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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/30 彼女は正義じゃないけれど(エイヴァ視点)


 よく聞けばかなり物騒な内容なのだがどうしてこんなに爽やかに言い切っているのだろう、この娘。潔すぎて剛胆すぎて意味が分からない。本当に人間だろうか。


「人間よ」


 なぜばれた。

 人外かといぶかったのがなぜばれた。我は口に出していないぞ。話さなければ伝わらないのではなかったのか。いらないところで以心伝心している。そんなに顔に出ていたというのか。ああ、この娘、本当に――


「お前は、本当に、訳が分からない」


 小さく、呟く。ため息が漏れた。

 何故だろう。初めてだ、こんなに話したのは。この軽い言い合いが、妙に楽しくて、嬉しくて。


 寂しい。


 ――寂しい。


 ああ、そうだ。認めるしかない。さびしかった、のだ。我は、ずっと。

 理解されなくて。たった一人で。孤独で。拒否されて。接し方も分からずに。こうして少女と話せば話すほど、かつての寂しさが浮き彫りになる。この幸福を手放したくなくなる。破壊ではなく手を取って、顔を合わせて、話ができる今がずっとほしい。


 それができないなら、死にたい。……けれど。

 ――少女は我を殺さぬという。『救う』気などないのだという。ああ、確かに、我にとって『死』は救いなのだろう。

 この渡り合えるものを知った後。対等なものを知った後。他愛ない会話の喜びを知った後に、我はまた、置いてゆかれるのか。


 寂しい、なあ。


 思ってシャーロットから目を離し、口の端で笑った。すると、彼女は声をあげて笑う。

 笑って、言った。


「『訳が分からない』ね。よく言われるわ。でも、それが私なのよ、諦めなさい。そんな私だから、貴方の相手がこうしてできているのよ」


 ――だからあなたも学びなさい。


 我は弾かれたように彼女を見上げた。

 笑った顔は、ひどく優しい。空耳、だろうか。彼女は。

 優しいと、温かいと、思った。


 ――それは、寄り添えると。

 傍に居てもいいと。

 もう、一度。


「あなたの今後について、私は知らないわ。私が手を下すつもりは少なくともないし、国があなたを捕えられるとも思わないわ。ちゃんと、自分の頭で考えて、今までとこれからの自分を決めればいいんじゃないかしら?」


 ――まあ、貴方が馬鹿な行動をすれば、何度でも潰してあげるわよ。


 そうしてケラケラ笑って、彼女は私から離れていく。離れていく、けれどもそれは、離別ではなくて。

『再会』を、厭わない。

 愚かな男などどうでもいい。『遊び』のことも、どうでもいい。

 それよりも、少女だ。


 ――シャーロット・ランスリー。


「いいのか? もう一度、我が」


 会いに、行っても。

 傍に行きたかったが、身体は動かなかった。言葉だけを、募らせる。


「我は――」


 ふと。

 彼女が笑った、気がした。


「――罪を許すとは言っていないわ。でもあなたはあまりにも何も知らない。考えなさすぎる。それじゃ意味がないのよ」


 ――精々足掻けばいいわ。


 冗談めかして、少女は。


「――じゃあ、また(・・)


 言い残して、姿を消した。

 優しい優しい、強い少女。

 学べと言った、美しい人。

 弱さを、傲慢を突き付けて、そうして我を生かした少女。

 我は……


 世界が再び、色づいた、気がした。










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