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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/50 お久しぶりです、逢いたくなかったいつかの誰か


 ――それ(・・)を見たのは、焔の祭り最終日、その夜だ。


 見たっていうか出たっていうか。ともかくその時私は眠っていた。

 楽しい時は矢の如く過ぎ去り、三日三晩踊り狂ってまさしく炎が消えたように力尽きた私含めみんな。

 春眠でなくとも暁を覚えず。そのまま私は惰眠を貪っていた。


 だってほら私、頑張ったし。私の不在を埋めるためにもみんなも頑張ってたし。そのうえ祭りでテンションかなり高かったし。英気を養うことは必要だと思うの。ベッドに辿り着かずにソファで力尽きていても。


 という事で、私は眠っていました。そして安眠を邪魔されました。

 何てことしてくれてんだお前。


 ……いやうん、物理で邪魔されたわけじゃない。夢、うん、夢だ、これは。


 夢とは記憶の整理でもあるという。まあ遥か過去の記憶も見せることもあるだろう。だからほら、前世との狭間の記憶とかも垣間見たりすることだってあるだろう。十数年昔とは言えあれも私の記憶の一部である。不本意だが。


 すなわち、それ(・・)が何か奇声を発しながら近づいてくるという悪夢になることもあるのだろう。だって私の周りはストーカーとストーカー予備軍があふれている気がするし、以前の邂逅でもそれ(・・)が醜態をさらしていた覚えがあるのだから。

 うむ、間違いない。

 私は納得し、覚えのある謎の空間でさあ二度寝と決め込み目をつぶった。


 が。


 ――『いや間違いだからな!?』


 何か聞こえた。


 ――『二度寝をするでない、寝汚い! 起きろ! 起きて我の話を聞け! 十三年越しの我の話を!』


 夢が何か喚いているようだ。人の安眠を邪魔する馬鹿は、馬に蹴られて死んじまえ。


 ――『それ人の恋路だろってぬあああああ!?』


 ヒヒーンブヒヒと軽快な鳴き声とともに汚い悲鳴が響いた。なるほど便利な夢だ。しかしそのまま静かになればいいのにそれは懲りていなかったようだ。


 ――『神領域を操る規格外に育ってる! そんな子に育てた覚えはありまs』


 育てられた覚えもねーし人の安眠を邪魔する馬鹿は獅子に食われて死んじま……


 ――『やめよう!? ちょっと落ち着いて肉食獣はやめy、ちょ、ま、ひいいいいいい!?』


 汚い悲鳴が断末魔のように響いた。いい気味である。しかしそれは思いのほか丈夫だったのでやっぱり懲りずにきゃんきゃん耳元で喚いている現在。

 私は盛大にため息をついた。どうやらこの覗き魔の相手をしてあげなくてはいけないようだ。


 ――『相変わらず神を何だと思っとるんだこの娘!? こんな塩対応神様はじめて!』


 私が起き上がったというのにそんなことを喚いたのは謎の空間に浮かぶ青っぽい何か。

 つまり自称神だ。そんな自称神をもちろん私は鼻で笑った。


『何言ってんの十三年ぶりの間違いでしょう。そして本題は何? 何の用事?』


 ――『そうだね十三年ぶりだね。そして前置きをぶん投げて切り込んでくるこの娘』


『用がないならなぜきた帰れ。自称神の分際で』


 ――『ねえ十三年前より無礼になってない? あの時はぎりぎり敬語だったのに遠慮なく暴言吐いてない? 神様泣きそう』


『貴方は私の『後で泣かすリスト』の堂々一位に輝いています』


 ――『えっ』


『記憶を取り戻して約三年。やっと機会が巡ってきました』


 ――『えっ』


『一、殴られる。 二、潰される。 三、ねじ切られる。どれがいいですか?』


 ――『待って』


『どれがいいですか?』


 ――『いや待って、どれも嫌だし、』


『どれがいいんですか』


 ――『嫌だってば、落ち着こう。一回落ち着いて、』


『早く選べよおら』


 ――『恐喝になった』


『全部ですか? 全部ですね。なるほど潔い』


 ――『違う違う待って待って待ってごめん待って。先に我の話を聞いて』


 じりじり距離を詰める私、じりじり後ずさる自称神。まあ相変わらず自称神は青っぽく謎の空間で光っていて頭どころか身体も見えやしないのだけれど。

 ともかく。


 自称神で遊ぶのも飽きたしさっさとお引き取り願いたいので話を聞いてやろうと私は椅子に腰かけ紅茶を啜った。なぜそんなものがあるかと言うとこれが欲しいなと思ったら出てきた。つくづく便利な夢である。

 まあいい。


『じゃあ本題をどうぞ』


 すっと手で示したらもちろん椅子などない自称神が床に正座をしているかのような雰囲気を醸し出して呟いた。


 ――『あっれ、我神様だよね。釈然としない』


 何を今更言っているのだろうと心底思った。









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