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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/18 華麗なる嘘を翻し(エルシオ視点)


「まあ、真実風味の捏造ですけれど」


 そのシャロンの言葉にカチンと固まった僕たちは全く悪くはないと思う。確かにいかにして手紙をやりとりするほど親しくなったとか、何で事前に僕にも話をしてくれなかったのかとか疑問はあったけれど、概ね『シャロンだから』で納得しかけていたのにこの全否定。


 こんな華麗な掌返しは二回目だよシャロン。


「……はっ?」


 ジルファイス殿下が引き攣り切った顔で疑問符を飛ばすけどシャロンは相変わらず微笑んでいるし。そしてなぜかエイヴァ(?)君もシャロンと僕たちを交互に見つめて「えっ。うん? ……うん?」ってとても狼狽しているようなんだけどどういうことなの? 打ち合わせができてないの? まさかの彼も被害者なの?


「……シャロン?」


 とりあえず、ジト目で名前を呼んだ。シャロンは美しい微笑みを一瞬で引っ込めて指をひと振りし、エイヴァ(?)君を呼び寄せた。そんな荷物みたいな扱いしたら可哀想だよと思ったけどエイヴァ(?)君は楽しそうだったので見なかったことにした。シャロンと彼は根本的な感性が似ているのかもしれない。まあシャロンが呼び寄せた彼の首根をわしづかんだときには「ぐえっ」と喘鳴を上げていたけれどそれも聞かなかったことにした。シャロンも殿下もスルーしていたしまあいいだろう。


 それよりも、と僕と殿下はシャロンに視線を集める。シャロンは真顔だった。そして彼女の回答は。



「さっきのあれは全部即席の設定ですの。貴方たちが多少でも納得できたなら上々ですわね。この方向で肉付けしていきましょう。そして改めて紹介いたします。これは最古の『魔』たるエイヴァですわ、ジル、エル」



 ……。


 そっと、僕は目を閉じた。ちょっと情報過多だった。それから開き、殿下と顔を見合わせる。ゆっくり顔を左右に振られた。裏切られた気分だった。


「……は?」


 眉をひそめ、真顔のシャロンを見る。勿論僕も殿下も真顔だった。そこに。


「うむ、シャロンがばらすなら仕方ない! 我がエイヴァだ! 『魔』と、人間どもはそう呼ぶな! ははは!」


 そんな絶望的肯定はいらなかった。なんにも仕方なくないからお静かに願えないだろうか。シャロンがぎりぎりとエイヴァ君の首を締め上げて無言を促している。真綿で首を締める様な手つきだが、痛そうだ。でも僕たちの心のダメージの方がきっと痛いだろう。殿下など僕の隣で魂がどこかへ霧散したかのように真っ白になっている。とても可哀想だ。気遣う余裕などないくらい僕も動揺しているけど。


「何がどうしてそうなって、これからどうなる予定なのか詳しく知りたいなあ、なんて思うんだけど」


 それでもこの質問を絞り出せたのはこれまでのシャロンとの付き合いの賜物だろう。僕はそれがとても複雑だ。大体伝承の『魔』が目の前にいるとか半信半疑だし、そもそも彼が『魔』だとして危険だとも思うし、流れるように嘘をついて見事にひっくり返したシャロンは何処までもシャロンなんだけど、とりあえず話を聞かなければ始まらない。またしても華麗に騙されるような気もするが、まずは聞こう。シャロンは無駄が嫌いな人だからそれが正しいはず。


 なお現在『魔』(不確定)のエイヴァ君はシャロンによって顔面蒼白に陥っているので多分問題はないだろう。彼が最古の『魔』かどうかは僕にはわからないが、エイヴァ<シャロン。それだけは事実であるようだ。横で殿下もうなずいている。頷くばかりではなく助けてほしい。なお無視する形になったエイヴァ君は何か抗議をしようとしていたように見えなくもなかったけれどシャロンによって顔面蒼白から顔面土気色に変遷したので静かなものだった。


 そうねえ、と語り始めるシャロンは通常運転だ。


「そもそもの始まりはエイヴァが勝手をやらかしたことですわね」


 心底駄目なものを見つめる瞳と声音だった。どうしよう寒気がする。僕と殿下は土気色になって静まったエイヴァ君を見た。エイヴァ君は器用に目を開けたまま意識を飛ばしていた。なぜだろう、現実逃避の成功例を見た気がして少し羨ましい気がする。でもあんなに痛い現実逃避は嫌だ。ジレンマとはこういうものなのかもしれない。


 いや、気にしたら終わってしまうのだろう。僕と殿下は頷きあった。よくわからない連帯感が生まれていた。一蓮托生、そんな言葉が頭に浮かんだ。


「詳しく、説明を願います。シャロン?」


 殿下の笑顔は『諦めが肝心です』と助言を授けたメリィの笑顔にとても似ていた。







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