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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/44 彼女は愛され過ぎている


 さて。

 帰ってきましたランスリー公爵邸。

 やっぱり我が家は落ち着くね。メリィの淹れてくれた紅茶が大変おいしい。


 ……いや、まあね? 帰ってきた瞬間、案の定一悶着はあったんだけどね? ないはずがなかったんだけどね!


 いえ、私自身はいろいろと用事を済ませて転移でサクッと自分の部屋に帰って来たんです。予定通りでなんのズレもなかった。エイヴァをけちょんけちょんにしてその脚でそのまま、タロラード公爵連行済みで灰になった挙句ネガティブキャンペーン開催中の国王のところに行きアリス様の恐怖を思い出させた。順調だった。


 しかし自室から普通に出て行って普通にメリィを見つけて普通にただいまって笑ったら一体何の魔術だろうか、次の瞬間屋敷中の人間が私を取り囲んでいた。


 普通に怖かった。


 いったいいつの間に転移を習得したのかと思うくらいに一瞬だった。

 ていうかその情報伝達能力は何? 念話の速度超えてない? うちの使用人さんはみんなテレパスという特殊能力者だったの? 目覚めたの?


 兎にも角にも、そんな超能力者な使用人さんたちに私はもみくちゃにされました。お土産の王都のお菓子もあったのにまとめてもみくちゃにされながら号泣されました。


『なぜ! 事前に! 予告の一つも! ながっだのでずがおじょおだばああああああ!』


 ひっさびさの阿鼻叫喚だった。

 ごめん、ごめんって。


 いやだって私を愛してくれてるみんなの前で『ちょっと誘拐されてくるから☆』はかませないと思ったんです。国王じゃあるまいし。いや、私がいなくても屋敷が回せるよね、信じてる☆ っていうのもなきしにもあらずだったけど。転んでもただでは起きない私。抜かりない。突然の失踪でも対応できるよねっていう期待もこみこみ。


 その結果はといえば、領地は混乱することもなく、というか私の不在すら漏れることなく円滑に経営が回っていてその点は大変満足。うちの家族、超有能。領主代理殿が少々使い古されていたけどリフレッシュ期間あげるから復活を果たしてくると思う。うちにかかわる人間は徐々にタフになっていく仕様が彼にも反映されているのを実感しているもん私。


 まあそんな有能な我が家の皆は私に恐怖を味あわせるほどのハイスペックだということです。

 マジ怖かった。取って食われるかと思った。

 そして始まる泣きながら正座で鬼説教。『あなた様がやらかすことは判っておりますから仕事は滞りありませんが報連相はしていただきたい』がメインだった。


 大分拷問だったけど、いや、うん。私が悪かったです。悪かったってば。


 マジギレメリィはもう対面したくない……。うん、本気で私がふらっと公爵家からフェードアウトする気かもと思ったんだって。そんな風来坊じゃな……いと思いたかったけど思えなかったわ。エルの件で前科があったわ。ホントごめんって。


 いや、確かにね、私が悪かったです、もうちょっとだけでも指示を出しておくべきでした、ホントすいません、反省してます。

 後悔はしてないのでいつかきっと必要があればまたやるんだろうけど。


 今回のことで味を占めた私にみんなうっすら気づいているから説教が倍になったけど頼れる義弟がいると得心した私は懲りないので慣れてほしい。


 ……うん、まあ、その義弟はと言えば、現在絶賛ぶっ壊れ中なんだけども。


 いやいや、私がいない間屋敷の切り盛りをしてくれて、使用人さんたちと結託してくれて、期待以上の優秀っぷりを発揮してくれた自慢の義弟なのは事実だ。弟の成長がお姉ちゃんはうれしい。

 しかも私が帰って来た時も使用人さんたちほどには咎めずに『しかたないなあ』って感じだった。まあ出ていく前にひと悶着あって私が何かやらかすことを事前に察していたのもあるんだろうけど。そのたいへん大人な対応がお姉ちゃんはうれしかった。


 が。

 その時すでに、異変は起こっていたのだ……。


 ……うん。まあ、最初はね、そんなに思わなかったんだ。微妙かなっていうね。気の所為かもっていうくらいで。全然気の所為じゃなかったしぎりぎりアウト退場な感じだったけど。


 何がアウトって距離。

 私と、エルの、距離。

 心じゃない、物理だ。物理的、距離のことだ。


 近い。ものっそ、ちっかい。


 一日たって二日たって、ジルとの話し合いは何とか一人で終わらして。

 しかしだんだん縮まる包囲網的何か。おかしいと思ったときには時すでに遅し。最終的に屋敷の、いつ、どこにいても、何をしていても、エルが視界に入ってくるという緊急事態に陥りました。


 いる。目が合う。にっこりされる。


 執務にいそしんでいようが剣を振り回していようが、商会の新商品について画策していようが、常にひっそりと傍に、居る。


 なにこれ恐い。

 ストーカーは、間に合っています。

 間に合っているんです!


 ていうか今も、日課の手紙の見分中だけどエルが同じ部屋にいる。勉強してる体でそっとさり気無く傍に居る。

 あれ、これジルより上手じゃね? 家庭内ストーカーな義弟がやばい助けろください。


 百戦錬磨の『魔』よりも儚げな美少年が怖い。


 こう……諦める様子がないんだよね。そっと。ひっそり。背後霊のように。むしろ私の陰であるかのように。スキル高いわあ。うちの『影』さんたち助力してる? してるよね? 余計なことしないで。

 もともとシスコンの気はあった。あんまり気にしなかっただけで、あった。あったけれどもまさかこの方面に開花するとは思ってなかった。


 なぜメリィたちとは違うベクトルで突き抜けた?

 泣き叫んでお説教される方がよほどのことマシなんですけど!

 いや、彼を不安にさせた代償がこれなわけで、言ってしまえばエルが顕著なだけで割とランスリー家全体が連携ストーカーっぽいけど。自業自得とはわかっているけど!


 判ってるが、私は叫ぼう。



 トイレにはついてくんのはやめろ。



 人間としての尊厳である。










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