ――あの後。王太子の来訪を告げられた我と子供ら。皆綺麗に忘れていた。子供らは遊びに夢中だったゆえのうっかりとみなされたのか、シスターにやんわりと諭されただけだったのだが、我は違った。


「……うん? そのようなことを……言っていたか? そうだったかもしれん。聞き流していたな!」

「そんな二回目のカミングアウトはいらないわ」


 シャーロットの視線は絶対零度だった。しかも一緒に一週間のおやつ禁止令を言い渡された。


「なんとむごい! わわ、我の日々のお楽しみだぞ? ケーキもダメか? プリンもダメなのか? 最近はチョコレートがブームだぞ?」

「ハッ。全部だめよ。自業自得ですわ」

「あのねエイヴァ君。君が商会の商品開発厨房に勝手に潜り込んで勝手につまみ食いして商会の警備担当と熾烈な追いかけっこを繰り広げていることは判っているんだよ。そっちも禁止だからね」

「なぬ!? あの者ら、よもや告げ口か!」

「報告の義務があるのは当たり前だよね。うちの商会だからね」

「それでも目をつむっていたのは、貴方が割と頑張っているのではないかという私たちの評価と、警備担当の子たちが『必ずや捕獲いたします』って怒りに燃えた目で決意表明していたからよ。でも駄目ね。普段の講義を頑張っているのは否定しないけれど、目先のことに浮かれて重要なことを聞き流すなんて貴方幾つなの」

「ふむ……歳など忘れたな。この世界が生まれた頃に一緒に産まれたのではないかな!」

「なぜそこで自慢気なのです? 年の功が何も身になっていない現状それは只の高齢という事実でしかありませんよエイヴァ」

「つまり尊敬に値しない年上ね」

「精神の成長は年月には比例しないんだね、エイヴァ君」

「そ、そなたら……我、傷ついた」

「そんなことはどうでもいいわ」


 バッサリと切って捨てたシャーロットに我はうなだれたというのに本当にどうでもいいとばかりにその後の話を詰めていくシャーロットたち。しかも話が終わってからも時間差で落ち込んで見せてはみたものの出迎えの準備をし始めていたせいで「掃除の邪魔だよエイヴァ君」と追い打ちをかけてきたエルシオは本当にシャーロットとは義姉弟なのであろうか。容赦のない男である。


 ともかく。そんないじけたり打ちひしがれたりしようとしたところ悉く邪魔扱いをされ雑用を言いつけられ子供らにそっと慰められたのだがその時の文言が「誰にでも出来ない事ってあるよね。でもここを飾り付けるからあっちに行ってくれる?」というものだったのはさすがシャーロットの秘蔵っ子というべきだろう。残酷である。まあそんな時間を経ての今――王太子来訪――なのではあるが。


「今日は非公式な視察だからね。皆さん、いつも通りに」


 従者が一人に護衛が五人。少ない人数でそっとやってきてにっこり笑うそれは久方ぶりに見た危機感もうさん臭さも覚えない爽やかな笑みであった。……うん? 何時も危機感とうさん臭さしか漂わない笑みに囲まれている我とは……? まあいいか。


 シャーロットたちに改めて聞かされた本日の予定、王太子ラルファイス・メイソードの孤児院訪問。その際の我らの対応としては、


『初対面であると装う』

『こちらが貴族・王族を擁することを明かさない』


 というものがある。まあつまり、職員の知己として孤児院を手伝っている少年少女、という体で行くそうだ。王太子にはその意図は伝わっているらしい。認識できている(・・・・・・・)王太子だけが一瞬こちらにウィンクしてきた。周囲の騎士らがジルファイスやシャーロットと気付かぬのはシャーロットの認識阻害の賜物だ。ジルファイスが面白そうにその魔術についてシャーロットに問いを重ねている。


 王太子は子供らを眺めながらシスターと経営や最近の様子について話しているようだ。騎士らは寡黙に、しかし控えめにその後ろに立っている。エルシオ曰く、子供らを脅えさせぬように配慮しているそうだ。そういうものなのだろうか。


「あの子らがか? 騎士顔負けの実力を持つ子供らだぞ? 今更ビビらぬと思うが」

「世間一般の子供に対する認識というものがあるんだよ。あの子たちがとっても元気なのは確かだけど、だからといって礼儀や配慮を欠くのは駄目に決まってるでしょう?」


 まあそもそも彼らはあの子たちの実力を知らないだろうし。そうつぶやいたエルシオはなかなか悟った瞳をしていたと思う。そういうものなのかと我は納得した。


 見れば子供らは先ほどまでの魔術合戦負傷必至の『遊び』ではなく、普通に絵本や人形や積木などで遊んでいる。……そういう遊びも、出来たのか……? これは……詐欺ではないのか? エルシオに聞いたところによると、「あれはね、『アホな大人をだまくらかす十五の方法・その七』だよ」とのことだった。なるほど。シャーロットの直伝であったようだ。我は納得した。


 まあ、そんなこんなで、我らが思い思いに子供らを見つつ話をしていた時。



 ――それ(・・)は始まった。






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