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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/23 彼我の放逐


 ――そう。響く自己紹介の声は、私とエルにとってはものすごく聞き覚えがある。聞き覚えがあるっていうかほぼほぼ毎日聞かされていたしその声から逃げ回っていたし、時には物理的に黙らせてきた。そして、ジルにとっても衝撃的で強烈な印象を残したであろう彼らの声。


「剣術指導担当の、ディガ・マイヤーという。……筋肉だ。それこそ至高。それが真実! 筋肉は裏切らない!」

「魔術指導担当のノーウィム・コラードと申します。……廻ってますのお、廻ってますのお。魔力……この結界魔術……ふほほほほほほ……ふつくしいいいい……。人間に限界など……ありませんぞ?」


 片や肉体美を誇り。片や不気味に含み笑う。中年と、老爺。


「な、何で……っ」


 隣で頭を抱えたエルは顔面蒼白だった。反対隣りではお前だろう? 犯人はお前だろう? 何をまたしてもやらかしているんだいシャロン? って目で見てくるジル。困惑を含んだ視線を変態とこちらで行き来させるのはエイヴァとラルファイス殿下とイリーナ様だ。私はそのすべてに、微笑みでもって頷いた。


 ……そう。あれらは忘れたくても忘れられない我が家の変態という名の師匠連。

 筋肉達磨と魔術狂である。


「シャロン、シャロン? 説明して? 何で師匠たちがいるの? 我が家での雇用期間が終了して、違う家に就職したんじゃなかったの?」


 なにはともあれ式はさっさか終了し教室待機を命じられた。変態の変態染みた発言により礼儀正しい教師としか接してこなかったであろう貴族子女諸君は困惑と怖気に襲われていたようだし、その他古株教師陣は変態を黙らせるべく奮闘していたが、一撃必殺で沈めきれない無駄に能力の高い筋肉達磨と魔術狂にそれは只の御褒美である。がんばれ、と私は見捨てて戦線離脱し、素直に教室に向かっている。だって私は歩みつつも取り囲まれて説明を求められていた。


 うん、こうなることはわかっていた。


 だってほら、子どもに対して二対一で実戦形式の授業という名の戦闘行為を繰り広げ、自らの実力を向上させるような師匠だからな、あれは。あまつさえ死と生のぎりぎりの淵に可能性があるのだとかなんとか訳の分からないことをのたまいながら子供に全力で連携攻撃かましてくる。容赦なく、心底、楽しげに筋肉と対話し魔術を浴びてもだえるような輩どもなのだ。とても気持ち悪い。残念ながら理解も共感も出来ない。自由に生きればいいと思うと放逐した結果でもあるが仕方ないとも思っている。


 だってめげずたゆまず自己進化していくのが変態である。真正の、変態である。


 悲鳴を上げて助けを請うエルにそれでも鼻息荒く汗を滴らせて筋肉を見せびらかし新魔術を自分にかけてその素晴らしさを説く師匠連が瞼に浮かぶ。何処にその生命力が秘められているのか、何度物理的にお話しても蘇ってくる師匠連。地獄のようだった。


「シャロン? 私も知りたいですね。なぜ彼らがここに?」

「「シャロン?」」


 ジルとエルの二人に詰め寄られて、私は浅くため息をついて、白状した。


「……私が、こちらでの仕事を紹介したのですわ」

「「なんてことを!」」


 間髪入れずに非難された。何も擁護の言葉が浮かばなかった。苦く笑う。私としても返せるのは一言しかないのだ。


「だって、変態だったんですもの」


 私はとっても遠くを見ていたと思う。


「「「「……は?」」」」


 私の答えに、ラルファイス殿下とエイヴァまでもエルとジルと声をそろえて呆けていた。まあ、仕方ない。『変態だから』となぜ学院での仕事を紹介することになるのか、まるで訳が分からなかろう。私だってそこに行き着いたのは苦肉の策だったのだ。


「……フフフフフフ……」


 虚ろな笑いが漏れた。若干引かれた気もするが、まあ気にせず説明しよう。


 そもそもの発端は、彼らの雇用期間が終了したことにあった。私もエルも学院に入学することとなり、家にはめったに帰らない。それに彼らからの免許もほぼ皆伝で教えられることはないといってもよかった。だが、いざこれまでの労をねぎらい礼を切り出したその時。彼等は朗らかに言ったのだ。


『これでとうとう無職になってしまいましたな! 筋肉と語らえば人間をも越えられるやもしれませぬ!』

『そうですのう。明日から住む場所もありませんのう。魔術で全部誤魔化せばよろしかろうのう。見咎める者もおらぬだろうて』

『『ふあっはっはっは』』


 ……。………。

 それ、笑いごとと違う。


 私の頭の中には選択肢が乱舞した。この変態を野放しにしますか? それとも何も見なかったことにしますか? 平穏のために抹殺しますか? 不穏な選択肢しかなかった。


 ともかく。


 そもそも、もうちょっと踏み込んで話を聞くと、彼らはともに、もともとはなかなかいいとこ出の人間だった。筋肉達磨=ディガ師匠はウルジア王立騎士学園の卒業生。魔術狂=ノーウィム師匠もヴェルザンティア王立魔術学院を主席卒業。エリートである。


 しかし彼らは就職出来なかった。……いや、これは語弊があるか。就職は、いったんしたそうなのだ。ディガ師匠は王国騎士団に、ノーウィム師匠は宮廷魔術師に。だがしかし、彼らは各々三か月前後で、職場を追い出された。


「変態、故に」











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