4/17 詐欺師の才能
にこにこと、私が昨年の概要をエルに語って聞かせれば、なぜかジルと同じ疲れた顔をされた。どうしてお姉ちゃんをそんな悲しい物体を見る様な目で見るんだい。
「シャロン……。国内だけじゃ飽き足らず、隣国も手中に収めてたんだね……」
どういう意味だ。ジルが神妙にうなずいている。どういう意味だ。お前ら私を何だと思っているんだ。
笑顔を向けたら視線を逸らされた。なぜ逸らす?
「……それで、その訪問が、どうして――彼との出会いに繋がるの?」
……。まあいいこのまま話をもどそう。
「……その折、せっかく隣国へと足を延ばしたのですから、見聞を広めたいと思ったのですわ。そこでかの国の皇帝陛下の御許可を得て、城下町に幾度か降りてみましたの」
隣国とか転移でふらっと足伸ばしまくってたからさほど珍しいわけでもなかったんだけども。まあ、王都だけあってにぎわってたからそれなりに意気揚々とお忍びバカンス満喫したのは事実だ。
「ああ、そういえば……そのようなことを言っていましたね、あの時」
ジルも思い出したように同意する。うん、一応その旨も同行者だった彼には伝えていたのだ。……しかしなぜだろうか、彼の視線が若干恨みがましいようだ。あれか、そのお忍びに置いて行ったことをまだ根に持っているのだろうか。心の狭い王子である。
まあ確かに皇帝や上層部との会見にて華麗にジルを生贄にして私は颯爽と町に繰り出した。しかし私の策略に嵌ったジルがうかつなのだ。精進あるのみである。
話をどんどん進めよう。
彼の話題であるというのに完全に空気と化しているエイヴァにもう少し黙っていろよ世間知らず、と目線で念を押して私は笑う。
「その時に彼――エイヴァに出会いましたの」
ジルとエルの視線が私からエイヴァに移った。彼はふわりと笑って、小さく頷く。彼らの視線が再び戻ってきたところでさらに私は続ける。
「もともと彼は孤児でして、まあ……いろいろと自由に生きてらしたようで……」
ふふ、と笑って頬に手を当てた。いや、まあ、嘘じゃない。ちょっと婉曲に言ってるだけだ。
「すこうし楽しく(拳で)語り合ったのですわ」
嘘じゃない。カッコ書きが入ってるだけだ。
エイヴァの微笑が一瞬引き攣った気がするが、気のせいだろう。
ジルとエルも若干強張った気もするが、やっぱり気のせいだろう。問題はない。
「そうしてぶちのめ……打ち解けたら、(馬鹿だが頭は)悪い方ではないことも分かりましたの。別れ際にはこれからは違う生き方をしてみるとおっしゃられて……安心しましたのよ?」
ねえ、とエイヴァに目配せ。嘘じゃない。ちょっと穏便に言ってみただけだ。
まあ改善の兆しが見えたところで頭のいい馬鹿は頭のいい馬鹿で延々と深く考えることを放棄してきた行き当たりばったりはすぐには治らなかったようだが。
ともあれ。
「魔術はかの国よりも我が国の方が発達しておりますでしょう? 身軽な方ですから思い立ったらその脚で国境を越えて此方で試験を受け……高い適性を示して此処に入学することになったそうですの。……私も手紙でそのように聞いてはおりましたが、半信半疑でしたのよ?」
驚きましたわ、で話を締める。そして二人の反応をうかがった。
「なるほど? そんなことがあったんですね……」
「手紙なんてもらってたんだね、シャロン……全然知らなかったよ……まあ……仕方ないけど……」
ジルとエルが口々に言った。とりあえずは突っ込まれなかった。いろいろと考えてはいるのであろうが、即座に反論する根拠はないようだ。なるほど。私は納得し、ふっと笑う。ジルとエルとついでにエイヴァの視線が集まり、無垢な瞳が私を見る。
そして。
「まあ、真実風味の捏造ですけれど」
かちん、と固まった美少年はしかし芸術のように美しかった。