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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/28 神にもなれない独りぼっちの(エイヴァ視点)


 毒を……えっ、毒を吐いた。慈母のような顔で辛辣だった。

 あまりにもはっきりすっぱり言い切られて、我は少しだけ目を見開く。


「……なぜ?」


 困惑に顔を歪めて問いと共に見返せば、シャーロットは唇に乗せた笑みを深める。

 でも、瞳が笑っていなかった。


「……自分の頭で考えなさいな。勝手すぎるのよ、貴方。なぜ私が、貴方を『救って』差し上げなければならないのかしら、意味不明よ」


 はっはっは、と少女は笑った。先ほどまでの闘志など微塵も感じさせない涼しい美貌と軽快な笑い声。

 軽快なのは笑い声だけだが。ぞっとした。


「それは、貴方にもいろいろあったのでしょう。エイヴァ……『永久(とこしえ)』を意味する名を持った、最古の『魔』。その規格外と孤独を知らないわけではないわ。確かに私にも覚えがあるもの」


 ――特別って嫌よね。だってみんな勝手に期待して勝手に失望するんだもの。消し炭にしたいわ。


 言いながら、けれど彼女の瞳に憂いはなぜだか無い。笑みもないが。あと過激派だが。消し炭って。その思考回路、我とそんなに変わらないと思う。

 ただ、我を殺すことを拒否した口で彼女の言うそれは孤独と絶望。

 およそ誰にも、理解されることがないもの。


 ――なのに。


「……なぜだ? なぜ殺さない? わかるのだろう? 理解、しているのだろう? だったら、なぜ、」


 どうして、この少女はこれほどまでに明るいのだ。我が勝手とはどういう意味だ。勝手は、縋ったくせに我を恐れ遠ざけた人間ではないのか。


「お前は、どうしてそれで、笑えるのだ?」


 まだその人生が、短いからか。


 そう問えば、一瞬だけ彼女は瞠目したように見えた。けれどもすぐに、ため息を吐く。


「あなたって本当に……純粋で、馬鹿ね? 脳みそが冬眠でもしているの? かち割って引きずり出しましょうか? 大丈夫死なないようにやるわ。上手なのよ私」


 猟奇的な暴言を吐かれた。口が悪い。上手ってどういうことだ。そんなことが上手でどうするんだ。というかやったことがあるのか。経験者か。誰が犠牲になったんだ。

 思わず沈黙を選んだ。すると彼女は呆れたように続ける。


「わからないの?」

「分らぬ」

「……私は確かに強いわよ? 全力を出したことなんてなかったし、いつでも手加減が必要だったわ。貴方にも勝ったしなんならまだまだ遊べるわよ。それを理解されたことはないしひとによっては妬まれ嫉まれ恐怖される。そんなことは判っているわ。経験したもの」

「だったらっ」


 声を荒げる。体が悲鳴を上げたがどうでもよかった。……が。


「でもだから何だっていうのかしら」

「……は?」


 心底不思議そうな顔をして、彼女は言い切ったものだから間の抜けた声が出た。何てバッサリ前提を切り捨てる娘なんだ。潔すぎる。ちょっとカッコいいとか思ったではないか。

 ではなくて。


「は? そこでなぜどうでもよさそうになるのだ」

「だって私、家族がいるのよ。友達もいるわ。ストーカーだけど。同類もいるわね。チンピラタヌキだけど」


 孤独に酔い溺れる理由がないと、ひらひら、シャーロットは手を振った。

 それは、つまり。

 我が溺れているとでも、言いたいのだろうか。あと我がボッチだと言いたいのか。そうなのか。そう内心思ってジト目になれば。


「あなた、年季の入りすぎたボッチよね」


 この娘、心を読んでくる上に遠慮がない。


「今のは傷ついた。我は傷ついたぞ」

「そのまま流血してしまいなさい。……まあそれは、あなたは『魔』で、理解されにくいでしょう。たいていの人間は貴方を拒絶したはずだわ。だって、貴方は強すぎるし価値観も違う。人間として、同じ生き物にはみられないもの」


 ――判っているのでしょう?


 そう、彼女は言って、そのアメジストの瞳で我を見据えた。

 ……何も知らないくせに。いや、同じ孤独を知っていても、過ごした時間の長さだけ、我の方が飢餓は深い。……だというのに。


 その鋭さから、逃れられない。


「迫害、それは確かに人の罪よ。人の弱さだわ。――それが、貴方を狂わせた一端だとして」


 的確に、少女は告げる。まるで見てきたかのように。

 正確に告げられるそれは人に絶望したきっかけだ。人を糾弾する言葉。彼女もまた人であろうに。同情にも、我に同意するようにも取れる言葉だ。

 ――でも、なぜだろう。


「……やめろ」


 呟く。聞きたくないと思った。その先の言葉を。

 心を抉られるかのような、言葉を。

 なぜ? わからない。ただ予感がした。

 けれど少女は容赦なく。


「……でも、貴方も知ろうとしなかったでしょう。見ていてわかるわ、勝手すぎるもの。一方的に求めることを歩み寄りとは言わないのよ。合わせてもらえなかったからと言ってあなたも合わせようとはしなかったんじゃない? どうしてしなかったの? 価値観が違う、種族が違う、寿命が違う。それが何? それってどうしても越えられない壁? 違うでしょう? あなたは思っていたんじゃないのしら」


 ひたりと見据えられて、我は。



「――『人より自分は高位の存在で、他者が自分に合わせるべきなのだ』と」












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