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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/47 『普通』を殺した(アレクシオ視点)


「私は、異常ですよ」


 クラウが困ったように言う。


「アイシャの為だったら何も厭わない。怖くないんです。人殺しも。国崩しも」

「アイシャがそれを望んでいなくてもか」

「彼女はそんなことは望みませんよ。だって彼女は優しい。何処までも綺麗な私の最愛なんです」


 アイシャの名を呼ぶクラウは、最愛と言ったその声は、優しくて、甘くて。

 望まれないと知っているくせに自分が要らないものをただ壊して、それを愛だと呼んでいる。


 ――ああ、異常だ。許されない。いっそ化け物染みた愛。判っている。そんなことは気づいていた。だって狂気でしかない。クラウの動機もその行動も。

 それでもクラウを家族と思っている俺だって、きっとどこかおかしいのかもしれないけど。


「……俺はお前が、怖くはねえよ……」


 片手で目を覆い、告げればクラウは幼子のような顔で、瞬いた。それからふと、目を細めて「そうですか」と紡いだのは、どんな感情だったんだろう。

 けれどそれを問う前に、クラウが再び口を開いた。


「……あの『魔』は、逃げましたか」


 あの方が囚われているならばもっと警備は物々しいはずですからね、と。はぐらかされたことは判ったが、クラウが指摘した点は確かに事実だったから、俺は一瞬言葉に詰まった。それで何かを察したのか。


「なら、『令嬢』は……」


 そう言葉尻をクラウは濁した。後悔と言うには薄っぺらな感情で、過ぎたことだというように。


 でも正直濁した内容が問題だったので声音に含むものはちょっと隅っこに追いやられた。だってついピクリと肩が跳ねたくらい問題だった。俺の中で嫌な予感が膨れ上がってにやにや笑いだしたくらいだ。何笑ってんだ。いやだって多分、クラウの言う『令嬢』は、


「……シャーロット・ランスリー嬢、でしたか。好奇心が旺盛すぎた様で、……私があの『魔』に渡しましたから、」

「やっぱあいつの事か」


 つい遮った。さっきまでのちょっと重い空気がシャロンの名前で霧散するってどういうことだ俺、と自問しながらの発言だった。不可解な効果である。しかしそんな俺につられたのか「は?」とクラウが素っ頓狂に俺を見返したものだからははっと俺は乾いた笑いを返した。いやそっかそうだよな。だって言い忘れてたもん。でもクラウの予測は見当違いだ。なぜならば。


「クラウあれは生きてんぞ」


 ピンピンだ。重々しく言った俺にクラウはぽかんと。


「はっ?」

「シャロンは死んでねーから」

「は? シャロン? 兄上が愛称で……いえ、そんな馬鹿な」

「その反応すげーわかる。でもあいつ太古の『魔』を返り討ちにした挙句に『不毛の地が完成しましたわ』っていらねえ報告してきたからな」

「は?」

「うん、すげえ元気に後始末を俺に投げつけて自分は今頃祭りで踊ってんだよあいつ」

「百歩譲って『魔』に勝ったとしてこの短期間にその回復はありえない」

「千歩譲ったところで『魔』に勝てる公爵令嬢はほぼ見つからねえと思うけど、あれは常識じゃ測れねえよ。意味わからねえから。あとあいつは無傷で帰って来た」

「兄上のくせに他人を『意味が分からない』とか何を言っているんですか」

「なあクラウ、それは俺が意味わからねえ存在だって言いてえの? 違えから。シャロンは次元が異なる感じの意味わからなさだから」

「いえ、確かに彼女は年齢に反して不相応に度胸はありましたが、」

「度胸は溢れてるよ。あいつ躊躇なく俺にアッパーかますもん。めっちゃ笑顔だった。トラウマになるかと思った」

「はあ? 何少女に物理で脅かされているんですか」

「せめて魔法だと思うだろ? あいつランスリーだもんな。でもくっそ武闘派だよ。うちのジルにも正拳突き決めるしこないだ回し蹴り決めてた。ジルは華麗に宙を舞ってたけどそれでもシャロンに懐いてっから我が子ながらちょっと怖えよ」

「親子で何をやっているんですか? そして回し蹴りを王子に決める公爵令嬢は実在するんですか?」

「やってるんじゃねえよやられてんだよ。俺が知らねえことを突き止めて公爵相手に啖呵切る公爵令嬢は実在してんの知ってんだろ。それの延長だと思え」

「延長じゃ繋がりませんよ!?」


 とうとうクラウが喚いた。


「だよな、そう思うよな。でもあれは無理やりつなげて『シャーロット・ランスリー』っていう生き物だと割り切るのがおすすめだ」


 ぐっと俺はサムズアップで推奨した。クラウの紅玉の瞳がグラグラと揺れ彷徨って、俺の親指に視線が止まる。そして、……なぜだろう。



「……本当に、」



 ――生きているんですか。



 クラウの声は、感情の抜け落ちたそれだった。






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