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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/45 ここは彼女の腕の中


 火の粉が、ひらひらと散ってゆく。

 周りでは喧噪。昼間から酒をかっくらい歌い、踊る。


 はい、いろいろ、いろいろ、ありましたが、今日は祭りです。

 私の右手には酒。

 ええ、お酒です。大丈夫無問題、この世界では飲酒に年齢制限などない。そして私は水のように酒を喰らいながら顔色も変わらぬワクだ。


 そんな私の左手にはたこ焼き。右腕には焼きそばが下がっています。異世界食の布教は順調です。

 そして私の背後には子泣き爺のようにエルがくっついているけれども気にしたら負けなのでただの背景だと思っておくのが吉である。コウイウ柄のオヨウフクなのヨ。


 ともかく。


 今日はお待ちかねの焔の祭り、楽しむのが正解であって多少のことは気のせいで通せばいいのだ。私の隣で大笑している領民の皆さんも「あっはっは、今年はお二人仲がいいネ!」でスルーしてるから。さすが私の領民肝が太い。細かいことを気にしない精神って大事だよね。

 だからもちろん私も右に倣って細かいことは気にしません。無礼講で食べて飲んで踊り狂いましょう。それが本日の正義。


 うん、まあね。


 ちょっとエルのストーカーが激しいとはいえ、あの後のことは大体終息が見えたっていうか、方向性が決まったのでできることではあります。いくら後始末を見事王族にぶん投げて「ワタシ カンケイ ナイヨ」を装った身であるといっても実質の当事者ではあるからね。


 あの後、国王は王宮に戻って、奥方であるアリス様等とともにタロラード公爵……爵位が剥奪されたから元公爵だけど、まあ彼の処遇を決めた。臣籍降下されていたことに加え、様々な余罪が多すぎたこと、そもそも国家反逆罪だ。


 彼に下された沙汰は、やはり極刑。

 せめてもの温情は、斬首による公開処刑ではなく、最低限の誇りは守られる服毒刑であることだろうか。まあ世間には病死扱いで発表だろうけど。


 死を望む彼にそれを与え解決なのかとか、思うところはなくもない。私は今も彼の行動は不愉快だ。巻き込まないでほしかったし『魔』たるエイヴァをきっとどこかで免罪符にしていた彼は死ぬことが最終的な目標だった。


 ふざけるなと思うし許さない。


 それでも彼の処遇に挟む口を私は持っていないし、それは王族の……国王アレクシオ・メイソードの問題だ。

 彼の思惑をぶっ潰して出し抜いて、私は生きてるし国にはほとんど影響がないってことだけでまあ、溜飲は下がった、ということにしておこう。


 残りの時間で精々国王とでも向き合えばいいんじゃないだろうか。圧倒的に会話の足りない兄弟みたいだし、あそこ。

 まあ時間は国王がひねり出すだろう。彼とかかわりのあった貴族や裏組織も次々と検挙されて、王宮上層部は祭りどころではなく騒然としているらしいけど私は知らない。これで、上流社会の勢力図もだいぶ書き換えられることだろうが、私は知らない。


 頑張って国王とジル!


 ちなみにだが、首謀者であるタロラード公爵が表向きは病気で表舞台降板、後病死を装って服毒刑と言うことは王族とその周辺上層部のごく一部しか知らない。公爵邸に踏み込んだ騎士たちだって厳選されたメンバーだった。ならばなぜ諸外国からの信用が落ちて大変なことになっているのかと言うと前述した公爵とかかわりあった貴族たちの失脚が原因だ。あとエイヴァ。まあエイヴァはおいとくとして、失脚した貴族たちは侯爵家が一つに伯爵家が三つ、子爵家が二つ、男爵家が三つ関わっていた。彼等には没落・降格・当主交代と様々沙汰が下されている。でもタロラード公爵が腐っても飾りでも貿易関係を担っていたこともあってやっぱその周辺関係の貴族が多くてね。え、そんな汚職に塗れてるの? お宅、大丈夫? っていうね。あとエイヴァの噂も広まってるから、え、そんなのが暴れてるの? お宅、大丈夫? っていうことにもなったっていうね。


 それでも私は後処理はぶん投げました!


 ……あれらを炙りだしたのもエイヴァと一緒に調子に乗ったのも私だけどー、悪いことやらかしたのは本人たちだしー。うちは何があっても揺るがない盤石の筆頭公爵家だしー。ははっ、格下の貴族の首がすげ変わったところで影響なんてあるはずもない。それだけの実績と実力がうちにはあるのだ。筆頭公爵家の歴史万歳。


 なので私は祭りを踊り狂います。詳細は知らずともなんとなく貴族がごたついていることは伝わっているのに民には関係ないということで大体の地域で祭りは開催されているこの図太さ。きっと国王に似たんだろう。華麗なるガン無視だ。


 いや、その国王当人には情報をあげたもの、始末くらいできるでしょってことで。タロラード公爵やエイヴァの件では大分無茶を通した部分もあるし後始末を投げたっていっても後始末に至るまでの情報提供くらいはした。その情報をどう使うかは彼らの腕次第だ。


 まあ必要な報告を怠った国王は鬼嫁に軟禁中で泣いているという報告がどこからともなく齎されているのでどうにかなる。

 どっちにしろ此処から先は、いち公爵令嬢が関与すべきではない、国の仕事だ。

 私は目的を果たしたしね。


 ジルには随分と、エイヴァに対する処遇を勘繰られたが、まあ仕方がない。実質、害ある『魔』を野放しにしているんだから。


 まあその理由はいろいろあるけど、何にも考えていないお子様には反省が必要だと思うのだ。

 あれは馬鹿だが、頭が悪いわけじゃない。だからいつかきっと気づく。自分が犯した罪の重さに。


 ――その時、死にたいくらいに後悔してほしいと思ってる私はとっても性格が悪い。知ってる。


 まあ、問答無用で監視・拘束・調教も選べたがそれをしなかったのは、あれが歪んだのは人間がやらかしたせいもあるからだ。歩み寄りって互いにする物だからね。そりゃ、途方もないボッチを拗らせたその責任を現代の人間に払えなどとは思わない。ただチャンスはあっていいと思っただけだ。そうしないと多分あれは何も気づかないままだし。人外の犯した罪の裁きを人間の枠組みに当てはめられないだろうというのもちょっとはあったけど。


 ともかく、終わりよければ後は野となれ山となれ。私のこの件に関しての仕事は終わった。


 目の前には、踊るように舞う火の粉。

 歓声が上がって、音楽が流れる。笑う領民。背後にはエル。そして使用人さんたち。口角が自然に上がった。



 ――さあ祭りだ。




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