4/26 進化する生き物
そんな学院生活は変態の変態的暴挙以外は概ね順調であったと言えるだろう。友人を作る、という面に関してはまだ聊かの壁を作られている……というか『変態係』と認識され過ぎて少々遠巻きにされているが。……あれ? 順調……なのか?
まあ全てがうまくいくわけではない。そのうちきっかけがあれば打ち解けられるだろう。今はまだ私たちの近くにエイヴァがいるというのも理由の一つだろうし。あれをある程度の常識を叩きこむ前に放逐するわけにはいかなかったのだ。「成績優秀者」で「王家が後見人」という観点から私たちがサポートについている、ことにはなっている。ほら、王子と仲いいから。
ちなみにエイヴァは常識はないが腐っても『頭がいい』馬鹿であるので普通に成績上位者だ。魔力の測定結果は私→エル→エイヴァ。勿論エイヴァは私と同じように適当に調節した結果だろう。その程度の誤魔化しが必要だと思い至っていてよかった。
まあそんな高い魔力量を誇り、中身は無駄に長生きしている『魔』である。かつて私と楽しく遊ぶことができた実績もあるくらいだから魔術・剣術など実技に関してはまあいうこともなく。そして常識以外の基本的な『知識』という点ではやっぱり無駄に長生きしているから蓄えている。そもそもが『知識』を備えて生まれてきた、ということもあるようだ、本人いわく。
ただそれを活用する気も応用する気も深く考える気もないという愚かさが目立つだけであって、つまり筆記の成績もいい。歴史に至ってはそもそも生き字引だ。ただし睡眠欲が旺盛でいらっしゃる白髪透目の美少年は時々すっぽり抜けていて完全にポンコツと化すからエイヴァはエイヴァである。
しかしそろそろ基本的事項の教育は終えた。馬鹿だが頭はいい『魔』の面目躍如である。そろそろ学内では多少目を離してもさほど大問題は起こさないだろう。多分。きっと。小さい問題は起こすかもしれない。
残念ながらルールは理解できるのに彼は手加減がなかなか理解できないようだ。いつか不毛の地と化した王弟屋敷跡にて魔術の威力調整を行うはずが危うくこの国のすべてを吹き飛ばしかけて私が相殺するという事件を何度でも懲りずに起こしている。しかし奴はしきりに首をひねっていたから自覚がないのだろう。
そんなエイヴァは学院内では魔力調整魔具が必須である。やらかそうとしてもやらかさせないそんな夢のアクセサリーだ。勿論私が作った。彼の魔力を抑え込めるのは私しかいないという現実が泰然と横たわっているから仕方がなかった。
なおエイヴァはもれなく変態にお気に入り登録されている。まあ私がいれば何があっても死人は出ない。ちょっとトラウマは残るかもしれないが、その時はそっと記憶をデリート処理しておくから大丈夫だ。ほら安心。
それ以外の目下の問題点といえば……ストーカーだろうか。まあ些細なことだ。割と洗脳されてきている気もするし着実に物理的距離が縮まっているのが深刻な問題な様な気がひしひしとするけれど些細なことだと言い切っておこう。
つまりジルが食堂に出没したり我が屋敷に出没したり変態をとめるために共同戦線を張るっていうのを隠れ蓑にいつの間にかそばにいたりするっていうだけの話だ。
……あれ? 結構怖くない? ストーカーのレベルが上がってない? 多大な問題にすべき? 拳で語ってそのまま梱包して王妃様に再教育の申請をするべく送り届けるべき?
いや、だがそもそも連鎖反応があるので被害は薄いのだ。だってジルがいると着実に王太子殿下が来る。ストーカーにストーカーが発生している不可思議。可愛い可愛いと王太子殿下はジルに絡み撫でまわし愛でに愛でてだんだんジルの目が精彩を欠いていくまでがワンセット。もっとやって。ストーカーの鬱陶しさを判らせて。
……いや、でもジルは私の一つ上、つまり昨年もこの状態だったはず。むしろ私もエイヴァも変態もいない学院ではもっと平和かつヒエラルキー頂点な王族二人。昨年、十分、ストーカーを堪能し痛感したのでは? なのに私へのジルのこの愚行。……なるほどこれが道連れか……。
なお、王太子殿下の婚約者たるイリーナ様も王太子殿下について二回に一回ぐらいの割合で一緒にやってくる。彼女は天然を装備しているので一緒になってジルを愛でてジルの目の死に具合がぐっと上がる。どんまい。
……私? 私は美少女は目の保養なのでイリーナ様はウェルカム。私は、美少年より、美少女が好きだ!
兎に角。
そんなこんなで三か月、とっても内容は濃かった気がするけれども随所に改善の兆しはみられる。人間は(時に『魔』も)進化する生き物なのだ!
……おかしい。めくるめく学生生活が華麗に何も始まっていなかった。始まる糸口すら掴めない。摑まされているのは変態と馬鹿の手綱だけである。むしろ鮮烈なる指導者生活が幕を開けている。そんな馬鹿な。でもそれが一番イキイキしている私は精神年齢に勝てないのだろうか。
まあいい。
うむ、こう考察してみるとやはり私、さしてストレスはたまっていない。なぜなら定期的に変態とかエイヴァとか変態とかジルとか変態とか変態とか変態とかに物理的とか精神的とか『お話』させていただいていたので私のフラストレーション発散は完璧だ。
時に大規模魔術を相殺し、時に殴る。時にその自尊心をマシンガントークでずったずたにする。それが学院内平穏維持に一役買うのだから一石二鳥である。さすが私。
罪悪感? ないよ。だってやらかした本人に責任を取らせているだけだし。大体根気よく言い聞かせても馬の耳の方がまだマシだろう。言って聞かないのが悪いしそもそも何度やっても何度でも蘇ってくる上に被害は一般生徒にまで及んで甚大であるというのにもはや躊躇や容赦は無用である。
彼らはそれぞれに不屈の精神と肉体を持っているとっても丈夫な人たちなのだ。いい加減諦めてぽっきり心折れてしまえよ。
では、さて。それを踏まえてすっぱり自称神に責任をなすりつけ一旦横に置いていた問題に戻ろう。
なぜ私は悪夢を見た?