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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/32 心臓を捕らうもの(クラウシオ視点)


 計画はひどく順調だった。穢れた石を国に散らばらせる。古代に忘れ去られたはずの魔術陣。非道の術。たくさんの血が流れて、魔物が国に跋扈する。……兄上はいつ気付くだろうか。有能な兄だなんてわかっている。でも身内を証拠をつかむまでは信じる性質の人間だとも知っている。そしてかつて退けた政敵であり実弟の私に、少しだけ甘い。


 それを利用する私は恩も恥も知らぬ冷血な人間かもしれない。それでも私の最愛はアイシャなのだ。


 ……大丈夫だよ、アイシャ。

 これだけは、この計画だけはあの兄に邪魔はさせない。そしてあの兄が何より大事にしている、この下らない国を終わりにしよう。


 アイシャ、そんなに時間はかからないから。

 どれだけ時間をかけても十年の内には結果が出る。だってあの恐ろしい『友人』はとても移ろいやすい興味しかもっていない。気まぐれで起こすあそびなら彼がどれほど時間感覚を失っていても十年以上は続かないだろう。


 だからその前に終わらせる。正しくは、終わらされる。

 主導権が私にないことなんてわかっているんだ。それでもいい。それでもよかった、計画が成就するのなら。


 ――なのに。


 ああ、アイシャ。なぜだろう。最近、ひどく、邪魔が入る。

 初めは誰がそれをしているのかわからなかった。苛立った。下らない国に生きる下らない人間が、馬鹿なことを喚きながら私の邪魔をする。


 どうして、邪魔をする。どうして。

 これは君に会う事への妨害にさえ思える。多くの人に愛された君。君は私を選んでくれたけれど。

 誰にも君を渡したくない。どうか私だけのアイシャでいてほしい。

 逢いたいんだ、狂おしいほどに。


 ……本当は理解している。『魔』たるものを利用してこの国の転覆をもくろめば、それにわずかでも感づいたものがいたなら、阻止されるだろうことくらい。当り前だ。国王である兄上でさえ気づかないように立ち回っていても上には上がいる。


 私に正しさなどないし邪魔をしてくる人間は正常な感覚を持っている。


 それでも。それでも、やめる気はない。

 邪魔をするなら、殺してでも排除する。

 人を殺して、その命を生贄にして、それでも何も思わなくなった私は、異常だ。屋敷の人間ですら最近は私を遠巻きにする。


 理解されなくていい。狂気と理性の共存。


 例えば調べて、探って、『彼』と情報を合わせて、やっとつかんだその邪魔者の正体がまだほんの少女であったとしても。


 ――シャーロット・ランスリー。

 魔力だけが取り柄の公爵家の令嬢。幼い正義を振りかざして、私の邪魔をする少女。善悪だけで世界が割り切れたら楽だろう。けれどそんなきれいごとは通じない。

 ああ、あの子供を殺さなくては。


 アイシャ、心配などは、しなくていいよ。

 あの兄はまだ動くほどに何も掴んでいない。あの令嬢は勘はいいようだが子供のいう事を、聞きはしないと思うのか個人で動いている。それは私についている、おぞましい『友人』も同様の見解だ。


 だから今度、その小娘を屋敷に招待する。そうすればもうあの子供は終わりだ。魔術陣の生贄ついでに、私の『友人』が躾を施してくれると、愉悦をにじませた瞳で言っていた。


 これで、邪魔する者はいなくなるよ、アイシャ。

 アイシャ、もうすぐ会えるよ。

 この国は壊れるよ。

 ……優しい君は喜んではくれないかもしれないけど、アイシャ。










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