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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第四章 子供の領分
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4/15 小さな事実を重ねれば


 さて、人心地も着いたところで、状況を説明しようじゃないか。私は優雅に椅子に腰かけた。


 微笑み仮面とおんぶお化け? あのたいへんカオスな上に邪魔臭い拘束は早々に解除された。なんのことはない、私は、大変、不愉快である。その旨を慈愛の微笑みと共にお伝えしただけだ。本能に訴える危機感には素直に従った方がいいのだ。

 素直さって美徳だと思うの。


「シャ、シャロン? とりあえず、そちらの彼のことを私たちに紹介してくれませんか?」


 壁際からようよう戻ってきたジルが王子スマイルで口火を切った。珍しく未だその麗しい御尊顔が引き攣っている。彼の本能は優秀であるようだ。


 ……ていうか、うん、何でもいいけど若干一名名前すら知らぬ初対面のくせに一致団結してにじり寄ってくるのはよしてほしい。なんていうか、犯罪的だ。三者三様に見目がいい分、見る人が見れば余計な妄想(ファンタジー)を掻き立てる絵面だ。麗しい。麗しいが、やめろ。


 思って、にっこり笑ってそう促したら三人そろって直立不動の敬礼を返された。仲良しか。私をどう思っているのかが垣間見えたと同時に自己紹介もしないうちから彼らの心の距離が縮まったのが見える気がした。危機を共に乗り越えることで人は友情をはぐくむという。……私を危険物扱いするとはいい度胸である。


 まあいい。話が進まない。


 ていうか名前も知らないとは思えない仲の良さである。もう勝手に自己紹介しろよ、何で律儀に私が間に入るのを待っているんだよ。そもそも入学式からこっち結構な時間がたっているのだからどこかで勝手に名前の交換ぐらい済ませておけなかったものか。


 ……いや、入学式前から私と行動を共にしていたエル、入学式では隣りあわせ、頼みもしないのに学内を案内するという名目でさっそうと私をエスコートしようとしていたジル、そこに突進してきたエイヴァ。

 そのままエイヴァはおんぶお化けと化し、辛うじて平静を繕ったジルによって私たちは応接室に引きずり込まれてカオスが完成したという流れを経ての今だった。


 名前なんて名乗る暇なかった。


「……ええ、紹介が遅れて申し訳ありません。彼は、エイヴァ。数少ない平民からの入学生ですわ、ジル。そしてエイヴァ、こちらは我が国の第二王子殿下であるジルファイス・メイソード様と、私の義弟であるエルシオです」


 とりあえずは微笑みを崩さず、何事もなかったかのように私は双方を紹介した。ついでになんか口走りかけたエイヴァに眼光だけで圧力をかけて黙らせる。無駄に歳食ってる似非同世代な世間知らずは引っ込んでいろ。エイヴァはつぶれたカエルのような顔面を晒して黙り込んだ。


「……え? それじゃあ、彼が……?」


 私とエイヴァの無言のやり取りには気づかなかったエルが声を上げた。ああ素直さって美徳。腹黒粘着王子は愚かにも気づかなくていいことに気付いて引き攣り切った顔で一歩距離取りやがったのに比べこの純粋さ。エル可愛い。さすが私の義弟。ジル、君は後でお話があります。


 ともかく。


「ええそうですわ、エル。入学前に少し話したでしょう? 知る人は知る、『平民の天才』は彼のことです」


 ふふ、と笑う。これは事実だ。本当に、『平民の天才』としてほぼほぼ貴族しか通わない王立魔術学院ヴェルザンティアの入学許可をもぎ取ったものがいるという噂はあった。なぜそんな珍事が盛大なうわさにならなかったのか……まあ、やり直しの魔力測定が終わった際に呼び出され、ねっちねちとジルに責められたことが恐らく答えなのだろう。つまり私のデビューがちょっと華々しかったので霞んだ、それに尽きる。ならば仕方ない。まあ噂が全くなかったわけじゃないし。現に私は知っていたのだし。ただそれがエイヴァとつながっていなかったので本人から聞くまで正体が割れていなかっただけだ。なぜならば私は出会いの季節を大切にしたかったので意図的に深く調べなかったからである。己の判断をこんなに激しく後悔したのは初めてだ。まあ終わったことはどうでもいいのだが。


 ともあれ、それを聞いてようやくジルも会話に復帰してくる。


「なるほど? だがなぜあなたと彼に面識が?」


 ずいぶんと親しいようですが、と私とエイヴァを見比べた。


 確かに常識的に考えて、初対面の公爵家の令嬢にタックルかました挙句にため口利く平民はなかなかいない。いれば遠まわしな自殺願望の持ち主だと思われる。よほど気を許した間柄であっても筆頭公爵令嬢に突撃をかます輩はそんなにいないとも思うが。


 ただまあ、ジルもエルも私の素行をある程度知ってるというか、私の放浪遍歴を遠い目をしながら見なかったことにしているようなので、貴族ではないという設定の彼と私に面識があること自体はそこまで不思議じゃないからこそのこの質問なのだろう。


 腐っても権力も実力もある第二王子。そして私が丹精込めて教育した公爵家跡取りである。余計な質問はしてこない。


 ……さて、と。私は目を和ませて、口元に手を当てる。そして笑った。


「ふふふ、私も予想外でしたわ、まさかこんなところで彼と再会することになるだなんて……」

「再会?」

「ええ。エルは参加してはいなかったけれど、それ自体は知っているわね。ジルも覚えていらっしゃるでしょう? 昨年の夏、隣国に出向いたこと?」


 まず語るのは、事実だ。


「……ええ、覚えていますよ」


 ジルは美しくそしてとても疲れた顔をした。あれはいろいろと……アレだったからね。うん。















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