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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/27 それは必然か


 悪夢。正しく悪夢であるだろう。たとえすっきりさっぱり目が覚めたとしても、誰が好き好んで自分が死んだときの夢なんぞ見たいと思うだろうか。少なくとも私は積極的に見たいとは思わない。そんなもの見るくらいなら領民さんとか使用人さんとかエルとかとキャッキャ言いながら戯れている夢を見たい。幸せな夢だ。だのに私が見たのは『刈宮鮮花』の『死』。


 何も楽しくない。幸せ要素がどこにもない。だって死んでいる。強いていうなれば前世悪友が登場したことであろうか。彼女はいつでも強く美しく毒舌だった。ただ彼女をほめれば褒めるほどに「裏があるのね? 何を企んでいるの? 吐きなさい。吐かなければよろしい、吐きたくなるようにするまでよ」と素敵な笑顔を撒き散らしていらっしゃったのはどうしてだろう。彼女は警戒心が強くかつ攻撃的で刺激的でもあった。


 ではなくて。


 そんな『死』を見せられてどうしろと。精神的負荷がかかっていたわけでもなんでもなくここ何年も思い出すこともしなかったそれを今更どうしてあんな鮮明な夢に見た挙句はっきりと記憶にこびりついているのか。


 ……まあつまり、全く意味がなかったとは、思わないからこうして考察を重ねようとしているのではある。


 前世の、死因。歩道橋からの巻き込まれ転落死。今思い出しても非常に残念かつ、アホな死因であると自認する。なんじゃそりゃあああああ!? と叫んでがっくり膝までついた挙句使用人さんたちをドン引きさせたという今世の黒歴史の一ページを作り上げたぐらいには、アホである。だって巻き込まれるって。油断しすぎだろ。そこは華麗に落下してきた何某さんを救出して褒め称えられるべきシーンだろ。私ならできる。


 ……あれ? うん、そう、できる。私ならできるのだ。それは『シャーロット・ランスリー』としての現私だけでなく、道場破りが趣味だった『刈宮鮮花』にも、できる。断言しよう、出来る。


 確かに以前、通勤ラッシュの時間帯人が多かったから、とっさの身動きが難しかったその時の私は不幸が凝縮されていたとしか思えないとの評価を述べたと思う。それは記憶を思い出してすぐの事だ。

 だが……ほら、よくよく、考えるとだ。前世だろうが何だろうが、『刈宮鮮花』は、『私』だ。『私』なのだ。この、魔力チートで国王を足蹴にし最古の『魔』さえも踏みつぶす、『シャーロット・ランスリー』の前世が、『刈宮鮮花』なのだ。


 はっきり言って『刈宮鮮花』のスペックは高かった。だって道場破りを嬉々として行いその道場主にトラウマを植え付け各種専門機関に知り合いがいた。私としてはやりたいように過ごした結果で私にとっては『普通』ではあったが、それを常に隣で見ていた前世悪友は「存在が異常の分際で普通を語るとは片腹痛いわね」と痛烈に皮肉ってくださった。なんという切れ味。危うく私の心はずったずたになる所だったがそれら私の各種所業をいつまでも隣で見つめ、時に手を貸し、時に愉しそうに嗤っていたかの友人も外道であると気付いた瞬間そんな傷は消え去った。だって私が外道なら彼女も外道。人非人である。


 そうではなくて。話がそれた。


 つまり何が言いたいのかというと、出来たのに、その運命の日に限ってそれが出来なかったことが可笑しいのだ。いや、それをしようという思考にすら至っていなかったというのが、可笑しすぎる。……ふむ、夢の理由はここか。私自身が無意識下で疑問を持ち、私生活に余裕ができたがゆえに表面に浮上してきた。結果があの悪夢。なるほど。何て機能的な私。疑ったことは謝罪しよう自称神。しかし禿げろ。なぜならこれが私の深層心理の疑問の表れであることが判明したと同時に、前世もちの弊害であることも確定し、かつ私の泣かすリスト堂々の一位は不動だからである。


 さて、ではここで本題だ。――なぜ、『私』は死んだ?


 何の理由もなく、たかが人が多いだけの歩道橋で、身の危険を回避できないほどに私は愚鈍ではなかった。それでも、私は死んだ。あの日あの時、あの場所で、あの死因で、死んだ。

 なぜ?


 ……もうひとつ。以前は思い出せていなかったこと。夢で見た、あの日の出来事。あの頭痛(・・・・)


 なんだったのだろう。まるで『刈宮鮮花』の死を、そうなるべくして導いたかのような、あれは。……その意味は? 自称神が私に告げようとした何か。たいへんどうでもよく従う義理がこれっぽっちもないので気にも留めなかったが、もしや何か関連が、ある?


 ふむ。情報不足だ。こればかりは『影』を使ってもどうにもならない。だって答えはすでに過ぎ去った過去な上にどこか別の次元の別の世界にある。精々自称神を拷m……尋問するくらいしか手段がないが、残念ながらこちらから彼への強制通信の方法は私をしてまだ確立していないのが現状。


 手詰まりだ。じれったいが、まあ自称神を追い詰める手段と呪う手段とボコる手段を用意しつつ、強制通信の方法を探すというのが確実だろう。仕方ない。なお、心を開けば多分自称神の方からやってくる気もする。だって前回話の途中でぶった切ったし。でも私は一切心を開くつもりはない。だって心を読んでくる不法侵入者とか断固お断り。ストーカーは間に合ってるんだってば。なので逆に侵入すればいいじゃないということでいろいろと手を尽くして調べているのである。


 ……まあ、そればっかりもしていられない日々ではあるけど。前述のように学生生活満喫中だし。今日も今日とて予定もある。学院は休みなのだが、本日はちょっとしたイベントがあったりする。


 ――その名も、『エイヴァと街に行ってみよう、with王子』。







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