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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/38 もがく人間であること(アレクシオ視点)


 俺しか残っていない部屋。護衛も部屋の外に待機させている。だから俺は、クラウが連れて行かれた扉を見ながら、正直大したことなどしていないのに疲れ切って、深く椅子に身を沈めていた。

 そこで、不意に目の前の空間がゆがむ。当然のように現れたのは、


「シャロン」


 当然のように現れんなよ。


 魔封じ諸々の結界はまだ施してあんだけど。ぶれねえ規格外だなこいつ。来るとは思ってたから驚かなかったけどな。驚く気力が残ってなかったともいうが。それでも溜め息とともに名前を呼んだのに、そんなことを気にする様子もなく、彼女は笑った。


「……決着は着いたようですわね、国王様」

「お前もな」


 自主的とはいえ誘拐にあったとは思えない風体だ。なんでお前そんな元気なの。『魔』もぶっ潰して不毛の地を作ってきたんだろ。それでもまだ力が有り余るとか普通に怖えよ。


 疲れも戦いの痕も、あまりにも微塵も感じないだけど。彼女の計画通りだとするなら、丸々二日、彼女は姿を消していたしついさっきケリをつけてきたはずだ。前にその化け物染みた体力に振り回された挙句疑問を口にしたら「公爵令嬢はこれぐらいでなければ務まりませんわ」とか言ってたけど何勝手に『公爵令嬢』を最強の生き物みたいにして責任転嫁してんだと心底思った。世の公爵令嬢はそんな体力お化けじゃねえよ。


 まあ本当に余裕があるのかは知らねえが。だってこいつは俺が知る誰より腹の底を誰にも見せない。自分のことは何も言わない。話す気はないんだろう、今回も。


 俺だってそうだ。シャロンと俺は友達じゃない。腹の裡すべてをさらけ出して解りあうなんて程遠い。

 ……けど。けれど。


「……なあ、シャロン。俺は、気づけたはずだった、よな」


 つい、漏らす。

 聞かずには、おれなかった。

 シャロンは片眉をくいっと上げて俺の目を見返してくる。それから笑った。


「……そうね。国王様、貴方はもっと早く、それこそ事件が始まる前から、気づけたと思いますわよ、そうしようと思えば」


 ああ、軽々しく言いやがる。俺がぐっと言葉に詰まれば、彼女は視線を俺から扉へと移す。同じように俺も視線を移して、そこに先ほどの弟の姿を幻視した気になる。苦く思い、けどシャロンは只軽い空気しか纏っていないから、「たられば」を思いつめるのが馬鹿みたいになって肩の力を抜く。


「だよなあ……」


 気づく機会はあったのに、気づけなかったのは。

 どうして、と何度も自問して、答えは薄々わかっていた。自分の事なんだ、大体わかる。


「気づきたくなかったんだよなあ……」


 身内の評価がズレていて、クロと確定するまで少しだけ、甘い。特にあの弟には、きっとそうだったんだ、俺は。ずっと。


「国王様、貴方にとってタロラード公爵は守るべき『弟』だったんじゃありませんの? ……それは当たり前で、どうしようもない普通のことですわ」


 甘さには違いないけれど、と。


 ……ああ、それは。

 馬鹿だな、俺は。本当に、どうしようもない。王としても、兄としても。俺の『それ』は甘さであって優しさじゃないのに。


「……お前の言う通りだな、シャロン……」


 大事だった。仕事は仕事だし、政敵として互いに担がれて争ったこともあったし、ずっと関係性は疎遠だった。

 それでも、とても大切な家族だったんだ。


 大きく大きく、息を吐いた。そんな俺を一瞥して、シャロンも一つ息を吐く。

 一瞬の静寂。そして……


 シャロンはパアンと手を鳴らし、空気をぶち壊した。なぜぶち壊した。今結構俺たちにしてはシリアスな空気だったのに。珍しかったのに。華麗にいつもの空気に戻っただろうが。すげえなお前の柏手。いい音だったぜ。


 しかもだ。


「全くいつまでも辛気臭いですわね、糞ほど似合いませんわ。その感傷は私に見せるべきものですの? 私は慰めませんわよ? お仕事もまだありますのよ。そろそろ腰を上げたらいかが? と言うか、急いだ方がいいですわ」


 ……。いや、うん。仕事はある。すげえある。目を逸らしたいくらいにあるよ。何現実見せてきてんだ。傷心中のおっさんを捕まえて働けってどんなブラック職場? 優しさが欲しいのにくれねえって明言されたのは初めてだ。


「え、なに、俺この状況で休みなく馬車馬の如く働かされんの? 俺国王なのに上司に叱られる部下の気分味わってるよ。すげえ新鮮な気分だけど複雑が過ぎるわ。お前が俺の上司だったのかよ初耳だ」

「私も初耳ですしこんなに腹の黒い部下はいりませんわ」

「そっかいらねえんだ。なあなんでさっきから俺に精神攻撃してくんの。俺なんかやらかしたか? 頑張っただろ? 慰めなくていいから誉めてくれよ」

「嫌よ」

「そんな真顔で拒否られるとは予想外過ぎて思ったよりダメージでけーよ」


 しかもさっきまで笑顔だったのに突然の真顔だ。本気度を感じるだろうが。

 が、しかし。シャロンは真顔のまま。


「大丈夫ですわ、私は序の口です」

「は?」

「国王様にとっての地獄は私ではありません」

「えっ?」


 ちょっと待て、これ以上のいったい何が、と顔をひきつらせた俺。ひきつらせたんだけど。



王妃(アリス)様へご報告をしていらっしゃいませんね?」



 ……。…………。………………っ!!!!!!



「あああああああああああああああ!」



 落とされた爆弾に、俺は床に崩れ落ちて絶叫した。












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