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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/40 正しく線を引く子供(ジルファイス視点)


 クラウシオ・タロラード公爵。


 私の叔父が捕縛されたのは昨日の事だ。罪状は多々あれど一言で言い表すのであれば国家反逆罪。

 死刑はまぬかれないだろうと父である国王から告げられた時、私はいつもの表情を保っていられただろうか。


 正直、私と叔父との接点は多くはなかった。父と叔父が疎遠であったし宮廷魔術師とかかわりが深い私に対して叔父の職務は貿易がメイン。魔術師というのは戦時や討伐任務でもなければ研究職の意味合いが強い。通常の護衛なら騎士で十分だからだ。だから私と叔父が職務上で関わる事態がそもそも生まれなかった。


 ……それでも、私としては叔父を気にかけていたつもりだったけれど。


 不穏な空気があることには気づいていた。私の子飼いの諜報員や部下からいくつかの報告も上がっていた。ただ証拠がなく、父に上奏するには弱かったのだ。

 血縁だからと言って手を抜いたつもりはない。そしてそれは父である国王も同じように、裏で動いていたのだろう。


 父は信頼している相手には出来る限り信じようとする節がある。とくに叔父にはそれが顕著で、だからこそ私も疑いの時点では報告を躊躇った。だがまあ、そんな父だからといって疑わないというのは別である。父自身がその疑いを既に抱き、自ら『ウラ』を取ろうとしているのは部下から報告を受けていた。


 父が早いか、私が早いかという話だっただけだ。

 叔父もさるもので証拠をつかませず、長期戦になるかと思っていた。


 が。


 しかし私は失念していたのだ。いや、失念していたというよりは、まだ叔父の計画の全容がつかめていなかった時点の私は予想もしなかったのだ。


 規格外の権化のような公爵令嬢が全ての先手を取って高笑いしていようとは。


 なんなのだ彼女は。彼女の情報網と部下はどうなっている。シャロンとかかわりの深い私には父が耳打ちしてくれた彼女の所業。証拠と罪状と叔父の人脈と計画の全容について、全部掴んで父にぶん投げたらしい。重量級のそれにさすがの父も取り落とすかと思ったそうだ。それを聞いて流石シャロンと思ってしまったのは一種の敗北なのだろうか。


 いや、父から叔父の罪状や彼女の所業を聞けば彼女がかかわっていたということはものすごく納得できはするのだ。うすうすそうかもしれないとは思っていたのもある。


 なぜなら巧妙に私の部下の妨害をしてきていた者共がいたからだ。『見知らぬ黒服にやられました』という無念の報告を何度受けた事か。父の部下かと思っていたが違うと言われたので答えはシャロンしか残らない。黒服ってなんだ。黒装束でキメているのか。有能すぎるだろう。私の部下も結構な猛者だし父の部下はこの国の治安を守っているのだぞ。まあその父の部下も出し抜いたからこの結果なのだろうが。


 ちなみに『見知らぬ黒服』がシャロンの手の者であると確証を得たのは別に黒服やシャロンからカミングアウトがあったわけではない。この間黒服の正体を見極めんと業を煮やして私自身が探っていた時に黒服から接触があり、その際の身のこなしがシャロン仕込みだと判ったからだ。


 何度でもめげずに彼女に接触を試み拳で宙を舞わされた経験のある私が言うのだから間違いがない。最近はようやくシャロンの動きに目が慣れてきた。避けられはしないが。なぜなら寸前までアッパーを狙っていたと思いきや正拳突きが飛んでくるのがシャロンだからだ。いったいどこで軌道修正したのか、慣れてきて途中までは見えているはずなのにそこは全くいまだにわからない。そして私が宙を飛んでも「あらあら」などと微笑ましく見守っているのが私の家族なわけだが一度彼らも殴られてみればいいのにと割と切実に思っているのは余談だ。


 話がそれた。

 ともかく。


 そうして私は動きを牽制された。学業があったとはいえ、もう少し関われたはずだが、ほぼ無関係で過ごすことになり、事後報告を受ける身に甘んじたのは途中から黒服の妨害のみならず父も牽制に参加したからだ。


 ……全容を見通すことができていない今の私の立場では、中途半端に手を出してはならないのだと。

 力不足、経験不足。痛感した。


 相手は最古の『魔』と叔父である所の『公爵』。私が手を出すにはいささか荷が勝ちすぎている。

 まあつまりは部下が父のそれさえも出し抜けないうちはまだまだだということだ。


 私が出来なくて何故シャロンができているのかという点にはあれだ、只の規格外だから深く考えたところで時間の無駄だと私は思う。


 それでも、何もわからないまま結果だけを知らされたのではなく、事後とはいえ全容を説明されたのはそれなりの信用があるからだと私は自負をしているのだ。


 ――この後に起る混乱を収める、その責任は私にもあるのだと。










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