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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/35 だから太陽であろうとする(アレクシオ視点)


 心の準備もなしに結論だけぶっこまれた俺は確かに可哀想だ。でも、悪かったのも、間違いなく俺だ。

 だって俺は気づかなかった。いつからクラウがそこまで追いつめられていたかなんて。


 ――なんで、なんて自問してももう遅い。『身内に対する評価がズレている』とはシャロンの言葉だったか。それが正しいなんて自覚はあったつもりなのに。

 俺がお兄ちゃんなのに、なあ。なんでわかってやれなかったんだと、遅いと判っていても後悔をやめられない。


 確かに王位争いからのちは、クラウとは疎遠になってはいた。けど、それでも気づけたはずだ。その機会はいくらでもあった。俺が即位してもう十五年以上たっている。住んでいるところだってあいつは王城の役職持ちなんだから近い。関係を修復するための努力なんてできない方が可笑しい。


 ……もちろん今それが分かるなら以前の俺にもわかるはずで、だから完全に放っておいたわけじゃない。あいつの妻――アイシャ・タロラード公爵夫人とは連絡を取っていたんだ、彼女が生きているころは。でも彼女が亡くなって、そう、それからあいつの時間は狂い始めたっていうのに、俺はあいつにどんな顔をして会えばいいかわからないなんて言う理由で先伸ばして。時折手のものに様子を見させてはいた。でも直接顔を合わせるのは、それこそ夜会や謁見、仕事の時くらいだったんだ。


 気づけば、こんなに時間がたってしまった。


 何も知らなかったわけじゃない。でも、もっときちんとあいつのことを知る機会がなかったわけでもない。

 合わせる顔がなかったのはアイシャが王都に来る道中で亡くなったからだ。俺たちを囲む周囲の目も、今までの関係性も、そしてあいつと俺の現状も、邪魔臭くてでもどうしようもねえしがらみだった。


 ――それでもアイシャが死んで、あいつの様子が変わったのなんて、判りやすすぎるくらいわかりやすかったのに。


 アイシャとクラウの関係はよく知っている。俺もまた、彼女の幼馴染であったのだから。

 クラウは、深く深く、妻を愛していた奴だった。アイシャがいれば、大丈夫。そう思えるほどに。それがいきなり彼女を失えば、心の均衡を崩したっておかしくない。


 なぜ俺はあの時、強引にでもあいつの手を掴んでおかなかったのか。

 拒絶を見越して躊躇った俺は馬鹿すぎる。

 振り払われても罵られても捕まえなきゃいけなかったんだ。


 ――かつて、只の王子だったころ。俺が馬鹿をやって、クラウが呆れて。そんな兄弟だったのに、どうして、いつから……どちらから、こんなに離れてしまったのか。『身内に対する評価がズレている』と、少女に指摘されるほど俺は頓珍漢なことをやらかすという自覚があったのに。


 もしも、気づけていたら。

 畜生、本当に馬鹿だ、俺は。


 シャロンがいたら、『もしも』を考えることに意味はないと鼻で笑われるだろう。そういう奴だ。まったく容赦がない。繊細な中年の心をいたわってほしいと思うが『貴方がそんなタマですの? 冗談はそのチンピラ口調だけにして下さる?』って失笑されるにきまってる。だって俺ならシャロンが『もしも』を言い出した瞬間『お前がそんなタマかよ? 手札の全て使ってでも自分のいいように周囲を操る女が冗談言うな』って返すもん。ほら俺たち同類だから。


 ああまったく事実過去をどれほど悔やんで選ばなかった道を夢想することに意味はない。なさすぎる。

 出来るのは今ある現実を、目の前をただ見て、進むことだけ。

 そうやって今までやって来たしこれからも俺はそうしていくんだろう。


 そうしなくてはいけない。だって俺はこの国を背負っている。


 だから、俺は。

 断罪のために、ここに来たんじゃねえか。


「……クラウシオ・タロラード」


 俺は弟の、今の名前を呼ぶ。








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