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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/41 暗闇の淵に立つ少女(ジルファイス視点)


 実際にシャロンと話ができたのは、父から話を聞かされた二日後だ。

 父曰く、おとぎ話のはずが実在した『最古の魔』を下したという彼女はいつも通りだった。つまり輝く笑顔で特大の猫をかぶってやって来た。


「……楽しく『遊んで』きましたわ」


 朗らかに彼女はそう語った。タロラード公爵領にある屋敷が跡形もなく消滅し跡にはクレーターと土山と不毛の地しか残っていないという情報を信頼できる筋から得ているのだがそれでも彼女は『遊んだ』と言い切るらしい。


 そんなシャロンには以前共に魔物討伐した時に私を評していった『狂戦士』という言葉を綺麗にラッピングしてお返ししたい。

狂戦士(バーサーカー)』は君だ。


 ともかく。


「……貴方が健やかで何よりですよ。こちらはなかなかの混乱に見舞われていますけれどね」


 主に叔父がかかわっていた貿易国との信頼関係とか、シャロンのおかげで見事に塗り替えられた貴族間の勢力図とか。まあ同じくシャロンのおかげで内々に案件自体は処理できたから手回しをする余裕はあったが、民に全く知らせないわけもいかずその意味でも頭が痛いのだ。そうジト目で見れば彼女は。


「あのお方の影響力はそれなりに在りましたものね。頑張ってくださいませ」


 清々しく無責任に笑顔だった。

 頑張るけれども。


 確かに今回の件は王族の不祥事ともいえるしこの国の膿を一掃するにはいい機会だともいえる。だがしかし逃れようもなく当事者だったはずなのに証拠も残さず撤退した鮮やかな手並みが腹立たしい。


 失われた諸国からの信頼を取り戻すのにどれだけ大変かわかっていな……いや分っている。この令嬢は積極的に助力はしないが『ランスリー』の名を使うことは構わないと言ったのだから。判っているにきまっているのにこの丸投げ。父は今執務室で母に監視されて泣いている。


 ちなみに王妃である母は父から叔父の件について知らされた時にふらりと立ちくらみを起こし、父に縋りついて号泣しつつそのまま腹パンを決めた豪傑である。父は悶絶していたが母を支えることは止めなかったのは愛か矜持か。顔色はとてつもなく悪かったとだけ言っておこう。そしてその後号泣しながら地を這うような低音で母は告げた。


『わたくしにまで隠匿していたことへの釈明はあるのかしら。さあお話しくださいませ?』


 その後いろいろと言い訳が聞こえたが、火に油を注ぎ父は母に連れられどこかへ消えていった。帰って来たときには襤褸布のようになっていたが兄と目を見合わせ何も追求しなかった。


 ともかく。


「まあ、そちらは目途も立っています。外交はもともと王妃殿下と王太子殿下が中枢を担っていますし。私と陛下は国内の混乱に走り回っている日々ですが。……春までには一旦は落ち着くでしょう」


 それで、と私はシャロンに水を向ける。


「貴女の方は、どうだったのです。『古のもの』は自由の身だとか?」


 そう。彼女が対峙した『魔』は彼女の勝利で戦いの幕を下ろしたものの、その命までは奪っていないし拘束もしていないと聞いた。現にあの不毛の地にもそのように強大な『魔』が消滅した痕跡はない。


 答えによっては、その事実はシャロンを敵とみなす理由になる。


 相手は最古とも呼ばれる伝説の存在。辛くも取り逃がしたという話は頷けるし責められるものではない。しかしシャロンは今現在疲労の気配もなくとても元気だからこの元気さのまま『魔』を追い詰め追い落とし勝利を収めたのは必定である。つまりはわざと、シャロンの意志で、『魔』を逃がしたのだ。『楽しく遊んだ』などと明言しているし。


 それを聞き出すのが本日の目的と言っていい。母に軟禁されている父からの命だ。

 しかし。


「……またあれがオイタをしたら私がまた『遊んで』差し上げると約束してきましたからご心配いりませんわ?」

「なるほどこの国を更地にするおつもりですか」


 心底慈愛を込めて放たれたシャロンの返答に真顔で返してしまった私は悪くないと思っている。


「嫌ですわジル。オイタをするのは『アレ』であって私はそれに対処するだけですのよ」

「遊ぶのでしょう?」

「遊びますわよ?」

「なぜその根源を断ち切らないのです? 貴方ならば難しくはないはず」


 埒が明かないと切り込んだ。いや、まさか『遊び相手のキープ』などとはほざくまいとこちらも鉄壁の笑顔を張り付けたが、可能性としてあり得る気もしたのでヒヤリとしたものが背筋を走る。


 けれどそんな私に反して、彼女は何処までの優雅だった。優雅、だったが。



「……ならばジルは、私にあれを『救え』と言うのかしら」



 私は嫌よ、と。そう言った彼女のその声だけが、息をのむほど、平たんだった。






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