表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
109/661

3/33 貴方の愛を知っていても過去だけに全てを捧げている(クラウシオ視点)


 ――娘は茶会に招待をした。何かに感づいたのか、その弟は置いてきたようだが、一人でのこのこと現れた少女は己の力に驕っていたのだろう。

 それが証拠に問い詰めれば自分から所業をぺらぺらとしゃべったんだ。挑発でもしているつもりだったのか。馬鹿な小娘。何にも知らない、温室育ちのお嬢様。


 ――『『あなたの計画』? 馬鹿馬鹿しいですわね。魔たるものに踊らされてただけでしょう? あなた自身は、何にも持ってなどいないでしょうに』

 ――『欲は誰でも存在するもの。それを責められはしませんわ。他人を巻き込むことだってあるでしょう。ですが命はあがなえないのですよ』


 不敵に笑って言っていた。

 馬鹿な娘だ。愚かな娘。あの『魔』に屠られて今頃は屍だろう。


 少女の言葉は間違いではない。


 正しく何も持っていない。だって私にはアイシャしかなかった。爵位も金も容姿も要らない。ただアイシャだけが欲しかった。彼女が全てだった。

 この命を捧げて彼女がよみがえるのなら喜んで差し出しただろう。悪魔に命を売る事さえやぶさかではなく実際に『魔』と手を組んだ。


 ――けれど、『命は贖えない』。


 判っている。判りたくないのに、判らないほどに狂えばよかったのに、それでも私は理性があったから、狂気を飼いながら思考をやめられなかったから。

 彼女はもう帰ってこないことを知っている。


 でも彼女に逢いたいのだ。アイシャを愛している。アイシャだけを恋うている。彼女がいない世界なんて意味がなくて、彼女を失わせたこの国は腐っていて、だから全部壊して私が彼女の下へ行く。

 きっと叱られるんだろう。『何をしているんですか』と。『まったくあなたと言う人は』と。悲しい顔をさせてしまうかもしれない。


 でも、もう止まれない。

 これは、私の妄執だ。


 ああ、アイシャ。アイシャ。

 君に会いたい。君だけが欲しい。君だけを愛している。


 君が悲しむと判っていてまでこの行為を続けることを『愛』とは呼ばないと、誰が糾弾したとしても。

 理解されなくていい。許されなくていい。


 もうすぐ会えるんだ。アイシャ。一人にして済まなかった。寂しかっただろう。大丈夫、もう二度と離さない。死さえも私たちを別てはしない。

 たとえどう転んでも、私は君のところに行くから。


 ……ああ、屋敷が騒がしい。


 目を細める。張り詰めた空気。複数人の気配。漂う魔力。

 ああ、あの人は私をどうしても邪魔をする。

 馬鹿で優しくて深い人。

 私に甘いあの人は泣くだろうか。もう十年以上、涙など見たことがないけれど。


 もう少しだった。この国を壊すことは、けれど私がいなくても『魔』たるものだけで十分ではあるだろう。

 不思議なくらいに恐くなどはないんだ、アイシャ。あの人は私の全てをいつだって凌駕していたけれど。いつだって勝てないけれど。 

 でも、ここまで隠せたことは初めてだ。なりふり構わなくなればここまでできるのかと自嘲する。


 扉の向こうで足音が止まった。この部屋に私がいることはばれているのだろう。当り前だ。私は気配を隠してもいない。

 アイシャ。君との時間を邪魔されたくはなかったのだけど。


 ――でも、あの足音は、そうか。


 ああこれは行かないといけなさそうだ、アイシャ。あの人は私が出迎えるべきだろう。それが私のなけなしの誠意だ。

 本当に、怖くはないんだ。


 あの人への親愛よりアイシャへの情愛をとって、ここ数年ずっと裏切り続け欺き続けてきた。

 それでも私に甘いあの人を、私はきっと妬んで嫉ねんで、うっとおしがっていたのは事実だけど。

 アイシャだけが私の最愛だけれど。


 どうしても嫌いにはなれない、兄上。


 少しだけ話しに行ってくるよ、アイシャ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ