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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/29 その生き様(エイヴァ視点)


 それは。

 ――ああ、それは。


「……やめろ、娘」


 図星、だった。

 最初から、今も、彼らは私に劣る存在だと思っていたことは、否定しない。

 否定、出来ない。


「嫌よなんで私があなたに優しくしなくてはいけないの。自覚なさい、貴方は知ろうとしなかった。見下し続けた。それがあなたの傲慢で過ち」


 そして、と彼女は続ける。それを遮るように我は叫んだ。


「やめろ、やめろやめろやめろ。殺せばいい、我を殺せばいい! 出来ぬはずがないだろう!? 終わりにしてくれ、この世界、潰してしまいたい、ああ、何もかも……!」


 もう、終わらせてくれ。


 動かぬ身体を縮め、精一杯の声を絞り出す。

 けれどそれでも、言葉を邪魔された少女は、大きな大きな、ため息を一つだけ。

 そうして、吐かれた言葉は。


「だから嫌よ。そんなに死にたいなら自分で死ねばよかったのよ。タロラード公爵もそうだけれど他人を巻き込まないで自己完結してほしいものだわ。とても迷惑よ。今までもこれからもそれくらい簡単にできるでしょうに。でもあなたはそうしなかったわね。それはまだ、この世界に期待していたからなのかしら」


 ――だとしたら、甘えないでくださる?


 そう、ひどく、冷たく。

 ――『期待』? そんなもの。もう、我は。


「この期に及んで目を逸らすなんて往生際が悪いのね。力があるからってうぬぼれ過ぎじゃないかしら? 何時からあなたは万能になったの?」


 ナイフのような、言葉。

 我には、力があって。人は弱く、愚かで。我にはとても並べぬ、存在で。

 諦め、見捨てた、そう、我が捨てた(・・・・・)、ただの『玩具』……


「すべてあなただけが悪かったとは言わないわ。でも、一人ぼっち(・・・・・)の自分を受け入れられなかったのが、貴方の弱さでしょう」


 目を見開く。


『一人ぼっち』。

 ――ただ、我は孤独で。

 でも、我を拒絶したのは。我の、孤独の源は。

 人で。

 弱い弱い愚かな存在に拒否された、それを思い上がりだと思った。対等に考えたことなどなかった。

 諦めた。世界に厭いた。退屈で下らない世界……。


「破壊も殺戮も、その根拠は何だったか考えてみた方がいいわ。貴方単純で……多分馬鹿よね。頭いいくせに……馬鹿よね。もうちょっと物事を深く考えなさい」


 なんでこの娘、我が大体のことを考えるのが面倒くさくて流していたことを知っているのだ。


「考える……」

「そう。貴方の行動は子供の癇癪ととても似ているわ。本能と反射だけで考えない。いいえ子どもの方がまだ考えてるわね。どっちにしろ規模がけた違いだけれど。手におえないレベルね。だから迷惑なのよ」

「お前、心底迷惑がっているのだな……」

「自分の国を潰そうと画策されて迷惑じゃない人間がいたらそれは逆賊か自殺志願者よ。他人の心や考えなんて同じ人間同士でも言わなきゃ伝わらないじゃない。拒否されてもちゃんと言葉で叫ばなきゃ誰も分かってくれるわけないでしょう。それも対等な目線でやることが大事ね。見下されるのも見上げられるのも大体楽しい話し合いにはならないわ」

「……聞いてくれるわけがない」

「当り前じゃない。寝ぼけてんの? そもそも違う種族・違う寿命・強大な力っていう壁が立ちはだかっているのに加えてこれまでの行いが悪すぎなのよ。『知らなかった』で済まないくらいにやりすぎているわ。歩み寄りが必要だって聞こえなかったのかしら。貴方はこれまで自由気ままにやりたいことを思う様にやってきたといった。それが真実かは別として、その感情は人間だって持っていると考え至るべきね。人間もやりたくないことをやれと言われたりしたら不愉快に決まってるでしょう。それも上から言われるのよ? そんなの嫌よ。だからこの世には革命や反乱があふれてるのよ」


 ハッと少女は鼻で笑った。綺麗な笑顔だった。

 ……。………。


 いや、ずいぶんと。勝手な言い分だな?


 毒気を抜かれるほどに、手前勝手で自分本位。


「お前も、自由気ままに生きているのではないか」


 それも上から目線で傲慢さあふれるこの感じ。なんという支配者感。思わず言えば、ため息をつかれた。


「傲慢さが私のトレードマークよ。でも私は家族も友人も同類もいるわ。だって好き勝手生きて行きたいからお膳立てしたもの。それが許されるだけの基盤をつくったの。それをする努力を惜しまなかった。他人に迷惑をかける事もあるけれどそれを理解してもらおうとする姿勢を崩したことはないし、分ってくれなくてもいいと切り捨てることにはそれだけの覚悟と理由があるのだと周囲に察してもらえる程度の関係性を築いてきたの」


 だから頭を使いなさいって言ったでしょう。


 そういう彼女は、とても、笑顔だった。







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