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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/22 彼我の相対

 

 その後。談笑しつつジルをラルファイス殿下の嫁にするのしないのというなぜそうなったのかよくわからない話の変遷を経て交流を深めた私たちは和やかに解散した。ちなみにジルは「寝言は目を開けて言うものではありませんよ兄上」と絶対零度の視線だったが「怒っているジルも愛らしいね」という盲目愛が深い兄王子の前に腐りきった魚の目になっていた。


 そして各々解散帰宅したのだがその際にはやはり注目を浴びた。その視線の中にはまあいろいろとあるのは仕方がない。エルもようやく華麗なるスルーを身に着けていたしその他の面々は言わずもがな。強いていうのであれば鬱陶し気なエイヴァの暴挙を押しとどめるのにまたしても局地的殺気をお見舞いしたくらいだ。問題はなかった。


 さて、授業は入学式の翌日から始まった。家で既にいろいろと学んできたとはいえ、新生活の始まりである。

 私たちももちろん、期待に目を輝かせ意気揚々と――している、はずだったがそうは問屋が卸さなかった。


 まず私の隣に座す我が義弟・エルシオは優し気な双眸を蔭らせてぐったりと虚ろである。精神的な攻撃を受けたものの末路のようだ。


「シャロン……せめて、心の準備くらいは、心の準備くらいは、させてほしかったよ……?」


 声さえもしなびたキャベツのようである。可哀想だが、遠因は私だ。ただし言い切るが、遠因だ。なので。


「……『彼ら』があなたには黙っていてほしいといったのよ?」


 そっとエルから目を逸らした。


 いや、うん、まあ。私だってエルの反応が楽しみではなかったのかと聞かれればもちろん楽しみだったと言ってしまう素直な自分がいるのは否定できないんだけれども。でもね、何より『彼ら』自身がサプライズだって押し切ってきたし。あんなに楽しみにうっきうきしていたのに水を差すのは悪いかなって。優しさだ。


 ……私たちがこのような状態になっている直原因は、目の前。教壇にて弁を奮う人物に、大いに関係している。関係しているっていうか、そのものなんだが。

 ――まあ、話は今朝、上級生含めた教員紹介の式に出席したこと遡る。



 ✿✿✿



 今朝、私たちは屋敷から登校して早々、入学式と同じように講堂に集められていた。上級生から下級生まで、結構な人数がいると思うのだがそれでもなお余裕があるスペース。相変わらずどれだけお金をかけているのだか、ざっと計算してみたが無駄に思えたので途中で放棄した。つまりは少々無駄が過ぎるほどに豪華だ。


 それはともかく。


 常ならば、このように集まるのは新入生だけだ。入学最初のオリエンテーションは校内の説明とクラス担任およびその他の教員の簡単な紹介があるだけの行事のはずなのだ。昨日は紛うことなき入学の挨拶のみで解散だった。けれども今回は新任教師がいるとのことでそのお披露目も兼ね、全生徒がこの場に集結しているのである。


 まあ、さっさと終われよ的なこの空気の中で、学年ごとなどという縛りでならばされることもなく、私たちは昨日応接室で相まみえたメンバーで寄り集まっている。身分によって座る席が分かれているともいう。自由ではない。配慮だ。学年ごと、クラスごとなどといっていては準備の面でも警備の面でもらちが明かない。何度も言うが学院内平等などは建前だ。授業中や教員との力関係において辛うじて効力を発する程度のものなのだ。だからこその王族から始まり公候伯子男、身分や交流関係で各々に寄り集まっているしそれに教員は文句を言わない。それが平和だからだ。


 まあそんなことは知ったことではないとばかりにちゃっかりエイヴァはこちらに混ざっている。真っ青な顔をした教員が駆け寄ってこようとしたが堂々たる佇まいのエイヴァを前にして私たちが問題にしていないのを眼にしてしばし考えたのち触らぬ神に祟りなしとばかりに離れていった。あの教師はきっと勘がいいのだろう。そこまで勘が良くないその他周囲は訝し気な空気を醸し出している。しかし華麗なるスルーはここでも絶賛稼働中だ。エイヴァに至ってはスルーというよりいっそまるで気づいていませんと言いたげだ。余裕である。まあ余計なことを口走らなければ問題はない。


 ともかく。


 そんな、基本的には形式だけで大した意味はないこの教員紹介式にて、それ(・・)は起こったのである。粛々と。式は進んでいた。まず紹介されるはズラリと居並ぶかねてから在籍する古株教員。各主任・学年担任・魔術教官・実技教官・馬術教官・筆記担当・剣術担当。いたって普通である。


 だが、しかし。


『最後に、新任の先生方を紹介します』


 そんな、拡大音声が流れ。


『剣術指導・魔術指導担当となります』


 そして壇上に上がった、その姿。硬直したのは私の両脇を固める美少年二人であった。私はそっと、そっと目を、逸らす。しかし現実は残酷である。


「シャロン、幻覚が見えるんだけど……」


 絶望したような、驚愕したような声が、左わきから響いてきた。それも無理はない。


「シャロン、あの方は、まさか……」


 引き攣れたような声が、右わきから降って来た。うん、その気持ちはよくわかる。

 ――だって、あれだ。


「……幻覚ではありませんわエル。あれは、確かに、我が家の変態(・・・・・・)です」







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