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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/39 護らせてはくれない領域に立っている(アレクシオ視点)


 俺は絶叫した。腹の底から絶叫した。それでも部屋の外で待機している騎士たちが様子を見に来ないのはシャロンが遮音結界でも勝手に張ったんだろう。それはいい。つかどうでもいい。

 それよりも。


「あああああアリスうううううう! 言ってねえわ! そうだわ! だってお前黙っとけって!」

「嫌ですわね、邪魔をしないでくださいませとは言いましたが、アリス様に黙っておけなんて言っていませんわ。情報をアリス様にまで隠したのは国王様の判断です」

「マジかよそうだった。何してんだ俺。俺の馬鹿! おっふ、やべえ、殴られる……。シャロン助けろ。あいつお前気に入ってっから」

「嫌よ」

「だから真顔で拒否はダメージでけえってんだろうがやめろ」


 シャロンの真顔に思わず俺も真顔で返してしまっただろうが。

 いや、ともかく。


 そう。俺の奥さん、つまり王妃であるアリスもまた、俺たちの幼馴染だ。俺とクラウ、アリスとアイシャ。幼少期に引き合わされて、ずっと一緒に育ってきた。育ってきたからこそ、伝えないわけにはいかないし、アリスの心情は荒れるだろう。


 ああくそ。殴られても何でも、やっぱ俺から伝えるのが、それも「けじめ」で「誠意」なんだろう。


 深く大きなため息を吐き出して、俺はとりあえず城に戻ろうと決めた。つかそれしかない。怒れる奥さんを可及的速やかに宥めなければ殺られるのは俺だ。シャロンもそろそろ退散するんだろう、窓の外を見ている。どうせ俺の結果を見に来ただけなんだろうからな。どこまでも元気なやつだ。休めよ。俺も休みたい。


 ……すこしだけ、俺を元気づけるために来たのかもしれないとは、思うが。

 それを口に出して確かめるのも、野暮だ。あと違ったら恥ずか死ぬから俺はしない。しないぞ。


「……うん、俺はもう行くわ。お前も帰るんだろ」

「ええ、帰ります。可愛い可愛いうちの子たちが待っていますもの」


 そして彼女は優雅に礼をした。こういう時はああそういやこいつ公爵令嬢なんだと思う。こういうときだけ。そのきれいな所作に俺はそれに手を上げて応えて―――


「……お前はさあ、大丈夫なのか?」


 ついでのように、聞いてみた。


 不意を突いたはずなのに、彼女のきょとんと、珍しい表情は一秒にも満たなかっただろう。そしてシャロンは。


「勿論。国王様、ご自身が大丈夫じゃなくなることを心配した方がいいですわよ」


 ――それでは。


 心底の憐みとともに言って、消えた。未練も逡巡もなくあっけない。あっけないが捨て台詞がしっかり耳に残った。なんで心配した俺が逆に哀れまれたの。

 つまりあいつの中で俺がアリスに大丈夫じゃなくされることが決定してるってことかそうか。いや俺もそうなる気しかしねえけども。


 俺は足を扉へと進めながら空笑いを浮かべた。


 ああ本当に、腹の裡など読ませないうえに心底図太い。これでも俺はこの国の国主だぞ。

 まったく、その色んな意味での強さが羨ましく、そして意味が分からない。

 規格外が過ぎる。黙ってればただの美少女なのに。


 でもどうしようもなく多分助けられているのが実情だ。それがあいつの意図してかは知らないが。


 ――でもあれは本当に天邪鬼な少女だとも俺は思うのだ。だって博愛主義者じゃないというくせに、誰より優しい。誰より強い。例えば断罪し誰かを陥れても、その末路を全て背負って目を逸らさない。責任転嫁だってしたっていいのに、それを許されるくらいには幼いはずなのに。あいつは自分で自分のしでかしたことを理解している。太古の『魔』に対しても、クラウシオに対しても。


 まったく、どうして。

 頼っているつもりはない。でも無性に頼りたくなる。こんな子供に、この俺すらも。


 確かに俺とあいつは同類だ。でも俺とあいつは相容れない理念を持っているし、俺はあいつほど、強くもなれないんだよ。

 そもそも、俺は『国王』としての地位をもって様々なことをやらかしてきた。それは決して俺一人の力じゃない。俺一人ではできない事ばかりだ。


 ……もちろんシャロンは独りじゃない。身近な人はいるし、仲間もいるし、地位もある。ありすぎるくらいだ。何あの周囲。王宮勤めより有能だよ。譲ってほしいけどシャロン信者だからぜってえなびかねえわ。知ってた。


 いや、ともかく。


 俺が言いたいのは、そんな有能な周囲があって『シャーロット・ランスリー』という少女はいるけれど、それらすべてがなくても、関係ないんだろうと確信しているということだ。


 その傲慢が自惚れにならないほどに彼女は強い。


 そんな孤独は、誰にも弱さを見せないそれはきっと馬鹿みてえな独りよがりだ。そしてひとつの『弱さ』でもあるはずだ。そうであるはずなのに。

 シャロンに限っては、そうなっていない。……『弱さ』って必要だと思うんだけどな。あいつの寄る辺は何処にあるんだろう。少なくとも俺はそれにはなれないし成る気もない。


 そんな俺は薄情だろうか。でもこれがあいつと俺の距離だ。だって踏み込めば心底気持ち悪いってシャロンに言われる気しかしないもん。


 だからまあ、俺はあいつを案じはしない。――が、願いくらいはする。



 ……どうか、踏み出す道が違わぬことを。








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