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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/29 慣れる生き物


 合流したら顔面偏差値が高かったので認識阻害をかけた。


 ええ、サクッと合流しました。現在私たち四人組。出会いがしらに私のあまりの溶け込み具合にジルにすら、「貴方は全く加減というものをご存じない。何を目指していらっしゃるのか全く分からない。『エル』がいなければ見落としていた可能性すらあるとはどういうことです」と苦々しく言われた。褒め言葉だと受け取っておいた。そんなジルは、


「あれは何だ? ジルファイス! む? 人がこっちを見ておる! 鬱陶しいな! 殴るか? ジルファイス! あれは旨いのか? 旨そうだ! とってきていいかジルファイス!」


 と一応仮にも王子の名前を連呼しあまつさえ一般人を吹っ飛ばす示唆をした挙句屋台から商品の強奪を宣言しているエイヴァという名の馬鹿を必死で宥めていた。


「貴方が叫ぶから見られているのですよエイヴァ。黙るということをなぜ学ばないのです? 貴方が黙れば視線も離れます。力に訴えるものではありません。私のことは『ジル』と呼んでいただきたいとも申し上げたはずですがその記憶領域はがらくたしか詰まっておられないのですか? 役に立たない脳みそなどなんの意味が? そしてあれは商品、金銭にて売買されているものです。『シャロ』と『エル』が教えたはずでは? お小遣いも持たせているでしょう? 活用もできないとでも? 嘆かわしい。知っているだけでは何の意味もない。だから『頭のいい馬鹿』などと他称されるのですよ」


 ただの嫌味だった。


 いや、辛辣ながらも頑張っているのだろう。エイヴァはいちいちジルに伺いを立ててはいるし、ジルに魔術をぶっ放したりはしていない。私たちの教育、ちゃんと生きてる。


 これでも大分ましになったのだ。学院内では敬語もどきを使うことを覚えたし貴族の階級制度も覚えた。儀礼的仕草もやろうとすれば出来る。奴は肉体労働は得意だったのだ。あとはひたすら黙って必要最低限だけ受け答えをする、これである。これで大問題は起こさない。多分。きっと。小さい問題は起こすかもしれない。


 だがしかし具体的コミュニケーション――会話――となると別だ。これは実地で覚えていくしかない。なので、本当の意味での放逐のため、本日のこれは第一歩。偉大なる一歩なのだ。何せとてもとてもとても長い間迎合しようとしなかった『魔』たるものの一歩だ。貴族の間に放逐するより先に市井で馴らしていくのが吉であるとは教育係全員の意見の一致を見たのだ。徐々に頑張る所存である。


 ちなみに。


 先ほどからジルが言っているように、本日街中に限り私たちの呼び名は『シャロ』『エル』『ジル』である。下手な偽名で反応できなくても困るが、いつもの呼び方では仰々しすぎて市井になじまないのだ。エイヴァ? エイヴァは『エイヴァ』だ。下手に略そうものなら「我の名は『エイヴァ』だぞ? なぜ急に忘れてしまったのだ? 記憶障害か?」などとのたまい始めるだろう。奴は知識を活用できない馬鹿なのである。どれだけ座学をしても覚えない、だからこそ本日第一歩の実地訓練なのだ。なお、奴は本日初めに『ジルファイス』と連呼した挙句私たちと合流した瞬間、


「シャーロット! 今日はたくさん遊ぶぞ! 手始めにこの噴水で雪を降らすか!」


 などと馬鹿丸出しの発言をした。正真正銘の馬鹿には瞬時に認識阻害をかけつつ丁重に殴っておいた。なおその拳は私からだけではなかったと追記しておこう。奴の世話を始めて三か月、人間は慣れる生き物なのである。


 ともかく。


 本日はまず目的地があるのでそこに向って無事辿り着くことが第一の課題だ。何が課題って馬鹿が馬鹿な思考回路で馬鹿な行動をとったあげくに時間を取られて辿り着けない可能性の高さに起因する。勿論馬鹿はエイヴァである。そしてその認識は共通だった。


「大丈夫かな? エイヴァ君、なるべく、静かに、気を付けてね。話すときは、ちっちゃな声でね?」

「エル……それでは温いですよ。エイヴァは本能で生きているのです。目を離さずこちらがしっかりしなければなりません。信用は、無駄ですよ」

「で……ジル、ですけど。一応、エイヴァ君に慣れてもらうための外出なんですよ? 信用は出来ないですけど、ずっと拘束しているわけには」

「それで町が一つ消えたらどうしてくれるのです。この阿呆なお方は未だに加減をご存じない。目立つわけにはいかないのは全員なのですよ? 監視は厳しく行く必要があります」

「そう……そうですね。では僕は左側を」

「ええ、私が右側を」


 こうしてエイヴァは左右をがっちり固められた。認識阻害をかけているせいで私以外には認識されていないだろうが、タイプの異なる美少年三兄弟の完成だった。麗しい。その会話は欠片も麗しくないしエイヴァの信用度のマイナスぶりがはなはだしいし、口をはさむ間もなく私たちの中の穏健派が簡単に丸め込まれた。なんという手際。王宮でエイヴァは何をやらかしたのだろう。ジルの警戒心が隙がなくて素晴らしい。あんまりな低評価にエイヴァがしょっぱい顔をして黙り込んでいたが忌憚ない正直な評価なので甘んじて受け入れるべきである。


 なんであれ。


「うん。じゃあ確認ね。今日の目的は、三つよ。目的地にたどり着くこと。交流をすること。そして最後に街に戻ってちょっとした買い物をしてみましょう。分ったわね?」


 団子に巻き込まれていない私が告げれば素直な了承が三つ。しかしふとここで真ん中のエイヴァが首をかしげた。


「そう言えば、その目的地とは、どこだ? 我は聞いていないぞ?」

「ああ。―――孤児院よ」






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