4/11 その『白』、
とにかく私たちは無事に学院への入学資格を勝ち取り、今日から晴れて生徒と相成る。初々しく制服を纏いいざ出陣という風情だ。まあ出陣といっても王家に次ぐ権威を持つうえに魔術特化のランスリー家。学院の中では平等を歌うが形骸化も甚だしく、貴族社会の縮図をおりなすあの場所ではまあそれなりに我が家は優遇されるわけで、そんなに気を張る必要もないのだが。そもそも貴族ばかり通うところなのだから、ある程度は身分や魔術について教育済みの子供ばかりであって、だからつまり多分緊張しているのは教師の方だ。主に中途半端に高い家柄とか魔力を持ったがゆえに威張り散らす系の面倒臭い子供の入学がないかどうかについて。なれば頑張ってくれとしか言えないのは私はヒエラルキーの最上位に位置する公爵令嬢だからである。教授諸君よ健闘を祈る。
ちなみにそんな学院だから制服もそんな規定が厳しいわけじゃない。これもやはりお貴族様が多いせいだろう、限度はありつつも自由な服が許されている。学校指定のローブ以外は。これは校章と国花が刺繍された中々すっきりとしたデザインのもので私としては高評価だ。なお学年ごとに色が違って、一年生は藍色である。
公爵令嬢として恥じない程度の威厳を保ちつつ動きやすさを考慮したドレスの上にそのローブを羽織って準備は完了。
さて、今から私は学院に向かうのです。あ、ちなみに、私の現在地は公爵領の邸である。
王都の別邸に移り住んだのはひと月前であり王都にある学院に通う予定であって、もちろん今日が入学式だけど、イマココだ。
なぜってちょっと本邸に用事があったので。こっそりと、戻ってきたの。いや、使用人さんたちは信頼してるよ。そっちは全然心配なんかしてない。でもほら、一応対外的には領主代理に任せることになっているので。国王には筒抜けどころか朗らかな瞳で『もう好きにしろよ』とのお言葉を賜っているのでその他貴族さん相手にはってことなんだけど。……まあつまりそんな領主代理殿に若干の不安が残っていたので。ほら、あの人前に国王の命令で可哀想なことになって積み上げた微々たる信頼を地に落としたから。
だからぎりぎりまで残って執事長とか侍女長とかに君達が頼りだよと念を押していたのだ。領主代理が国王のパワハラ受けたら報告しなさいとも。
なおエルは普通に別邸から学院に向っている。私がちょっと最後の念押しをしてくると宣言したところ、ほどほどにねと言って送り出した我が義弟は最近ようやくシスコンが落ち着いてきたようで何よりである。
ちなみに私は転移でサクッとエルの使用する馬車に乗り込む予定である。あたかも初めから乗っていたかの如く。
私から離れたくないメリィなんかは残念そうな目をしていたけど、私もエルも領地を離れるからね。最初くらいは念を押しておきたい。
他の追随を許すつもりはないけど、引き込まなくていい面倒事は回避するに限る。
未だに個人的に転移を行使できることをカミングアウトしていないくらいには領主代理殿の信頼は微妙な位置にいるのだ。
まあつまりあんまり多くの使用人さんに見つかって騒がれて領主代理殿に気づかれればなんでここに居るのですかお嬢様、と驚かれて追求されること請け合いでありそれは非常に面倒臭いので、侍女長と執事長にしか会っていない私はこっそりと転移します。
さて転移――と、その時。
フッと。何か。そう、何か、些細な。違和感? 不明瞭感? 雑音? ……まあともかく何かそのようなものを感じてしまい。うん、感じてしまったので。
警戒した。当然である。ここは私のテリトリー。そこに違和感を持つ『何か』の出現。すなわち侵入者の可能性。
しかも、発生源は、隣の部屋。……敵意は感じないが、しかしあの出現の仕方は明らかに『転移』、ではなかっただろうか。……敵意は、うん、なぜか今のところ感じないが。
そっと。気配を探りながら、私は扉を開けた。
「……」
そっと閉めた。
おかしい。なにか……幻覚が見えたような。落ち着こう。きっと私は疲れている。
そっと、開けた。
閉めた。
うん、私は何にも見なかった。
入学式が始まってしまう。行こう。さあ転移だ。パチンと指を―――
が。
「人の顔を見るなり閉めるとはひどいな、シャーロット」
……。………。
ふむ。
な ん で お 前 が こ こ に い る ?
私の部屋の扉を開けて苦笑したのは、美しき純白の髪と透色の瞳を持った『魔』であった。
頭のいい馬鹿が目の前にいるなど許しがたかったので、とりあえず黄金の右足で蹴り上げた。