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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/37 貴方の愛に気づけなかったのに未来を紡ぐのは私の手(アレクシオ視点)


 さびしい。

 さびしい。


 近いのに遠い弟の瞳が語る。何処か昔から、俺には遠慮がある奴だった。その遠慮が嫌でお前を必要以上に振り回してきたことは自覚している。

 俺に反抗するように一人でひっそりしていることが多くなって、でも誰より独りぼっちを恐れていた、お前の手を捕まえたのは俺じゃなくてアイシャだった。


『彼女がいない世界はいらない』。


 極論だ。でも、それがクラウの全てだ。それをすべてにしてしまった。させてしまった。


 子供みたいな、幼子みたいな、そんな主張をきっと理性は理解しているのに妄執を棄てられない。周囲は騎士までそんなクラウに戸惑って、腰が引けている。ああ畜生、平和ボケが。シャロンにお前らぶっ飛ばされんぞ。


 怯むな。動け。それが仕事だ。お前らも俺も。それが責任だ。

 クラウが明らかに常軌を逸していても。


 ……ああ、いつから、こんなに。

 いつからこんなに、壊れてしまっていたんだろうな。

 こんな結果なら、正面から実力行使でぶつかり合った方が、よほどましだ。


 ――シャロンは言った。クラウに同情の余地はないと。それだけの罪を犯したのだと。

 そうだな、判ってる。いや、判っていると思ってたんだ、俺は。

 こんなバカな俺のことも、判っていたんだろう、あの何でも知っている少女は。


 その上で彼女は『自分の邪魔はするな』とくぎを刺したに違いない。自分の目的のためには清々しいほど容赦ねえ奴だし。


 だってあいつの一番の目的は、裏に居るっつう『魔』とやらをぶっ潰すこと。もしくは戦闘そのもの。なんなの脳筋なの。そして勝つ気満々だった。負ける賭けなどしない現実主義者で戦闘凶。超怖えよ。もちろんクラウにもキレていたし計画阻止は必須だろうが、『クラウシオ』と『魔』なら優先順位は真の黒幕たる『魔』なんだろう。


 だから、クラウシオ・タロラードを捕えるのは俺の役目で。

 あいつは明確には言葉にはしなかったが、……けじめをつけろと言いたいんだろう。


 兄として、王として。俺はクラウシオに引導を渡さなければならない。シャロンは俺の問いに答えた。処分は『司法機関のお仕事』だと。その司法の頂点に立っているのもまた俺なのだから。

 まったく、ニンマリ嗤うあいつが見えるようだ。本当に、性格が悪い。


 ……けど、これがあいつなりの優しさ、なのかもしれねえな。


「クラウシオ・タロラード。国家反逆罪で、お前を――捕縛する」


 個人的な感情は籠めない。今はそれをする場じゃない。

 俺の声に弾かれたように動き出した騎士たち。魔力も封じられ、武闘派でもないクラウシオには元から抵抗の術などないに等しいがそれでも先ほどまでの異常性がなかったかのように淡々と反論もない。……反論は、無かった。けれど。


「……ねえ兄上」


 笑声とは異なる、囁くような声で、呼ばれた。騎士に産まれた躊躇い一瞬。クラウシオは続ける。


「私は、アイシャを愛しているんです。だからこそ全部壊したかったんですよ。彼女が悲しむとしても私の行動の全てが狂気だとしてもこの情動が妄執だとしても」


 ただ真っ直ぐに、俺を見ていた。


「……」


 返せない言葉で、せめて俺はクラウシオを見つめ返す。ガシャリとなる手枷を気にも留めずに、クラウシオはつぶやきと同等の単調さで。


「私にはアイシャしかいなかった。アイシャだけが私の最愛だった。アイシャ以外は、私は私自身すらきっと愛していないんです」

「……クラウ、」

「でもね、兄上」


 何を言うべきかもわからず名を呼べば、それさえ遮るようにクラウシオが俺をまた呼ぶ。すでに我に返った騎士に引き立てられて、周囲は固められている。俺には一歩も近づけない。

 けれどそんな状況なんてないかのように。


「兄上、私は、馬鹿で優しくて深くて、私に少しだけ甘い貴方を、嫌いだったことは一度もないんです」


 それだけは、覚えておいてほしいと思うんですよ、と。言うだけ言って、つきものが落ちたなんて言い方は似合わないくらい、只平静に戻っただけのように変わらない落ち着いた声で。


 俺は、その姿が視界から消えてしまうまで、かける言葉が見つからなかった。

 ああ畜生。こんなんでも、俺はあいつの兄で、この国の『王』だ。同情なんてかけてはいけない。それだけは、してはいけない、


 それでも、なあ、話をしよう。


 今度は一対一で、話を。残された時間は、多くはないだろうけれども。

 最後に一度くらいは、兄として。

 ……それぐらいは、大目に見てくれよ、なあ。






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